明瞭めいりょう)” の例文
もっともこの物語の後に於て判るように、このことがどんな事実であるかということを明瞭めいりょうに知っているはずの二つの関係があるのですが
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてあまりによく理解されることを、けっして恐るるな。影もなく覆面もなく、明瞭めいりょうに確実に、必要によっては重々しく、語れよ。
何よりも明瞭めいりょうに、日本の自然、日本人の自然観、あるいは日本の自然と人とを引きくるめた一つの全機的な有機体の諸現象を要約し
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
極めて簡単明瞭めいりょうなるその配色はこれがためにかへつて看るものをして自由に時間と空気と光線の感覚を催さしむるの余地を与へたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「最後の晩餐ばんさん」の研究なのだが、晩餐の十三人が、それぞれ食卓のどの位置についていたか、図解して、とても明瞭めいりょうに教えてくれた。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
むしろ気分が落ち着いて来ると、今度は前よりも一層明瞭めいりょうに、一層執拗しつように、ナオミの肉体の細々こまごました部分がじーッと思い出されました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……すこぶる簡単明瞭めいりょうであった。しかも、それだけに私達の秘密生活は、百パーセントの安全率を保有している訳であったが……。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まったく夢のようで夢ではない。見れば見るほど記憶きおく明瞭めいりょうになって来て、これを書いた当時の精神状態せいしんじょうたいも墨も筆も思い出される。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その一部にいくつもの赤い屋根をつばさのように拡げたサナトリウムの建物が、ごく小さな姿になりながらしかし明瞭めいりょうに認められた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そして頭がはっきりして来るとともに、今まで切り放されていたすべての過去があるべき姿を取って、明瞭めいりょうに現在の葉子と結び付いた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
概してこの最近数日間というもの、彼は自分でも自分の状態を明瞭めいりょうに、完全に了解するのを避けようと苦心していたような風であった。
と答えながら、彼の観察の源は明瞭めいりょうだった。私の横に伏せてある本の表紙には“ハイライト著 密室殺人事件”と印刷されてる。
浴槽 (新字新仮名) / 大坪砂男(著)
昔、大将の母君のあおい夫人の葬送の夜明けのことを院は思い出しておいでになったが、その時はなお月の形が明瞭めいりょうに見えた御記憶があった。
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
はたまた日本人にばかり特に、かつ頻繁ひんぱんに繰り返されねばならぬ事情があったのか。それすらも現在はなお明瞭めいりょうでないのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ランプがすすだらけで暗いものだから、この頭も煤だらけになって映って来た。その癖距離は近い。だから映った影は明瞭めいりょうである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今日における我々日本の青年の思索しさく的生活の半面——閑却かんきゃくされている半面を比較的明瞭めいりょうに指摘した点において、注意にあたいするものであった。
最初さいしょ彼女かのじょおこった現象げんしょうしゅとして霊視れいしで、それはほとんど申分もうしぶんなきまでに的確てきかく明瞭めいりょう、よく顕幽けんゆう突破とっぱし、また遠近えんきん突破とっぱしました。
そこには旅団参謀のほかにも、副官が一人、通訳が一人、二人の支那人をかこんでいた。支那人は通訳の質問通り、何でも明瞭めいりょうに返事をした。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども、この明瞭めいりょうな現実の根柢こんていであるところの種族を黙殺して、何の知性が種族の知性となるのであろうか。梶はこう思う。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
きわめて簡単明瞭めいりょうなる事実であったが、その簡単であっても、その事のために入費がかかるということも明らかなことだった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
九年、皇后御病いの折の、天武天皇の憂いは申すまでもない。薬師寺建立の勅願も、この史実をふりかえってはじめて明瞭めいりょうとなるであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
勝つとはなにかとたずぬると、おそらく世人せじんは奇怪なる質問と思うであろう。勝負ほど明瞭めいりょうなものはないと思う人が世に多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
彼の生涯の線に宝沢法人が顔を出したり消えたりしたいくつかの時代が、不思議な明瞭めいりょうさをもって彼の脳裡のうりよみがえってきた。
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
興奮のためのどを鳴らしはじめながら、まだ明瞭めいりょうに聞き取れはしない調子で言ったが、どうせそんなことになるだろうと予期していたKも仰天し
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
このことは、道江の今度の上京の意味を考えてみるまでもなく、かれにとっては、あまりにも明瞭めいりょうなことだったのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
その真偽をためすためには、次のような簡単な計算をして見れば、問題は極めて明瞭めいりょうになる。この円は直径六センチあって、線の幅は〇・二ミリである。
地球の円い話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
地名は時間の区別に比して更に明瞭めいりょうなる区別なれば、俳句に地名を用うるは最簡単なる語を以て最錯雑さくざつなる形象を現はすの一良法なりといへども
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ポティダイアの陣営におけるソクラテスとアテナイの市場におけるソクラテス——これほど明瞭めいりょうに瞑想と思索との差異を現わしているものはない。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
(フランツは明瞭めいりょうな事実の反対を見るのに特殊な才をもってるかのようだった。もしくは、反対を信じて矛盾の面白みを味わってるようだった。)
常子も松島も明瞭めいりょうなことはわからず、彼女もたまに返してもらえば、思わぬ株の配当でももらったような気がするのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あまりさびしいので、昔は嫌いなものゝ一にして居た蓄音器ちくおんきを買った。無喇叺むらっぱの小さなもので、肉声にくせいをよく明瞭めいりょうに伝える。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
つまり部屋一杯の人の顔、それが生きてうごめいているのです。映画なぞでないことは、その動きの静かなのと、生物そのままの色艶いろつやとで明瞭めいりょうです。
鏡地獄 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さてこう切字に印をつけてみると、私が前に一例として出した「や」「かな」「けり」の三つの切字が、比較的に多いことが明瞭めいりょうに証明されました。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
右の表によりて見る時は、われわれの所要熱量は労働中と休業中とによりて大差あり、また労働の種類によりて大差あることが、きわめて明瞭めいりょうである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
月光に明瞭めいりょうに照された青年の顔は、端正な目鼻立ちにかすかな幽愁ゆうしゅうを帯びてゐた。青年はやゝ控へ目に声をかけた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
なんでも彼方あちらの習慣通りにやられてはたまらない。ぼくが会って、あなたのことも、明瞭めいりょうに、あやまらせて置きます
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
すべて私の見解にはあまり明瞭めいりょうすぎて、露骨なほど明かに書いておいたから、いま質問を受けるのを遺憾と思う。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
……その答が余り簡単で明瞭めいりょうでおまけに平凡であったから。……けれども、この場合の平凡たるや、世間の名詞は、巡査のためにはことごとく、平凡であったろう。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、怒りというよりそれが羞恥しゅうちであり、ある屈辱の我慢であり、外側にむかって爆発し挑みかかるなにかではなく、内側へのそれであることは明瞭めいりょうだった。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
「また巧妙ではあるが、簡単で明瞭めいりょうだよ。で君はその『僧正の旅籠』を出て、それからどうしたんだい?」
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
(両手にて取りいたる画家の手を放し、椅子の背に寄りかかる。)わたくしの申す詞は明瞭めいりょうでないかも知れませんが、それは御勘弁あそばさなくてはいけません。
夫人は、明瞭めいりょう流暢りゅうちょうに、何のよどみもなく云った。が、何処どことなく力なく空々しいところがあったが、信一郎は夫人の云うことを疑うたしかな証拠は、少しもなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その空気は、やがて明瞭めいりょうな形をとって現われて来た。三木の城主、別所長治の寝反ねがえりがそれである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またそういう女壮士の殺風景な政治運動は故中島俊子なかじまとしこ女史の娘時代や近年の故奥村五百子刀自おくむらいおことじの実例に見て、さまでなつかしい性質のものでないことは明瞭めいりょうであるから
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
生地についても素性についても諸説があって明瞭めいりょうを欠くのは、その出身があるいは庶民の間にあったからかも知れない。はじめ歌は飛鳥井家につき、後東常縁についた。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
換言すれば、両眼の位置に基づいて、水平は一般に事物の離合関係を明瞭めいりょうに表わすものである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
そこで吾人は、この明瞭めいりょうにされた認識から出発して、現詩壇の実情する自由詩をながめてみよう。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ドールン それに、もう一つ大事なのは、作品には明瞭めいりょうな、ある決った思想がなければならんということだ。なんのために書くのか、それをちゃんと知っていなければならん。
ここに吾人ごじんは、ディーニュの司教のすまいの明瞭めいりょうな概念を与えておかなくてはならない。
……そのいささかも不安もなさげな、彼の話をきいていると、実際、空襲は簡単明瞭めいりょうな事柄であり、同時に人の命もまた単純明確な物理的作用の下にあるだけのことのようにおもえた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)