放逐ほうちく)” の例文
この一条については下士の議論沸騰ふっとうしたれども、その首魁しゅかいたる者二、三名の家禄かろくを没入し、これを藩地外に放逐ほうちくして鎮静ちんせいを致したり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「アハハハハ、君は気でも違ったのか。大河原さん。この熱病やみを放逐ほうちくして下さい。こんなことを喋らせて、あなたは平気なのですか」
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その何処いずこにも興味を見出みいだし得なかった彼は、会談の圏外けんがい放逐ほうちくされるまでもなく、自分かららちけ出したと同じ事であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
教官怒つて彼を放逐ほうちくしたれども、スピノザは遂にスピノザなりき。ユーゴーがナポレオン三世のために追放せられたるも同じ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして、安次を最も残忍な方法で放逐ほうちくして了ったならば、彼は秋三の嘲笑を一瞬にして見返すことが出来るように思われた。
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「さようさ」と老師は打ち案じたが、「悔悟かいご致して善道につくと、もし誓言致すようなれば放逐ほうちくなされてもよろしかろう」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その一人は、佐脇藤八郎さわきとうはちろうといい、ことし十四の少年で、信長の勘気にふれて先年放逐ほうちくされた、前田犬千代の実弟だった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お前の心から暗黒を放逐ほうちくし、不自然でもかまわぬ、明るい光を添えて見ろ、と自身を叱り鞭打むちうって、自分の航路を規定したく、かじくぎづけにする気持で
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あの方が放蕩をやめなかったことも、ついには勘当放逐ほうちくということになったのも、みな自分の責任ではないか。
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
現に基督キリストのごときは前にも述べたごとく柔和にゅうわ主義の教えを垂れたるにかかわらず、ときには大いにいきどおり、綱をもって神殿をけがした商人を放逐ほうちくしたことがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
で思切つて此の一家内かないのむほん人を家から放逐ほうちくするだけの蠻勇ばんゆうも無かツた。雖然家は周三よりも大事である。結局周三を壓伏あつぷくして自分の考に服從ふくじゆうさせやうとした。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
弘道館の現制に反抗した我輩等はその主張のれられないのは無論むろんのこと、おまけに我輩はこの学制改革の首謀者の一人として、年十七にして放逐ほうちくされたのである。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
可愛い娘に別れてややヒステリックになっている溝口の細君は、お筆を放逐ほうちくしてくれと夫に迫った。
有喜世新聞の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ここにおいて檄文げきぶんを造り、これを飛ばして、国人中に同志を得、共に合力ごうりょくして、辮髪奴べんぱつどを国外に放逐ほうちくし、朝鮮をして純然たる独立国とならしむる時は、諸外国の見る処も
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
この決心は、かれが第一回目の開塾以来考えぬいた結果固めていたことで、朝倉先生がそのために自分を放逐ほうちくするといわないかぎり、ひるがえさないつもりでいたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
左膳の娘はななる者が、奥向おくむきへ御奉公中、せん殿様のお手が付き懐妊の身となりしが、其の頃お上通かみどおりのお腹様はらさま嫉妬深しっとふかく、お花をにくみ、ついとがなき左膳親子は放逐ほうちく仰付おおせつけられ
ところで、海賊王デルマにはもう一人、ツクーワという部下がおったが、こいつは肚黒はらぐろいやつで、デルマを裏切ったことがあるので、放逐ほうちくされて宝のわけまえにあずからなかった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その技師は不都合のかどがあって、M商店を放逐ほうちくせられたのであると云う事であった。
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
放逐ほうちくされると覚悟をすれば、何もおそれる事は無いと度胸をめ、ある夜師の坊の寝息を考え、本堂のえんの下に隠してある、例の待網を取出とりだしての小溝へ掛けたが、今夜は如何どうした訳か
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
従ってそれは単なる破壊や暴動とちがうし、単なる政権の更迭こうてつやクーデターとも異なる。単なる国王の放逐ほうちくだけをもって「人的革命」とか「易姓えきせい革命」とかいうが、それだけでは真の革命ではない。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
無論むろん放逐ほうちくすることなどはぬので。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わたしを島に放逐ほうちくしたら
ソレはその時塾に居た小野友次郎おのともじろうが警視庁に懇意こんいの人があって、極内々その事を聞出して、私と同時に後藤象次郎ごとうしょうじろうも共に放逐ほうちくたしかに云うから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
堯舜ぎょうしゅん禅譲ぜんじょうにはじまり、は四百年十七代、桀王けつおうに及んで成湯せいとうのため南巣なんそうの野に放逐ほうちくされ、これがまあ支那における武力革命の淵源とでもいうのでしょうか
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
江戸町奉行所の前で、百のむちに打叩かれた果て、罪のむしろから放逐ほうちくされた——あの時の姿のままの又八である。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此処こゝこして来ましたのはぜん申上げました右京様の御家来藤原喜代之助で、若気わかげの至りに品川のあけびしのおあさと云う女郎にはまり、御主人のお手許金てもときんつかい込み、屋敷を放逐ほうちく致され
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
待網を掛けて雑魚ざこを捕りひそかに寺へ持帰もちかえって賞玩しょうがんするのだ、この事檀家だんかの告発にり師の坊も捨置すておきがたく、十分に訓誡くんかいして放逐ほうちくしようと思っていると、当人の方でもあらかじめそのあたりの消息を知り
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
お館に取って不為を働く側女鳰鳥におどりの首を打つか木曽から彼方あなた放逐ほうちくするか
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三位卿に面罵めんばされて足蹴あしげにまであった上、女の死体を抱えて、安治川屋敷を放逐ほうちくされた侍らしくない侍。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ソレがまかり間違えば藩から放逐ほうちくけの話だ、長州征伐と云う事の理非曲直はどうでもよろしい、かくに学者書生の関係すべき事でないから決して帰らせないと頑張がんばった所が
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
放逐ほうちくするというので、只今では私とお嬢様と両人おやしきを出まして、谷中やなか三崎さんさきへ参り、だいなしのいえ這入はいって居りまして、私が手内職などをして、どうかうか暮しを付けていますが
と、主人ながら、豊国にあいそをつかし、結束して、豊国を、他国へ放逐ほうちくしてしまった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして三好党に属していたが、信長が兵をひいて、京都に入り、足利義昭よしあきを中央から放逐ほうちくするとき、彼は手勢わずか四百をひッさげて、その市街戦に臨んで、俄然がぜん織田軍に加勢した。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな不埒者ふらちものは放ッてお置きになるがよろしい、聞けば、あの夜大事な神品を紛失したとか、不都合きわまる奴、すでに御隠家様のお耳にも這入はいって、放逐ほうちくじゃとお怒りなされておる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茶わん屋から放逐ほうちくされたり、評判のわるいこと甚だしかったので、若い叔母さんは、そんな腕白が、身内にいるということを、良人の弾正だんじょうへ、ひどく肩身せまく思って、日吉が家へ顔を出すと
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御工事にたずさわるやから、一名のこらず、今暁とらの下刻までに、御城内の普請場ふしんばに勢ぞろいせよ。万一、時遅れたる者は、一切放逐ほうちくするぞ。——すぐ職方へ申し触れて馳せつけよ。——君命であるッ。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから間もない天正元年には若江に放逐ほうちくされ、以後六年間、三好三党に襲われたり、信長に翻弄ほんろうされたり、また信長を討とうとして失敗したり、京都、近畿はほとんど彼の生涯中、兵馬の巷だった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慈円放逐ほうちく問責もんせきがだんだん火の手をあげてきた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奈良の白拍子しらびょうしとの噂が立って放逐ほうちくされ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(御勘気。——放逐ほうちく
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)