後足あとあし)” の例文
「これ、こんなに後足あとあし傷痕きずあとがあります。」とさけびました。おかあさんも、ねえさんも、みんなそばにきて、それをて、びっくりしました。
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
くまは、後足あとあしで立ち上がったまま赤いランプの光におびえてか、つめをとぐねこのように、バリバリとそばの羽目板はめいたに爪をたてた。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
「御めっちの知った事じゃねえ。黙っていろ。うるせえや」と云いながら突然後足あとあし霜柱しもばしらくずれた奴を吾輩の頭へばさりとびせ掛ける。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夜ふかしは何、家業のようだから、その夜はやがて明くるまで、野良猫のらねこに注意した。彼奴きゃつ後足あとあしで立てば届く、低い枝に、あずかったからである。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「角よい、お前は、それでも、人間か。こんなにせの書付をこしらえて、恩になった親方に、後足あとあしで、泥をはねかけるようなことをするなんて……」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
けれどもその間に、牡牛は後足あとあしで土をしきりに掘って、自分の足場がうまくすわるように、土地にくぼみをこしらえました。
(新字新仮名) / 久米正雄(著)
しかし今前足を見ると、いや、——前足ばかりではありません。胸も、腹も、後足あとあしも、すらりと上品にびた尻尾しっぽも、みんな鍋底なべそこのようにまっ黒なのです。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
シャボン玉みたいに軽そうな、黒い小さなイヌが、後足あとあしで立ちあがって、いっしょにブランコに乗ろうとしているわ。ブランコがゆれたので、イヌが落っこちたわ。
そうしてその後足あとあしには皆一寸ばかりずつ水がついてる。豪雨は牛舎の屋根に鳴音めいおん烈しく、ちょっとした会話が聞取れない。いよいよ平和の希望は絶えそうになった。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その犬もいぬる日村童さとのこに石を打たれて、左の後足あとあしを破られしが、くだんの翁が薬を得て、そのきずとみに癒しとぞ。さればわれ直ちに往きて、薬を得て来んとは思ひしかど。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
八幡様はちまんさまの森を出て、村の中にはいろうとすると、これはまた意外です、道のまん中にさっきの狸が後足あとあしで立って、こちらを手招きしながら踊ってるではありませんか。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
長い髪は蛙の後足あとあしの一本に強くからみ付いて、あたかもかれをつないでいるかのようにも見られた。
西瓜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
後足あとあしでける、首輪くびわをゆすぶる、頭をぐっと上へむけてつのをふりたてる、といったありさまです。
さてこそと身をひそひそかに家の外に出で、背戸せとの方に廻りて見れば、正しく狐にて首を流し元の穴に入れ後足あとあし爪立つまたてていたり。有合ありあわせたる棒をもてこれを打ち殺したり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
後足あとあしもゝに張り、尾をそのあひより後方うしろにおくり、ひきあげて腰のあたりに延べぬ 五五—五七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
王位の名によって王笏おうしゃくを攻撃し、祭壇の名によって司教の冠を攻撃することである。おのれが導くものを虐遇することである。後ろに乗せて引き連れてるものを後足あとあしでけることである。
剛七郎身長みのたけ六尺近く、有名なムッツリ屋、周防すおうの国は毛利左京亮もうりさきょうのすけ府中ふちゅう万石まんごく後足あとあしで砂をかけたという不忠の浪人——ナニ、変な洒落だ? とにかく、コイツ面倒臭いと思ったのだろう。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
爪立つまだち、かがんでくるりとやるかと思うと、ひょくりと後足あとあしびっこをひく。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
肉屋はおもしろはんぶんに、こんどは少し大きく切りとって、ぽいとたかくなげて見ました。犬はさっと後足あとあしで立ち上って、それをも上手にうけとり、がつがつと二どばかりかんでのみこみました。
やどなし犬 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
其のませを馬が鼻先はなづらけて外へ躍出して、突然いきなり後足あとあしを揚げて丹三郎をましたから、丹三郎は其処そこへ倒れますと、馬が丹三郎の肩へ噛付きましたから、丹三郎はさも苦しげにヒイと泣声をあげ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
折角の矢野の厚意をピタリと跳付けて後足あとあしってしまった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その着物を着た鬣狗ハイイナは身を起すと、後足あとあしでぬつと突立つた。
ふえふかず太鼓たいこたゝかずしゝまひの後足あとあしとなるむねのやすさよ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しろいくまは、物覚ものおぼえのいいほうではなかったけれど、後足あとあしがることや、ダンスのまねなどをするようになりました。
白いくま (新字新仮名) / 小川未明(著)
「僕か。僕は叡山へ登るのさ。——おい君、そう後足あとあしで石をころがしてはいかん。あとからいて行くものが剣呑けんのんだ。——ああ随分くたびれた。僕はここで休むよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鼠は慣れていると見えて、ちょこちょこ、舞台の上を歩きながら、絹糸のように光沢つやのある尻尾を、二三度ものものしく動かして、ちょいと後足あとあしだけで立って見せる。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
吹きすさぶあらしの伴奏にあわせて後足あとあしで踊り、ちゃんとした礼儀作法を心得ている、北極グマの小さな舞踏会もありません。口や手足を打っての、小さな宴会もありません。
また二の後足あとあしれて人の隱すものとなり、幸なき者のは二にわかれぬ 一一五—一一七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
まるで二匹の様子は、はち切れるほど力が這入はいって、しかも林のように静かなのです。やがて熊は思い切ったように、奮然と後足あとあしで立ち上ると、その右手を牛の左の角へぐいとばかりに掛けました。
(新字新仮名) / 久米正雄(著)
「ボンは後足あとあし傷痕きずあとがあったはずだから、そんならしらべてみればわかるでしょう。」と、ねえさんはいいました。
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ええ」と云って彼女かのじょかさを手に持ったまま、うしろを向いて自分の後足あとあしを顧みた。自分は赤い靴を砂の中にうずめながら、今日の使命をどこでどう果したものだろうと考えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんどは、いちばん大きい子が太鼓たいこを持ちだして、ドンドンたたきました。すると、熊は二本の後足あとあしで立ちあがって、おどりだしました。それはほんとにおもしろいありさまでした!
正雄まさおは、いぬくようにして、そのいぬ後足あとあししらべていましたが、きゅうおおきなこえをたてて
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すべてのうちで最も敬太郎の頭を刺戟しげきしたものは、長井兵助ながいひょうすけ居合抜いあいぬきと、脇差わきざしをぐいぐいんで見せる豆蔵まめぞうと、江州伊吹山ごうしゅういぶきやまふもとにいる前足が四つで後足あとあしが六つある大蟇おおがまの干し固めたのであった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
辛防しんぼう肝心かんじんだと思って左右かわがわるに動かしたがやはり依然として歯は餅の中にぶら下っている。ええ面倒だと両足を一度に使う。すると不思議な事にこの時だけは後足あとあし二本で立つ事が出来た。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
前足だけは首尾よく棚のふちにかかったが後足あとあしは宙にもがいている。尻尾には最前の黒いものが、死ぬとも離るまじき勢で喰い下っている。吾輩はあやうい。前足をえて足懸あしがかりを深くしようとする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)