夕陽ゆふひ)” の例文
ことに八重の淡紅うすくれなゐに咲けるが、晴れたる日、砂立つるほどの風のにはかに吹き出でたるに、雨霰と夕陽ゆふひさす中を散りたるなど、あはれ深し。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
横手よこて桟敷裏さじきうらからなゝめ引幕ひきまく一方いつぱうにさし込む夕陽ゆふひの光が、の進み入る道筋みちすぢだけ、空中にたゞよちり煙草たばこけむりをばあり/\と眼に見せる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そのとき西にしのぎらぎらのちぢれたくものあひだから、夕陽ゆふひあかくなゝめにこけ野原のはらそゝぎ、すすきはみんなしろのやうにゆれてひかりました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
非常ひじやう甘味うま菓子くわし舌皷したつゞみちつゝ、や十五ふんすぎたとおもころ時計とけい午後ごご六時ろくじほうじて、日永ひながの五ぐわつそらも、夕陽ゆふひ西山せいざんうすつくやうになつた。
家を出でゝ程久しきに、母も弟も還ること遅し、鴉はもりに急げども、帰らぬ人の影は破れしのき夕陽ゆふひ照光ひかりにうつらず。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
大洋の波濤のうねり、夕陽ゆふひの光芒のなかをよぎる飛魚とびうをの群、遠ざかる港の夜の灯、水平線上に浮ぶ島々の陰翳、すべてこれ夢と云つてもよかつた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
駅路の遊君は斑女はんじょ照手てるての末流にして今も夕陽ゆふひななめなる頃、泊り作らんとて両肌もろはだぬいで大化粧。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
斷崖だんがいうへ欄干らんかんもたれていこつたをりから、夕颪ゆふおろしさつとして、千仭せんじん谷底たにそこから、たき空状そらざまに、もみぢ吹上ふきあげたのが周圍しうゐはやしさそつて、滿山まんざんくれなゐの、大紅玉だいこうぎよく夕陽ゆふひえいじて
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
赤い夕陽ゆふひに照らされて……友は野末の石の下……と口ずさむと日露戦争中の哀愁が
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
夕陽ゆふひを受けて、無氣味な艶めかしさで人に迫るのでした。
ねんごろに夕陽ゆふひ宿やどせる枯尾花水車すゐしや踏みし揺れかがやきぬ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして庭には白い木の花が、夕陽ゆふひの中に咲いてゐた
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
桃割れへ夕陽ゆふひはしばし鋭し
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
夕陽ゆふひで爛らされた鐃鉢ねうばち
無題 京都:富倉次郎に (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
長吉ちやうきちはこの夕陽ゆふひの光をばなんふ事なく悲しく感じながら、折々をり/\吹込ふきこむ外のかぜが大きな波をうたせる引幕ひきまくの上をながめた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それから、さうさう、こけ野原のはら夕陽ゆふひなかで、わたくしはこのはなしをすきとほつたあきかぜからいたのです。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
とき午後ごゞ六時ろくじ間近まぢかで、夕陽ゆふひ西山せいざんうすついてる。
くわと照らす夕陽ゆふひの光
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
とよ何分なにぶんよろしくと頼んでおたき引止ひきとめるのを辞退じたいしていへを出た。春の夕陽ゆふひは赤々と吾妻橋あづまばしむかうに傾いて、花見帰りの混雑を一層引立ひきたてゝ見せる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ぎんのすすきのなみをわけ、かゞやく夕陽ゆふひながれをみだしてはるかにはるかにげてき、そのとほつたあとのすすきはしづかなみづうみ水脈みをのやうにいつまでもぎらぎらひかつてりました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ひとならび夕陽ゆふひをうけて
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
本郷の高臺にすさまじく燃え立つ夕陽ゆふひの輝き、其れが靜り返つた池の水に反映する強烈な色彩、散歩する人々の歩調あしなみ、話聲、車の往來ゆきき、鳥の啼く聲、蓮の葉のそよ
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
夕陽ゆふひをせ中に一杯浴びて
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
無論其邊の商店や料理屋には瓦斯ガスの火がついて居たが、烈しい夕陽ゆふひは西の空一面をくれなゐに燒き立てゝ、見渡す往來のはづれなる本願寺の高い屋根をば恐しいほど眞黒に焦してゐる。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)