つま)” の例文
『ハ、いゝえ。』とのどつまつた樣に言つて、山内は其ずるさうな眼を一層狡さうに光らして、短かい髭を捻つてゐる信吾の顏をちらと見た。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
私はもうグッと胸がつまって来ましたから、構うことはないもうやっつけてしまえと思ったのですけれども、足立さんがしきりに止める。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
深井は眉深に被つたソフトの下から、素早くそれと認めたが、向うでそれと気附いて呉れるまで、息をつまらせて待ち構へた。
(新字旧仮名) / 久米正雄(著)
葬式の出る前は沸騰にえかえるようなごたつきであった。家の内外うちそとには、ぎッしり人がつまって、それが秩序もなく動いていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
云うなら人を驚ろすかように滔々とうとうと述べたてなくっちゃつまらない、おれの癖として、腹が立ったときに口をきくと、二言か三言で必ず行きつまってしまう。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、どうしたのかこえ咽喉のどからでず、あしもまたごとうごかぬ、いきさえつまってしまいそうにおぼゆる甲斐かいなさ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
紅葉の『色懺悔』は万朶ばんだの花が一時に咲匂うて馥郁ふくいくたる花の香に息のつまるような感があったが、露伴の『風流仏』は千里漠々ばくばくたる広野に彷徨して黄昏たそがれる時
一體俺は、何だつて、此様な薄暗うすぐらい、息のつまるやうな室に閉ぢ籠つて、此様な眞似をしてゐるんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「オヤ何所どこかお悪う御座いますか」と細川はしぼいだすような声でやっと言った。富岡老人一言も発しない、一間はせきとしている、細川は呼吸いきつまるべく感じた。しばらくすると
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それがおそろしい! そのあなむろ呼吸いきつまってはしまやせぬか? そのむさあななかへはきよ空氣くうき些程つゆほどかよはぬゆゑ、ロミオどのがするころにはわしんでしまうてゐねばなるまい。
驚いて目をポッチリ明き、いたいげな声で悲鳴を揚げながら、四そくを張って藻掻もがうちに、頭から何かで包まれたようで、真暗になる。窮屈で息気いきつまりそうだから、出ようとするが、出られない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
この二人の路のつまることは見やすい道理であったかも知れない。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
白糸ははたとことばつまりぬ。渠は定まれる家のあらざればなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だが……」純吉は云ひかけて息のつまる思ひがした。
(新字旧仮名) / 牧野信一(著)
静子は故なき兄の疑ひと怒が、くやしい、恨めしい、弁解をしようにも喉がつまつて、たゞ堅く/\袖を噛んだが、それでも泣声が洩れる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お庄は息がつまるような心持で、急いでどてについて左の方へ道を折れた。店屋の立て込んだ狭い町まで来た時、お庄は冷や汗で体中びっしょりしていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
が、奈何どうしたのかこゑ咽喉のどからでず、あしまたごとうごかぬ、いきさへつまつてしまひさうにおぼゆる甲斐かひなさ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
胸に例の一条が在る拙者は言句ごんくつまって了った、然し直ぐ思い返してこの依頼を快く承諾した。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
兄さんはすぐ呼息いきつまるような風に向って突進しました。水の音だか、空の音だか、何ともかともたとえられない響の中を、地面からね上る護謨球ゴムだまのような勢いで、ぽんぽん飛ぶのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ギッシリつまった和漢洋の書籍が室内を威圧していた。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
じっと母のかおを視た時には、気息いきつまりそうだった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
滝本は、震へて、喉がつまつた。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
雪は五寸許りしか無かつたが、晴天はれ続きの、塵一片ひとひら浮ばぬ透明の空から、色なき風がヒユウと吹いて、吸ふ息毎に鼻の穴がつまる。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
気がつまって来ると、笹村はぶらぶら家の方へ行って見た。家には近所の菎蒻閻魔こんにゃくえんまの縁日から買って来たしのぶのきに釣られ、子供の悦ぶ金魚鉢などがおかれてあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
口へてのひらを当てがっても、呼息いきの通う音はしなかった。母は呼吸こきゅうつまったような苦しい声を出して、下女に濡手拭ぬれてぬぐいを持って来さした。それを宵子の額にせた時、「みゃくはあって」と千代子に聞いた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
又も文句につまったが、気を引きたてて父の写真を母の前に置きながら
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「何うです、君の方の爲事しごとは隨分氣がつまるでせうね?」つて言つたら、「いや、貴方だから打明けて言ひますが、實に下らないもんです。」
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
母親は時々こくりこくりと居睡いねむりをしながら、鼻をつまらせて、下卑げびたその文句にれていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「東京へ⁈」細川は声ものどつまったらしい。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
二言か三言で必ず行きつまつて仕舞ふ。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
見るからが人の好さ相な、丸顔に髯の赤い、デツプリと肥つた、色沢いろつやの好い男で、襟のつまつた背広の、腿の辺が張裂けさうだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「今いる家は、体が楽でも気がつまっていけないそうで……。」と、母親も傍から口を添えた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『は。』と靜子はつまつた樣な聲を出して、『あの、今日あたりお着き遊ばすかも知れないと、お噂致して居りました。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
枕紙にみついた女の髪の匂いの胸をつまらす時がじきに来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『ハ。』と静子はつまつた様な声を出して、『アノ、今日あたりお着き遊ばすかも知れないと、お噂致して居りました。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
君、S——新聞の主筆の從弟といふ奴が居るんだ。恁麽處で一時間も二時間も密談してると人に怪まれるし、第一此方も氣がつまる、歩き乍らの方が可い。
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
二人は、それから名前や年齡としやをお吉にかれたが、大抵源助が引取つて返事をして呉れた。負けぬ氣のお八重さへも、何かのどつまつた樣で、一言も口へ出ぬ。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
と、ひて作つた様な笑顔を見せた。今が今まで我家の将来ゆくすゑでも考へて、胸がつまつてゐたのであらう。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その實男も、先刻汽車に乘つた時から、妙に此女と體を密接してゐることに壓迫を感じてゐるので、それをまぎらかさうとして、何か話を始め樣としたが、兎角、言葉が喉につまる。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
此室ここには、(と声を落して、目で壁隣りの室を指し乍ら、)君、S——新聞の主筆の従弟といふ奴が居るんだ。恁麽処で一時間も二時間も密談してると人にも怪まれるし、第一此方こつちも気がつまる。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
負けぬ気のお八重さへも、何か喉につまつた様で、一言も口へ出ぬ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)