団欒だんらん)” の例文
旧字:團欒
来太の来る日のにぎやかな団欒だんらんにも加わるようなことは少なく、たいていひとり自分の部屋でこつこつ勉強しているという風だった。
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかもガブリエルとエドヴィナ伯爵の婚約式が済んでからは、アンジェリカは一家の団欒だんらんの席に顔をみせないことも少なくなかった。
「ああ、相も変らず高雅な団欒だんらんでございますことね。法水さん、貴方はあの兇悪な人形使いを——津多子さんをお調べになりまして」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そういうえらい役人の臨席を得て、会はいやが上にも運動会気分をそそられていたのである。それはまったく楽しい団欒だんらんであった。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
そこは冷やかな玄関でも台所でもなくそこに思いがけない平和な家庭の団欒だんらんがあって、そして誰かがオルガンをひいていたとする。
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこでは辛いことも霧と薄らぎ、私も千の負目を忘れて団欒だんらんの仲間入りをした。泉さんの死後イエはあの多摩川の上流の田舎に帰った。
前途なお (新字新仮名) / 小山清(著)
由来、浅草には、われわれの、しずかに、団欒だんらんして、食事をたのしむことの出来る場所がない。われわれは不仕合である。(大正九年)
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
だが、なんといってもまず私たちの理想の家庭というのは、両親もそろい、子供も幾人かあるという、朗らかな団欒だんらんの家庭でしょう。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
その夜の団欒だんらんは、水入らずだった。例を破って、食膳は、病妻の枕元に運ばれ、子等をじえて、灯影ほかげ賑々にぎにぎと、一しょに喰べた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その眼球を顕微鏡でもって調べその網膜に美しい一家団欒だんらんの光景が写されているのを見つけて、友人の小説家にそれを報告したところが
雪の夜の話 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかしその他の場合では、罪のない笑談じょうだんを言ったりして、妻や子供の家族を笑わせ、女中までも仲間に入れて、一家団欒だんらんの空気を作った。
一つの混同は外聖霊ほかしょうりょう、土地によって無縁とも餓鬼がきとも呼ぶものが、数多く紛れ込んで村々の内輪の団欒だんらんき乱すことであった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
幾人いくにんの家族があってもたがい相侵あいおかさないで一家団欒だんらん和気靄々わきあいあいとするようにならなければ政治上の立憲制度も到底円滑に行われんよ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
最近母を亡くして寂しがっている庸三の不幸な子供達の団欒だんらんにぎわせるために、時々遊びに来ていた彼女——こずえ葉子を誘った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いつのまに台所からはいって来たのか、万里子さんの足もとにはボブが温かそうにうずくまりながら、僕たちの団欒だんらんのなかに加わっていた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
昔悦子の初節句の時に京都の丸平まるへいで作らせたもので、蘆屋あしやへ移って来てからは、結局家族たちの団欒だんらんの部屋に使われている階下の応接間が
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
が、夫人を迎えて家庭の団欒だんらんの悦びに浸るようになってからは詩人の夢からめてすこぶる平穏堅実となったとのみ聞いていた。
平素ふだんから実は宗蔵とあまり言葉も交さなかった。唯——「一家の団欒だんらん、一家の団欒」この声が絶ず実の心の底に響いていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
午餐ごさんが済んで人々がサルンに集まる時などは団欒だんらんがたいてい三つくらいに分かれてできた。田川夫妻の周囲にはいちばん多数の人が集まった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これから変った無礼講が、名古屋城内ではじまることになったが、ちょうどこの頃蝮酒屋でも、変った団欒だんらんが行われていた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その愛のつどいの場所に団欒だんらんし、幼年時代のなつかしい思い出のなかで、ふたたび若がえり、いつくしみあうのである。
あるいは夜分に外出することあり、不意に旅行することあり。主人は客の如く、家は旅宿の如く、かつて家族団欒だんらんの楽しみを共にしたることなし。
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
泡鳴は、そうしたなごやかな団欒だんらんには、勧進帳をうたったりなんかして、来あわした妹に、こんなことは兄さんはじめてだと、びっくりさせたりした。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかして余再び彼に帰し、彼再び我に和し、旧時の団欒だんらんを回復し、我も彼の一となり、彼をして旭日あさひの登るがごとく、勇者のねむりより醒めしがごとく
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
食事には三度三度膳を並べて団欒だんらんして食う。夜は明るい洋燈ランプを取巻いて、にぎわしく面白く語り合う。靴下は編んでくれる。美しい笑顔を絶えず見せる。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
釣り人が、獲物を家庭へ持ち帰って賑やかな団欒だんらんに接した時くらいうれしいことはないであろう。殊に、清澄な早瀬で釣った鮎には一層の愛着を感じる。
香気の尊さ (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
五の青年相い団欒だんらんし、灰に画きて天下の経綸を講じ、東方のしらぐるを知らざるが如き、四十年後の今日において、なお人をして永懐堪うべからざらしむ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
一家団欒だんらんの時季とも見るべき例の晩餐ばんさんの食卓が、一時重苦しい灰色の空気でとざされた折でさえ、お貞さんだけはその中に坐って、平生と何の変りもなく
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっとも我輩は子供が少ないのに先生は子供が沢山たくさんあるのだから、親子団欒だんらんの楽しみを先生同様にやる訳には行かないが、あったら必ず同一だろうと思う。
機嫌よく一家で団欒だんらんし、このごろ齢のせいで睡気ねむけづいて困るなどといい、匆々に自分の部屋へひきとるが、それは見せかけで、池泉に向いた寝間に入ると
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
主人も好もしそうに微笑して氏にもてなされて居る。両優ふくんだような初対面の挨拶に代って、今や私達は真に打ち融け合った一家族の如き団欒だんらんをなす。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
どうぞ此同舟の会合を最後の団欒だんらんとして、たもとを分つてりくのぼり、おの/\いさぎよく処決してもらひたい。自分等父子ふし最早もはや思ひ置くこともないが、あとには女小供がある。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼の高厳荘重なるミルトンまでも一度は此轍このてつふまんとし、嶢※げうかく豪逸なるカーライルさへ死後に遺筆をするに至りて、合歓団欒だんらんならざりし醜を発見せられぬ。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
生け花とめいめいくろうと乃至ないし素人ばなれのした技と楽しみをもち、つつましやかに安楽に団欒だんらんしつつ余生を送ってる老士官の住居にふさわしいものだった。
結婚 (新字新仮名) / 中勘助(著)
小さな家の立ち並んだ狭い裏通りには、一日の労苦を終えた人々の安らかな家庭の団欒だんらんの気がこもっていた。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
お桐も炉の側に出て団欒だんらんの席に加はつた。眼ばかり大きくなつた血の気のない顔は凄味を帯びて居た。褞袍どてらを着た姿が時節柄平三にはむさくるしく思はれた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
或いは互いに一層深まり落付き信じ合った愛の団欒だんらんか、互いの性格と運とによりましょが、いずれにせよ
愛は神秘な修道場 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
◯この夜は静かで楽しい団欒だんらん。茶の間では昌彦以外の子供四人とねえや二人が朝子を囲み、八畳では英と養母とに昌彦も加わって、話に花が咲いているらしい。
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
家庭の団欒だんらんを楽しくした家族の室内楽演奏で、チェロの父親がのべつにはずして、ヴィオラのシューベルトに、始終遠慮がちな注意を受けなければならなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
何となれば彼等自身の労作と生活の威厳とにつて、彼等は謙遜なる平和の中に名誉と廉直との情緒に包まれた団欒だんらんを形作つて居る家庭を成就した者ですから。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
また家庭にありて一家団欒だんらんしている際は、寒ければ綿袍どてらを着ても用が足り、主人も気楽きらくなれば細君さいくんも衣服の節倹せっけんなりと喜ぶが、ふと客があれば急に紋付もんつきに取替える。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
どこの家も長閑のどか団欒だんらんの晩景で、晩酌に坐った親父おやじが将軍の面をかむってみて家族の者を笑わせたり、一つの面を皆なで順々に手にとりあげて出来栄できばえを批評したり
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
お嬢さん、お坊ちゃんたち、一家揃って、いい心持こころもちになって、ふっくりと、蒲団に団欒だんらんを試みるのだからたまらない。ぼとぼとと、あとが、ふんだらけ。これには弱る。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
松をまた人間に当てめるならば車の矢の様に四方に出る枝は睦まじい一家の団欒だんらんにも比する事が出来ますし、またかんざしあしをなした葉は何時いつも離れず連れ添うて居り
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
隣の家から惣菜そうざいの豆煮るにおいの漂いきたるにわたしは腹立たしく窓の障子をしめた事もあった。かつてはわれも知った団欒だんらんの楽しみを思い返すに忍びなかったからである。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まだ暮れぬ、まだ暮れぬ、と思う間に、其まゝすうと明るくなりまさる、眼をあげると、何時の間にか頭の上にまん丸な月が出て居て、団欒だんらんの影黒く芝生に落ちて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
倫敦ロンドンに三年、ジュネーヴに一年、長い海外生活で、母とろくろく家庭の団欒だんらんさえ味わっていないことを考えると、それが拭い去ることのできぬ、悲しみになっていましたが
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ゴスはゴスで、又、別の事を考えながら、暗然たる気持で此の幸福そうな団欒だんらんを眺めていた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それは今の団欒だんらんの中に、金椎とお松だけが加わっていないらしいから、駒井はここへ来て、扉をコツコツと叩いたが、叩いても叩きばえのする金椎でないことに気がつくと
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それでも彼は、遠い以前の校番室の夜の団欒だんらんを回想して、いくぶん心が落着いて来た。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)