トップ
>
噯
>
おくび
ふりがな文庫
“
噯
(
おくび
)” の例文
僕は一言もなかったのみならず、彼女が美人だということは
噯
(
おくび
)
にも出さなかった。斯かる場合、沈黙こそは家庭円満の安全弁である。
青バスの女
(新字新仮名)
/
辰野九紫
(著)
つまりは持地が三倍もの価でうれた当今の人間の腹からこそひとりでに出る
噯
(
おくび
)
のようなものだと、余りいい気持でもきけないわけである。
昔の火事
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
その後二週間ばかりの間、彼はそのことを、
噯
(
おくび
)
にも出さなかったが、ふとある日の午後、私が外出しようとしているところを呼び止めた。
暗号舞踏人の謎
(新字新仮名)
/
アーサー・コナン・ドイル
(著)
のっそりと
噯
(
おくび
)
をしたり、眼をぱちくりさせたり、
鬣
(
たてがみ
)
を振ってみたり、——それにもう刈りとられて仕舞うその早さ。あくなき人の残酷さ。
夜の靴:――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
喰いたくもねえものを
勿体
(
もってえ
)
ねえ、お附合いに買うにゃ当りやせん、食もたれの
噯
(
おくび
)
なんぞで、せせり箸をされた日にゃ、第一
魚
(
うお
)
が可哀相だ。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
婆芸者が土色した
薄
(
うすっ
)
ぺらな唇を
捩
(
ね
)
じ曲げてチュウッチュウッと音高く虫歯を吸う。請負師が
大叭
(
おおあくび
)
の後でウーイと一ツ
噯
(
おくび
)
をする。
深川の唄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
ずらかって来た兇状持ちだ。悪いこたあいわねえから、おれと、なんかあったなンていうこたあ、
噯
(
おくび
)
にも、
他人
(
ひと
)
にいわねえ方がおめえのためだぜ
治郎吉格子
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
松浦さんにしても奥さんにしても、そんな
風
(
ふう
)
は
噯
(
おくび
)
にも出さなかった。生活は
贅沢
(
ぜいたく
)
だが、少しも見識張っていない。新太郎君は何かの話の切っかけに
脱線息子
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
私が沼南と
心易
(
こころやす
)
くなったはその後であった。Yが私の家へ
出入
(
でいり
)
していたのを沼南は
能
(
よ
)
く知っていたが、私も沼南もYの名は一度でも
噯
(
おくび
)
にも出さなかった。
三十年前の島田沼南
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
住持
(
おつ
)
さんは町に米騒動の起つてる事を話して、預かつた米俵の一件は誰にも洩してはならない、よしんば本尊様の前であらうと、
噯
(
おくび
)
にも出すのではない
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
ある朝酒月が
宿酔
(
ふつかよい
)
の
噯
(
おくび
)
で咽喉を鳴らしながら噴水の傍を通りかかり、フト思いついた悪計だったのである。
魔都
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
過般、かれは地中海の最深処で投身する旨を声明したが、その実施期日たる十二月二十五日は、すでに過ぎ去つて了つたことなど、かれは
噯
(
おくび
)
にも出したくないと言ふのだ。
希臘十字
(新字旧仮名)
/
高祖保
(著)
さきに柿の木の上で助けてくれ助けてくれと泣き声を出したことなどは
噯
(
おくび
)
にも出さず、鬼の三匹も退治して来たようなことを言っているから、兵馬はイヤな奴だと思います。
大菩薩峠:09 女子と小人の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
叔父に毒薬を与えた本人が知れたのとは
噯
(
おくび
)
にも出されぬ訳だ、何たる辛い場合だろう、併し夫にしても秀子を探し出さぬ訳には行かぬ、探し出して何とかせぬ訳には行かぬ。
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
「しめた!」と多四郎は思ったがそういう様子は
噯
(
おくび
)
にも出さず
至極
(
しごく
)
真面目の顔付きで
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
戻
(
もど
)
り
路
(
じ
)
は
角
(
かど
)
の
歌川
(
うたがわ
)
へ
軾
(
かじ
)
を着けさせ俊雄が受けたる
酒盃
(
さかずき
)
を小春に
注
(
つ
)
がせてお
睦
(
むつ
)
まじいと
噯
(
おくび
)
より
易
(
やす
)
い世辞この手とこの手とこう合わせて
相生
(
あいおい
)
の松ソレと突きやったる
出雲殿
(
いずもどの
)
の代理心得、間
かくれんぼ
(新字新仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
それでもその当座、
託
(
あず
)
けてあった氷屋の神さんに、二度ばかりあの
楼
(
うち
)
へつれて来てもらったことがあったよ。私も一度行きましたよ。もちろん母親だなんてことは、
噯
(
おくび
)
にも出しゃしなかったの。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
無教育で薄情で利慾に
飢
(
かつ
)
え、一片のパンのことでも口汚なく罵り、粗野で下等で
床
(
ゆか
)
へ唾を吐きちらし、食事中でも祈祷の時でも平気で
噯
(
おくび
)
を出すような、そういう人たちの間で育ったのだったら
決闘
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
友太の生母のことなどは
噯
(
おくび
)
にも出さなくなった。
和紙
(新字新仮名)
/
東野辺薫
(著)
過日の、広芝の件は
噯
(
おくび
)
にも出さないで、真っ向へこう探りを入れてみましたが万太郎もここへ来る間に、相当の応酬の用意をもっていたとみえ
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ここにおいて、或る人は、帝国ホテルの西洋料理よりもむしろ露店の立ち喰いにトンカツの
噯
(
おくび
)
をかぎたいといった。
銀座
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
金之助は色気のない
噯
(
おくび
)
をし、
垢抜
(
あかぬ
)
けのした目のふちに色を染め、
呼吸
(
いき
)
をフッと向うへ吹いて、両手で額を支えたが
三枚続
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
広岡氏は辞書といふものは
色々
(
いろん
)
な事を教へて呉れるものだと感心した。そしてそれからといふものは博士の前では忘れてもクンカンの事は
噯
(
おくび
)
にも出さないやうにしてゐた。
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
自分の口の中へ入るというようなことを
噯
(
おくび
)
にも人に示したことはありませんから、はじめて和尚を見た人は、さても円い面の人があるものだと驚き、次に大きな口もあればあるものだと驚き
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
ここにおいて、或る人は、帝国ホテルの西洋料理よりも
寧
(
むし
)
ろ露店の立ち喰いにトンカツの
噯
(
おくび
)
をかぎたいと云った。
銀座界隈
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
母などは
噯
(
おくび
)
にも、父の前では愚痴もこぼせなかったし、ふと顔いろに出してさえ、忽ち食卓が引ッくり返された。
忘れ残りの記:――四半自叙伝――
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と
噯
(
おくび
)
をするかと思うと、
印半纏
(
しるしばんてん
)
の肩を
聳
(
そび
)
やかして、のッと
行
(
ゆ
)
く。
新姐子
(
しんぞっこ
)
がばらばらと
避
(
よ
)
けて通す。
露肆
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
宰相は
途々
(
みちみち
)
馬や、お天気や、英吉利の政治家の噂などそんな下らない事ばかり話して、用談らしい事は一向
噯
(
おくび
)
にも出さなかつたが、馬車が維也納でも名うての汚い町へ入つて来ると、急に慌て出した。
茶話:05 大正八(一九一九)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
「ところが、剛情な奴で、お玉の行方も申し上げなければ、お玉に手引をさせて自分が盗んでいながら、自分の盗んだことは
噯
(
おくび
)
にも白状をしないので、お奉行所でもてこずっているそうでございます」
大菩薩峠:06 間の山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
時々は目をつぶって遠慮なく
噯
(
おくび
)
をした
後
(
のち
)
、
身体
(
からだ
)
を軽く
左右
(
さゆう
)
にゆすりながらお豊の顔をば何の気もなく眺めた。
すみだ川
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
と、いつか
嫂
(
あによめ
)
にも訴えたが、そのまま会えずにいたのだった。けれど、兄の今のことばと、真情に
潤
(
うる
)
んでいる眸を見ては、そんなことは勿論、
噯
(
おくび
)
にもいえなかった。
旗岡巡査
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「いんや、
馬丁
(
べっとう
)
……貞造って……馬丁でね。
私
(
わっし
)
が静岡に落ちてた時分の飲友達、旦那が戦争に行った留守に、ちょろりと
嘗
(
な
)
めたが、
病着
(
やみつき
)
で、
噯
(
おくび
)
の出るほど食ったんだ。」
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
時々は目をつぶつて
遠慮
(
ゑんりよ
)
なく
噯
(
おくび
)
をした
後
(
のち
)
、
身体
(
からだ
)
を軽く
左右
(
さいう
)
にゆすりながらお
豊
(
とよ
)
の顔をば
何
(
なん
)
の
気
(
き
)
もなく
眺
(
なが
)
めた。
すみだ川
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
ひと月前までは、
噯
(
おくび
)
にも出なかったことばを、俄然、信念化して、
賞
(
ほ
)
め
称
(
たた
)
える言葉をさがし合った。
新書太閤記:03 第三分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
……御威勢のほどは、後年地方長官会議の
節
(
せつ
)
に上京なされると、電話第何番と言うのが
見得
(
みえ
)
の旅館へ宿って、
葱
(
ねぎ
)
の
噯
(
おくび
)
で、東京の町へ出らるる御身分とは夢にも思われない。
国貞えがく
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
明治になってから以後は、旗岡剛蔵と変名して、東京警視庁の巡査を拝命し、自分が桜田事変に加わっていた一浪士であるなどという事は、
噯
(
おくび
)
にも、人に語った例がない。
旗岡巡査
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
お前は世間体というものを知ってるから、平生、吾が
健全
(
たっしゃ
)
な時でも、そんな事は
噯
(
おくび
)
にも出さないほどだ。それが出来るくらいなら、もう
疾
(
とっ
)
くに
離別
(
わかれ
)
てしまったに違いない。
化銀杏
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
虫喰みたるサラドの葉いかがわしき牛乳入の珈琲は煙草よりも衛生に害あるべく蕎麦鮓汁粉南京豆を貪って満腹の
噯
(
おくび
)
を吐くは所謂「考えさせる劇」を看て大に考えんとするに適せざるものなり。
偏奇館漫録
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
「さあ、泣かずに歩け。きょうからはわしの子だ。可愛がってやる代りに、
噯
(
おくび
)
にも、ゆうべのことをひとに
喋舌
(
しゃべ
)
るな。——
喋舌
(
しゃべ
)
るとすぐ、その首を捻じ切ってしまうぞよ」
宮本武蔵:06 空の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
落ちたといっちゃ勿体ない、悪所から根を抜いて、お
庇
(
かげ
)
さまでこうやって、おもりをしているんだがね。お嬢さんが、洲崎になんぞ、お前、そんなことを
噯
(
おくび
)
に出したって済まないよ。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「それもあてにはすまい。殿御自身からして、
噯
(
おくび
)
にもそれにはお触れにならぬところを見ても、悲壮なお覚悟のほどが
窺
(
うかが
)
われる。われらも共々、殿と同じ心であればよい」
新書太閤記:04 第四分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
鰻の
匂
(
におい
)
も鼻に附いて食いたくなし、
鯛
(
たい
)
は
脂肪
(
あぶら
)
濃し、
天麩羅
(
てんぷら
)
はしつッこいし、口取も
甘
(
あまっ
)
たるしか、味噌吸物は胸に持つ、すましも可いが、
恰好
(
かっこう
)
な種が無かろう。
鮪
(
まぐろ
)
の刺身は
噯
(
おくび
)
に出るによ。
貧民倶楽部
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
噯
(
おくび
)
にもそれを告げず、後での悔いやら泣きを見せるのは、男として、高氏は自身に恥じる。
私本太平記:02 婆娑羅帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
明前
(
あかりさき
)
へ、
突立
(
つった
)
ってるのじゃあございません、脊伸をしてからが大概人の
蹲
(
しゃが
)
みます位なんで、高慢な、澄した今産れて来て、
娑婆
(
しゃば
)
の風に吹かれたという
顔色
(
かおつき
)
で、黙って、
噯
(
おくび
)
をしちゃあ、クンクン
政談十二社
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
だが、お八重は、
噯
(
おくび
)
にも、彼との事などを、
酉兵衛
(
とりべえ
)
に
洩
(
も
)
らしている
気遣
(
きづか
)
いはなかった。
無宿人国記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
心からでございましょう、誰の挨拶もけんもほろろに聞えましたけれども、それはもうお米に
疑
(
うたがい
)
がかかったなんぞとは、
噯
(
おくび
)
にも出しませんで、逢って帰れ! と部屋へ通されましてございます。
政談十二社
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
……だが、頼朝が天下を取ってからは、あのおべッか者は、一人として
噯
(
おくび
)
にもさようなことはいい出さぬ。
狡獪
(
こうかい
)
な頼朝は口を拭いて、知らぬ顔にこの言葉を
葬
(
ほうむ
)
ろうとしている——。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そら、ポンプだ、というと
呵々
(
からから
)
と高笑いで、水だらけの人間が総崩れになる中を澄まして通って、井戸端へ
引返
(
ひっかえ
)
して、ウイなんて
酔醒
(
よいざめ
)
の胸のすく
噯
(
おくび
)
でね、すぐにまた汲み込むと、提げて行くんです。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
利家にたいし、たのむというようなことは、日頃なら、
噯
(
おくび
)
にもいう玄蕃允でない。
新書太閤記:09 第九分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
それ、えへん! と云えば灰吹と、諸礼
躾方
(
しつけかた
)
第一義に有るけれども、何にも御馳走をしない人に、たとい
噯
(
おくび
)
が
葱臭
(
ねぎくさ
)
かろうが、
干鱈
(
ひだら
)
の繊維が
挟
(
はさま
)
っていそうであろうが、お
楊枝
(
ようじ
)
を、と云うは無礼に当る。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
“噯”の解説
噯(あつかい)は、江戸時代の薩摩藩における地方職制の1つ。外城制における上位の責任者であった。
(出典:Wikipedia)
噯
漢検1級
部首:⼝
16画
“噯”を含む語句
噯呀
噯気
噯氣