やつ)” の例文
つけ走るとき鳴り響きて人をけさするやうにして有り四挺の車にやつの金輪リン/\カチヤ/\硝子屋びいどろやが夕立に急ぐやうなり鹽灘の宿しゆく
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
もう冬と言ってもよいくらいですから欅の紅葉は、ほとんどやつ岳颪たけおろしで吹き払われていました。木の下には黒くなった落葉がうずたかく落ちていました。
更に進みて仙童に言はせたる予言のうちに、「今このやつの子をのこせり。八はすなはち八房の八をかたどり。又法華経のまきかずなり。」
日晒しの茎をやつ針に裂き、其を又幾針にも裂く。郎女の物言はぬまなざしが、ぢつと若人たちの手もとをまもつて居る。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
「しかしやつッで宅へ帰ったにしたところで復籍するまでは多少往来もしていたんだから仕方がないさ。全く縁が切れたという訳でもないんだからね」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十人ぐらいでやる時は一番愉快ゆかいだよ。甲州ではじめた時なんかね。はじめ僕がやつたけふもとの野原でやすんでたろう。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いまかりにその根元ねもとからつたぐちたゝみいてみるとしますと六十九疊ろくじゆうくじようけますから、けっきよく、八疊はちじよう座敷ざしきやつつと、五疊ごじよう部屋へやひとつとれる勘定かんじようになります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
歴史好きな人なれば、川中島の古戦場でこの国をしのぶでしょう。近頃の若い人たちには飛騨ひだ山脈、木曾きそ山脈、赤石山脈、やつたけ山脈などの名で親しまれているかも知れません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
八人坊主はちにんばうずといふのはそのなはいたいはゞちひさなおもりである、やつつあるので八人坊主はちにんばうずといつてる。小作米こさくまいれる藁俵わらだはらを四五俵分へうぶんつくらねばらぬことがかせぎにときからかれには心掛こころがかりであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
明方より前にやつの鐘ならば夢を惜しまじ、知らせよなど勝手の者に仰せつけるに、勤めながら誠を語る夜は明けやすく、長蝋燭の立つ事はやく、鐘のき出し気の毒、太夫余の事に紛らわせども
三の散佚さんいつはあろうが、言うまでもなく、堂の内壁ないへきにめぐらしたやつの棚に満ちて、二代基衡もとひらのこの一切経いっさいきょう、一代清衡きよひら金銀泥一行きんぎんでいいちぎょうまぜがきの一切経、ならび判官贔屓ほうがんびいきの第一人者、三代秀衡ひでひら老雄の奉納した
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なかには一方いつぽううでなゝやつつも貝輪かひわをはめてゐるのもありました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ふく風はすでにつめたしやつたけのとほき裾野すそのに汽車かかりけり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
雨なりしきのふをあれのやつヶ嶽雪つもりけらし今朝白う見ゆ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「やあ、やつたけだ。やつがたけだ。」
八十八夜 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こぎいだす船にたはらをやつつみて
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
とおになる恒子つねこのは尋常であった。やつになるえい子のは全く片仮名だけで書いてあった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
曰く「こは不思議や。と取なほして。とさまかうさま見給ふに。数とりの珠に顕れたる。如是畜生発菩提心の。やつの文字は跡もなく。いつの程にか仁義礼智忠信孝悌となりかはりて。いとあざやかに読まれたり。」
ななやつ入乱いりみだれてけたゝましい跫音あしおとけめぐる。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やつそ。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まへ御婆おばあさんがやつぐらゐになる孫娘まごむすめみゝところくちけてなにつてゐるのを、そばてゐた三十恰好がつかう商家しやうか御神おかみさんらしいのが、可愛かあいらしがつて、としいたりたづねたりするところながめてゐると
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)