仮面めん)” の例文
旧字:假面
と、おくへいって持ってきたのは、ふるい二つの仮面めんである。あおい烏天狗からすてんぐ仮面めん蛾次郎がじろうにわたし、白いみこと仮面めんを竹童にわたした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は例の仮面めんの由来に就て種々いろいろ考えてみましたが、前にもいう通り、頼家所蔵の舞楽のおもてというの他には、取止めた鑑定も付きません。
私なぞは武松の芝居へ、蒋門神しょうもんじんがのそのそ出て来た時には、いくら村田君の説明を聴いても、やはり仮面めんだとしか思われなかった。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
歓迎してくれた大将に、逢わず仕舞いで帰るんだからな。噂によると大将は、仮面めんを冠っているそうだが、不自由なことをしたものさ。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此度の秋の踊りまでには出演者は皆な仮面めんを、そろへようといふことになつてゐるんだから、私たちが居なくなつたら台なしでせうがな。
鬼涙村 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
こわれた黒い仮面めんや扇、それからいろいろの変わった仮装服が腕椅子の上に置いたままになっているのを見ると、死がなんの知らせもなしに
ここに篝を囲むほどの連中が、みな仮面めんをかぶっている。鼓を打ち、笛を吹き、かねを鳴らすものも、みな仮面をかぶっている。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何かしら思いめているのか放心して仮面めんのような虚しさにあおざめていた顔が、瞬間しゅんかんカッと血の色をうかべて、ただごとでないはげしさであった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それは奥の村々の神楽道化の狂言に、畠蒔きというのがあって、これは江戸付近でみるひょっとこ舞の仮面めんをかぶって踊る。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
そして、登世が天女の衣装のまま、舞台の端へ来て、仮面めんをぬぎながら、下座の者に向って、「あの鳥を、……」と云った。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼女が人真似をする時は、その大きな顔が千変万化して、真似ようと思う人の表情を、あたか仮面めんを着けたように自由自在に浮かべるのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
歌声につれて、鼠は嚢中より出で来り、仮面めんを蒙り、衣装を着けて舞台に登場し、立ちて舞へり。男女悲歓のさま悉く劇中の関目にかなへりといふ。
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
筒ツぽ袖には拭き尽せまじ……彼が積年の偽善の仮面めんをば深くなとがめそ、長二君とて木から生まれた男ではごんせぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
あいつはいろいろな仮面めんをかぶって来るやつだ。化けて来るやつだ。どうして、油断もすきもあったもんじゃないぞ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして村人の被る狸の仮面めんを「智慧蔵仮面めん」と申します。しかし村人のれもその由来を知つたものはありません。
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
一杯機嫌になると何をやりだすか知れたものぢやない。仮面めんをかぶれば——いやもう、まるで人間の恰好ではない。
クルミすなわち胡桃の一種にオタフクグルミと呼ぶ於多福面(スコブル愛嬌のある福相の仮面めん)の形をしたものがあって、一つに姫グルミともいわれる。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
あるいは宮や寺の宝物ほうもつになっている古い仮面めんをかり、釣鐘つりがねをおろし、また路傍の石地蔵いしじぞうのもっとも霊験れいげんのあるというのを、なわでぐるぐる巻きにしたりして
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その体の良い仮面めんをかぶった悪いたくらみを深入りさせないうちに追いはらおうとしたのであろう。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
さて二ばんに仮面めんをあてゝ鈿女うずめいでたちたる者一人、はうきのさきに紙に女阴ぢよいんをゑがきたるをつけてかたぐ。
当時村田は自身防禦ぼうぎょめに攘夷の仮面めんを冠て居たのか、又は長州に行て、どうせ毒をめれば皿までと云うような訳けで、本当に攘夷主義になったのか分りませぬが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
や、君の顔は妙だ。日のしている右側の方は大変血色がいいが、影になってる方は非常に色沢いろつやが悪い。奇妙だな。鼻を境に矛盾むじゅんにらめこをしている。悲劇と喜劇の仮面めん
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ここにおいてか何か仕事でもしたいという人々は、厚い仮面めんを被って世間に紛れ出ます。そして始めて好きな住処を求め、好きな営業に従事することができるのであります。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
これはただ仮面めんかぶりと頓知とんちの天才、法律的ごまかしの天才なんだからね——してみれば、なにも特に驚くにゃ当たらない! いったいこんなのがあり得ないことかい? だが
十四の小娘の云ひ草としては、小ましやくれて居るけれども、仮面めんに似た平べつたい、して少し中のしやくれた顔を見ると、側で聞いて居る人は思はずほゝゑませられてしまつた。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
夫に逆毛で無い後の二本をく検めて見ると其根の所が仮面めんや鬘からぬけた者で無く全くはえた頭から抜た者です夫は根の附て居る所で分ります殊に又合点の行かぬのはこのちゞれ具合です
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
各自めいめいの家によくある赤く塗った消火器のような恰好をした円筒を背にかけ、その下端に続いている一条のゴム管を左の脇下から廻して、その端は、仮面めんになっていて鼻と口とを塞いで
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
又或日貞白は柏軒の子鉄三郎を抱いて市に往き、玩具おもちやを買つて遣らうと云つた。貞白は五十文から百文まで位の物を買ふ積でゐた。すると鉄三郎が鍾馗の仮面めんを望んだ。其価は三両であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
心臓を警戒して久しく湯に這入らなかったせいか皮膚が鉛色にドス黒くなって睡眠不足の白眼が真鍮色しんちゅういろに光っている。何となく死相を帯びているモノスゴサは、さながらにお能の幽霊の仮面めんだ。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「まアこんな処に仮面めんこしらえてあるわ。」
笑われた子 (新字新仮名) / 横光利一(著)
この憂は種々の仮面めんを取り換えて被る。
三人の楽人 仮面めんのやうに顔をつくる
青い 仮面めんこの こけおどし
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
食人族しよくじんぞく仮面めんる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
卜斎ぼくさい鉄拳てっけんをくったせつなに、仮面めんは二つにられてしまった。そして二つに割られた仮面が、たたみの上に片目をあけて嘲笑あざわらっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな事を考えているうちに、白髪しらがの老人が職人尽しょくにんづくしにあるようななりをして、一心に仮面めんを彫っている姿が眼にうかぶ。頼家の姿が浮ぶ。
で絶えず繽紛ひんぷんと散った。仮面めんの上へ落ちるのもあり、袍の上へ落ちるのもあり、手足の上へ落ちるのもあり、落花は彼を埋めようとした。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今度の秋の踊りまでには出演者は皆な仮面めんを、そろえようということになっているんだから、私たちがいなくなったら台なしでしょうがな。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
ところが、阪神の香櫨園の駅まで来ると、海岸の方から仮面めんのやうに表情を硬張こはばらせて歩いて来る修一とぱつたり出会つた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
とはいえ、一団の人、いずれも仮面めんをかけているから、品格のほども、年配のほども、一切わからない。狐狸妖怪の世界か、それとも人間か。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鼠を入れて置くふくろが一つ、衣装や仮面めんをしまって置くはこが一つ、それから、舞台の役をする小さな屋台のような物が一つ——そのほかには、何も持っていない。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
破裂した血管の血は真白に吸収されて、侮蔑ぶべつの色のみが深刻に残った。仮面めんの形は急にくずれる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「畜生め、その怖ろしい仮面めんを脱ぎをれ! 人を愚弄するのも、もういい加減にしくされ!」
毎年秋の末に村の人達が木の刀を腰にさして、狸山へ上つて、其所そこで太鼓を打いて、狸の仮面めんを被つて踊ります。森の中にはお宮があつて、そのお宮を「馬鹿七権現ごんげん」と申します。
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
一体村田は長州に行て如何いかにも怖いと云うことを知て、そうして攘夷の仮面めんかぶっわざとりきんで居るのだろうか、本心からあんな馬鹿を気遣きづかいはあるまい、どうもあれの気が知れない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
次にこれも仮面めんにて猿田彦に扮たるもの一人、麻にて作りたる幌帽ほろばうしやうの物をかむり、手杵てきねのさきを赤くなして男根なんこん表示かたどりたるをかたぐ。三ばんに法服はふふく美々びゝしくかざりたる山伏ほらをふく。
捨吉は既に田辺の家の方からある心の仮面めんかぶることを覚えて来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは何かと云うにかつらです鬘や仮面めんには随分逆毛が沢山交ッて居ますそれだから私しは若しや茶番師が催おしの帰りとか或は又仮粧蹈舞ファンシーボールに出た人が殺したでは無いかと一時は斯も疑ッて見ました併し大隈伯が強硬主義を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
井戸の守り 仮面めんのやうに顔をつくる
青い 仮面めんこの こけおどし
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)