亡者もうじゃ)” の例文
オニなども今ではつのあってとらの皮をたふさぎとし、必ず地獄に住んで亡者もうじゃをさいなむ者のごとく、解するのが普通になったらしいが
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「極東」のシナ人までこめた世界じゅうの黄金亡者もうじゃが、バラックと二ちょう短銃と砂金袋と悪漢とシェリフの国をつくるべく押寄せた。
今のさき取りかたづけさせたあの五人の亡者もうじゃにでも食べさせるつもりであるなら、さかな屋で生臭入りの弁当もおかしいのです。
経巻は六道を行く亡者もうじゃのために六部お書かせになったのである。宮の持経は六条院がお手ずからお書きになったものである。
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「ああ、ユトリロ。まだ生きていやがるらしいね。アルコールの亡者もうじゃ死骸しがいだね。最近十年間のあいつの絵は、へんに俗っぽくて、みな駄目」
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
我執がしゅうと自負と虚偽きょぎとのわなにかかって身もだえしている嫉妬心の亡者もうじゃ、それ以外に今の自分に何が残されているというのだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「むむ、宮戸川のお光か。道理で、見たような女だと思った。あいつ、いい亡者もうじゃになって大道占いに絞られている。はは、色男でも出来たかな」
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
本堂の背後うしろは墓地でもあろうか、浮世に未練を残した亡者もうじゃが地下でひそかにむせぶかのような夜鳥の啼く声が聞こえて来る。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
如何様どんなお寺にも過去帳がある。彼は彼の罪亡ぼしに、其の過去帳から彼の餌になった二三亡者もうじゃの名を写して見よう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
声を聞いても、ぞっとするというやつだ。なるほど、わたしは厭なやつで、がりがり亡者もうじゃで、暴君かもしれない。
近頃になって人間が死ななくなった訳でもあるまい、やはり従前のごとく相応の亡者もうじゃは、年々御客様となって、あのげかかった額の下をくぐるに違ない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「何処へも行きゃあしないさ。こうしてね、ぼつぼつ商売を始めるんだよ。そのうちに、亡者もうじゃがやってくるから、そしたら、私のいう通りにすればいい」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあやし火の中をのぞいて見ろい、いかいこと亡者もうじゃが居らあ、地獄のさまは一見えだ、と千太どんがいうだあね。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
来たな、どのつら下げて何といって来たか。亡者もうじゃとは言いながら、よくかぎつけて来たものだ。こうなってみると、どっちが先走りをしたものかわからない。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
花を尋ねたり、墓を訪うたり、美しい夢ばかり見ていたあの頃の自分には、このイタリア人は暗い黄泉の闇に荒金を掘っている亡者もうじゃか何かのように思われた。
イタリア人 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
馬鹿あかせ、三銭のうらみ執念しゅうねんをひく亡者もうじゃ女房かかあじゃあてめえだってちと役不足だろうじゃあえか、ハハハハ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
木乃伊みいらとか、とにかくそんなような、そしてまったく感応性なんてもののない……そうだ、つまり亡者もうじゃだね
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
それからこちらの住人じゅうにんとしてなによりつつしまねばならぬは、うらみ、そねみ、またもろもろの欲望よくぼう……そうったものにこころうばわれるが最後さいご、つまりは幽界ゆうかい亡者もうじゃとして
赤鬼青鬼にひったてられて亡者もうじゃがこの鏡の前に立つと、亡者生前せいぜん罪悪ざいあくが一遍の映画となって映り出す。この大魔鏡だいまきょうこそは航時機タイムマシーンを併用して居る無線遠視器である。
十年後のラジオ界 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
「手足を縛って猿轡をはめて溺れ死んだ上、わざわざそれを解いて身投げする亡者もうじゃはあるまい、八」
まるで燐火おにびのように生白く見えて来るにつれて、踊っている人達の身体の色がちょうど、地獄に堕ちた亡者もうじゃを見るように、赤や、緑色や、紫色に光って見えて来るんですって。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
が、その声は、地獄の亡者もうじゃの笑い声のようにしわがれたからっぽな、気味の悪い声であった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
おまえは、なにかまぼろしを見て、そうしていたのじゃろうが、いつまでも、そうしていたら、平家の亡者もうじゃの中へひきこまれ、ついにはつざきにされてしまうところじゃった。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
苦痛にしいたげられ、悪意にゆがめられ、煩悩ぼんのうのために支離滅裂になった亡者もうじゃの顔……葉子は背筋に一時に氷をあてられたようになって、身ぶるいしながら思わず鏡を手から落とした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
庭径をながむれば樹木も戦慄せんりつするように思われ、木の葉のさらさらとそよぐ音にも、家なき亡者もうじゃの私語が聞こえる。地獄の門前にいるまじめくさった番兵のように、灰色の燈籠とうろうが立っている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
亡者もうじゃは足がはやく、一般の苦力さえも知らないような近路をして走り廻る。私はもう一度大きい声を立てて笑ったが、なんだか気違いになりそうな気がしたので、あわててその笑い声をおさえた。
あの亡者もうじゃどもの名簿が御入用なんでがしたな? おやすい御用で! わしはな、今度の人口調査に戸籍から削除けずってもらおうと思って、ちゃんと別の紙に一人のこらず書きつけておきましたわい。
「どうじゃな。この剃刀では亡者もうじゃの頭をたくさん剃ったであろうな」
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
頭陀袋一つで亡者もうじゃが浮かばれねえってわけでもあるめえに。
僧「斯ういう亡者もうじゃには血盆経けっぽんきょうを上げてやらんと……」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
背中の貼紙——「亡者もうじゃ」と大書してある。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
亡者もうじゃの案内をなさる
五人とも亡者もうじゃの姿がなくなっておりましたゆえ、にわかに騒ぎだして、八方へ手分けしながら捜したところ——
しきりにパチつかせていたが「本当にさ、幽霊だの亡者もうじゃだのって、そりゃ御前、むかしの事だあな。電気灯のつく今日こんにちそんな箆棒べらぼうな話しがある訳がねえからな」
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と思うと、なにかんがえたか、さい河原かわら亡者もうじゃのように、そこらの小石をふところいっぱいひろいこんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
単なる亡者もうじゃの隠れ行く処であるにとどまらず、絶えず是から流れ出て、現世を楽しく明るくするものの、ここが主要なる源頭であることを、かつて我々は南北共同に
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「うふ、ゆうべだけじゃないよ。このごろは、亡者もうじゃども、一般に金まわりがよいと見えて、見料の外にチップを置いていくよ。あきれた時勢だな。はッはッはッはッ」
第四次元の男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一度何処どこか方角も知れない島へ、船が水汲みずくみに寄つた時、浜つゞきの椰子やしの樹の奥に、うね、透かすと、一人、コトン/\と、さびしくあわいて居た亡者もうじゃがあつてね
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それをする時にていよく組を別けて、一組は留守を守り、一組は垣根を越えて行くのでありました。こうして外へ迷い出して歩くものを、彼等の仲間で亡者もうじゃと呼んでいました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
下界の動乱の亡者もうじゃたちに何かを投げつけるような、おおらかな身振りをしていて、若い小さい処女のままの清楚せいその母は、その美しく勇敢な全裸の御子みこに初い初いしく寄り添い
俗天使 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あッと顔見合せる一座の中へ、月代さかやきひげも伸び放題ながら清らかな紋服に着換えた林太郎は、細々とした自分の影を踏んで、——冥途めいどを行く亡者もうじゃのように静かに進み出たのです。
肝心の時は逃げ出して今ごろ十兵衛が周囲まわりありのようにたかって何の役に立つ、馬鹿ども、こっちには亡者もうじゃができかかって居るのだ、鈍遅どじめ、水でも汲んで来て打っけてやれい
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
宇宙万象も何もかもから切り離された亡者もうじゃみたようになって、グッタリと椅子にたれ込んで底もはてしもないムズがゆさを、ドン底まで掻き廻わされる快感を、全身の毛穴の一ツ一ツから
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「大日如来がうそを仰せられたのでなければ、私が熱誠をこめて行なう修法に効果の見えぬわけはありません。悪霊は執拗しつようであっても、それはごうにまとわれたつまらぬ亡者もうじゃではありませんか」
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
まだ気の毒な亡者もうじゃも、より気の毒な生き残りも二三あります。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
亡者もうじゃのような心地。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こんな真似をしてすましていたものは旧弊な亡者もうじゃと、汽車へ積み込まれる豚と、宗伯老とのみであった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
無断で出京したに違いないと見、流行の苦学亡者もうじゃを諭戒するような語で、あたまからぼくを叱った。
はあてね。寺帳とね。亡者もうじゃ調べの過去帳なら話もわかるが、寺帳とはまた初耳だ。そんなものを
この小塚原の亡者もうじゃどもが浮び出すほど、踊って待っていろ……ところでいったい、お前たちは無暗に踊ったり跳ねたりしているようだが、踊りのこつというものを知っているのか
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)