些少さしょう)” の例文
些少さしょうながら、席料の代わりに謝金を包みて床の間の上に置けり。また、別に残肴を入れたる折二箱あり。請う、晩酌の助けとせよ』
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
われわれは柿崎に利用されているだけだ、道場の稽古も、出稽古も、すべて六人に任せていながら、毎月の手当は極めて些少さしょうである。
もっとも些少さしょう東西ものなれども、こたびの路用をたすくるのみ。わがわたくし餞別はなむけならず、里見殿さとみどのたまものなるに、いろわで納め給えと言う。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「よく教えてくれました。いろいろおもてなしにあずかってかたじけない。些少さしょうでござりまするが、お灯明とうみょう料にご受納願いとうござる」
そういう場合になれば、私たちも出来るだけのことは些少さしょうなりとも致しましょう。只、現在は私の経済力も到って小さくて残念ですが。
そこに些少さしょう庇護ひごや作為が加えられたろうけれども、しかし親子の間柄が案外うるわしかったであろうことは、ほゞ想像出来なくはない。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これの件々は逐一ちくいちかぞうるにいとまあらず。到底とうてい上下両等の士族はおのおのその等類の内に些少さしょう分別ぶんべつありといえども、動かすべからざるものに非ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
道徳的干渉をなすよりも、唯些少さしょうの金銭を与えて折々の災難を救ってやるのが最もよくその人を理解した方法であると考えていたのである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
床の間のわき、押入の中の手箱には、些少さしょうながら金子たくわえおき候えば、荼毗だびの費用に御当て下されたく、これまた頼入り候。
世界は、些少さしょうの真実と多くの虚偽とで身を養っている。人間の精神は虚弱であって、純粋無垢むくな真実とは調和しがたい。
非常なはにかみ屋で、人前で目立つような些少さしょうの行為も最もやりたがらぬ人だったのに、これだけは例外で、どうにも、やむを得ないという風だった。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ここで、お雪ちゃんがはじめて、「はい」と「有難う」との単語のほかに、些少さしょうながら感激の力のある言葉を発しました。これに力を得たお角さんは
太鼓の担ぎ賃として、これは些少さしょうながら、それがしからの御礼だ。失礼ではあろうが、笑って受取ってもらいたい。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
些少さしょうでも疑わしい者は容赦なく拘引こういんされた。その網に引っかかっただけでも、おびただしい人数といわれている。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
賃銀を渡す時間を早くしてもらおうというようなことがちアんと出ていたために(事はそんな些少さしょうなことだったが)、皆の間に大きな評判をき起したのである。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
諸君が姑息こそくの慈善心をもって、些少さしょうなりとも、ために御斟酌下さろうかと思う、父母も親類も何にもない。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
漢字廃止論のあるこの頃かかる些少さしょう誤謬ごびゅうを正すなど愚のいたりなりと笑ふ人もあるべし。されど一日なりとも漢字を用ゐる上は誤なからんを期するは当然の事なり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼は突然汽車でって来て、急に入用いりようが出来たから、是非とも少し都合してくれまいかと頼むので、健三は地方の銀行に預けて置いた貯金を些少さしょうながら用立てたら
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私たちはさいわいにも各地から多かれ少かれ品物を拾いあげることが出来た。だが数で表わせば、それらを取り囲む無数の品物に対して、まこと些少さしょうな歩合を占めるに過ぎない。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ウェリントンは頑固がんこであり、そこに彼の価値はあった。そして吾人ごじんはそれをけなすものではない。しかし彼の歩兵や騎兵の些少さしょうといえども彼と同じく堅固だったのである。
眼前にある些少さしょうの故障を懸念けねんして、この遷都の機会をうしなったら、この国の大事もついに去るであろう——実際、こんなふうに言わるるほどの高いうしおがやって来ていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
百年前の取扱いも些少さしょうながらその印象を止めているはずである。それでただ現在の重量や温度その他の外界条件一切を羅列しても一条の弾条の長さは決定するものではない。
方則について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
囲中また徒士立ちて大なる棒また犬また銃を用いて兎の逃げ出るを防いだとあって、兎狩も大分面白い物らしいが、熊楠はこんな人騒がせな殺生よりはやはり些少さしょうながら四
軽忽きょうこつより誤って御足をとどめ、まことに恐れ入りました。些少さしょうにはござりますれど、御用を
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その歓喜に比しては比較にもならぬほど些少さしょうなものであるのを知った時、してや投げ与えたと思ったその贈品すら、畢竟ひっきょうた自己に還って来るものであるのを発見した時
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
些少さしょうながら、これに金三百円ありまするじゃ。百円はわしの寸志すんし、のお伴田さん、男子は何よりも気骨が大切じゃ。小さな事に有為な生涯を誤らないで、折角勉強して下さい」
自殺を買う話 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
「——が、手ぶらでは参りません。さしずめ、御配下への手当やら軍費として、些少さしょうではありますが、三の駒に金銀を積んで来ました。御受領くださればありがとうぞんじまする」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしここに、彫りあげるまで人に見られたくないという絶対境の作阿弥の芸術心に、些少さしょうの尊敬しかはらわない人があって、今この小屋をすき間から、ソッとのぞいたとしたら……。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
天を根源とすることは言わば理論であって、道路もなく方角もさだかならず、まぼろしのりどころというものが無い。高天原たかまがはらとても同じことだが、是にはまだ些少さしょうの地理的観念がある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
些少さしょうの改変を加えるのは、必ずしも冒涜的なことではないと思うのである。
もしこれがアナトオル・フランスであったなら、こんな幼時の些少さしょうくだけた感動の種子からも、丹誠して見事な花を咲かせたであろう。鶴見は気まぐれにも、ここでそんな考をめぐらして見た。
かりにもし、ドイツ人は飲料水の代りに麦酒ビールを飲むそうだから我々もそうしようというようなこと……とまではむろんいくまいが、些少さしょうでもそれに類したことがあっては諸君の不名誉ではあるまいか。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
またはそれに些少さしょうの変更を加えるにとどまるであろう。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
第二に、その装置すでに動揺しやすき組み立てを有するをもって、これに些少さしょうの変動を与うるも、大なる動揺を呈するの事情あり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
夫婦正しく一身同体、妻の病気には夫の身を苦しめ、夫の恥辱には妻の心を痛ましめ、其感ずる所に些少さしょうの相違あることなし。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかし日本の空気の是非なさは遠近を区別すべき些少さしょうの濃淡をもつけないので、堀割の眺望ながめはさながら旧式の芝居のひらた書割かきわりとしか思われない。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「さぞ不本意だろうが」と、頼母は云いかけて、しかし、あとは云わずに、紙に包んだ物をそこへさし出し「些少さしょうではあるが謝礼だから」と云った。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
思った事と、それを言葉で表現する事との間に、些少さしょう逡巡しゅんじゅん、駈引きの跡も見えないのです。あなた達は、言葉だけで思想して来たのではないでしょうか。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
この殺人は、沈黙と、些少さしょうの抗争のうちにごく短時間に行なわれたに相違ない。多くの場合、体は、浴槽の幅の広い部分へ脚を向けている姿勢で発見された。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
して著述せるものに御座そろって本書をあまねく一般の家庭へ製本実費に些少さしょうの利潤を附して御購求ごこうきゅうを願い一面斯道しどう発達の一助となすと同時に又一面には僅少きんしょうの利潤を
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
些少さしょうながらご進物としてさし上げそうろうまま、一服盛りにでもご手料理くだされたくそうろう
「ただこの手紙を持って扇屋へ立寄り、名宛の人に渡してもらえばよろしい、名宛の人がおらぬ時は、預けておいてよろしい、返事は要らぬ、これは些少さしょうながらのお礼の印」
清水から五条坂にかけて軒並にならぶ店々をのぞいて見ましょう。何某何世と名のる焼物師も少くはありません。この都から作り出される焼物の量も些少さしょうなものではありません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もし小生の思い違いに候わずば、寛大なる貴下はこの陳述に動かされ、小生に些少さしょうの好意を寄せ恵みをたれんとの念を起こしたまわることを、期待して誤りなきかと信じ申候。
十円の蝦蟇口がまぐちから一円出すのはその人に取って大金だが、千万円のドル箱から一万円出したって五万円出したって、比例をして見ればその人に取って実は大金ではない、些少さしょうの喜悦税
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
コルネイユ師はそれらの人々のためにまた自分のために苦しんだ。しかし彼は忍従した。教会の長い歴史に比ぶれば、それらの困難の日々はいかに些少さしょうなものであるかを知っていた。
龍宮住居ずまいというわけのものでもない。……で些少さしょうなれどこの銀子ぎんすをお持ちあって、諸州を見くらべ、他の大きなとりでに身を寄せ、おのおののご雄志を充分に、よそで伸ばしていただきたい
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
些少さしょうたりとも犯罪に対して何等その疑いは無いのでありますが、お話のごとき事が事実有り得るものかどうか、後学のため、一種人情に対する警官の経験の為に、云うて、その室で飾ると云われた
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一、古来、日本にて学者士君子、ぜにを取りて人に教うるを恥とし、その風をなせるがゆえに、私塾にて些少さしょうの受教料を取るも大いに人の耳目を驚かす。
「冗談を云っちゃあ困るね、私はおまえさんの眼の前で銭を数えた、駄賃のほかに些少さしょうだがこころづけも添えて包んだ、おまえさんそれを見ていた筈じゃあないか」
雪の上の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)