中食ちゅうじき)” の例文
よほど困窮していたと見えて、初めての日の中食ちゅうじきに、竹の皮へ包んできた握飯おにぎりと梅干をつまんで食べたので侮ってしまったのだった。
おい、おかくさんとやら、お前忘れはしまい、十三年あと鴻の巣の田本で中食ちゅうじきをした時お前さんと道連になり、やれこれ云っておえいを
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
岐阜ぎふ釜座町かまざまちの辻で、彼は、中食ちゅうじきなどすまして出て行った。しきりに町の軒ならびを眺めながら行く。何を求めるのでもない。ただ時々
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その日は中食ちゅうじきを外でして、三時過ぎに帰って、自分の部屋へ這入はいると間もなく、茶を飲みに来いと云って呼びにきた。今日も曇っている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっとも、あらかじめこれだけは断わっておきたい。それは、毎日朝食から中食ちゅうじきまでの時間は講義にあててあるということだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
娘は、お中食ちゅうじきのしたくいたしましょうかといったきり、あまり口数をきかない、予は食事してからちょっと鵜島うじまへゆくから、舟をたのんでくれと命じた。
河口湖 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
なるほど、その顎の向った方角、活鯛いけだい屋敷の前に、いつの間に出来たか、洒落しゃれた料理屋が一軒、大門松を押っ立てて、年始廻りの中食ちゅうじきで賑わっていたのです。
午の下刻げこく、上様ご中食ちゅうじきの後、お仮屋青垣かりやあおがきまでお出ましになるが、特別の思召しをもって、垣そとにて両人に床几しょうぎをさしゆるされる。……介添かいぞえはおのおの一名かぎり。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
古戦場を弔うような感想を生じてその一軒に入り、中食ちゅうじきを求め数多き一間に入って食いながら床間とこのまを見ると、鉄砂で黒く塗りいる。他の諸室をめぐるに皆同様なり。
「彼等二人は、ちょうどお中食ちゅうじきをしているに違いない……」と彼は思った。「テーブルの上には真白な布が敷かれて、コックがおさいを運んで来る。たぶん支那料理だろう。 ...
幸福な家庭 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ミハイル、アウエリヤヌイチはこのごろでは始終しじゅうかれ留守るすにばかりく。ダリュシカは旦那だんな近頃ちかごろ定刻ていこく麦酒ビールまず、中食ちゅうじきまでもおくれることが度々たびたびなので困却こまっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
道を挟んで、牡丹と相向う処に、亜鉛トタンこけらの継はぎなのが、ともに腐れ、屋根が落ち、柱の倒れた、以前掛茶屋か、中食ちゅうじきであったらしい伏屋の残骸ざんがいが、よもぎなかにのめっていた。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女中が京子の居間へ中食ちゅうじきを知らせに行くと、そこにいる筈の京子の姿が見えないので、それから騒ぎになって、邸中やしきじゅうを隅から隅まで探し廻ったが、まるで蒸発してしまった様に
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
種彦はどこかこの近辺に閑静で手軽な料理茶屋でもあらば久ぶり門人らと共に中食ちゅうじきととのえたいと言出すと、毎日のぞめきあるきに至極案内知ったる柳下亭種員たねかず心得たりという見得みえ
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二人は停車場の付近にあるる小ぎれいな旅館を兼ねた料理屋で中食ちゅうじきをしたためた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ここで中食ちゅうじきをしている間にも、お松はその心持で街道の方を眺めていました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
身仕度が終ると家を出てよいの六時まで散歩し六時に外で中食ちゅうじきを済せ、夫から多くはゲルボアの珈琲館に入り昔友達と珈琲をのんだり歌牌かるたを仕たりして遅くも夜の十一時には帰て来て寝床ねどこに就きました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
シュールダンの大広間は中食ちゅうじきの人々でいっぱいである。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
文「左様か、どうも有難い、ついては御亭主中食ちゅうじきの用意をして下さい、今から夜へ掛け、その二居峠中の峰までかにゃアならぬ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
、これなりでは何やら惜しまれてなりません。……どこかそこらの小酒屋で、ご中食ちゅうじきでもともにしていただけますまいか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初秋の浜名湖はまなこを渡って、舞坂まいさかの宿外れ、とある茶店で中食ちゅうじきを認め、勘定をするつもりで取出とりだした紙入を、衝立ついたての蔭から出た長い手が、いきなりさらって表口へ飛出したのです。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
馴染なじみになって、元老の娘が、五つばかり年紀上としうえだが優しいおんなで、可愛い小僧だから、ついしたしんで、一日あるひ、能会の日、中食ちゅうじきの弁当を御馳走して、お茶を入れて二人で食べていた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私の想像に間違いなければ、林君は昨日正午、中食ちゅうじきを終ると二郎君の部屋から弾丸たまの装填してあった火繩銃を持ち出して、この部屋に戻り、それをこの机にもたれ乍らもてあそんでいたのです。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その人たちが——無数な人たちが、一時大丸の店を一ぱいに占領してお中食ちゅうじきをする。それから一休みして順繰りにくりだす。先頭が両国橋へかかる時分に、まだ中頃のが足揃いをしている。
中食ちゅうじきはテストフてい料理店りょうりてんはいったが、ここでもミハイル、アウエリヤヌイチは、頬鬚ほおひげでながら、ややしばらく、品書しながき拈転ひねくって、料理店りょうりやのように挙動ふるま愛食家風あいしょくかふう調子ちょうしで。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
中食ちゅうじき又左またざの浪宅にてしたためる。わしは葛屋くずやへ立寄って、饅頭まんじゅうあつらえて後より気まかせに参るゆえ、そちたちは、人見又左ひとみまたざの宅で待ちあわしておれ
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吾妻川べりに付いて村上山むらかみやまを横に見て、市城村青山村あおやまむらに出まして、伊勢町いせまちよりなかじょうというとこに掛った時はもう二時少々廻った頃、木村屋きむらやと申す中食ちゅうじき場所がございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
小田原の町外れ、上り下りの客に、一番安くて盛沢山もりだくさん中食ちゅうじきを食わせようという、一ぜん飯屋の奥、煮しめたような茣蓙ござの上にならんで坐って、宜い加減陶然とした二人でした。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
さきにはかれ中食後ちゅうじきごは、きっとへやすみからすみへとあるいてかんがえにしずんでいるのがつねであったが、このごろ中食ちゅうじきからばんちゃときまでは、長椅子ながいすうえよこになる。と、いつもみょうな一つ思想しそうむねうかぶ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
和田の山越えにかかって行ったということを、中食ちゅうじきをした旅籠屋はたごやの女中から聞きました——というのである。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌四日は鴻巣こうのす田本たもと中食ちゅうじきです。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
午刻ひるどきでもあるし、遠乗りの御空腹もあろうで、すぐまた、お中食ちゅうじき——と仰せ出されるかも知れぬ。早くくりやの膳部の者へ、料理の手廻しを、申しつけておけい」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中食ちゅうじきも出来る宿屋があります。
ちょうど割子わりご(弁当)をつかう時刻である。並木の蔭に、輿はおろされ、輿の内へも中食ちゅうじきが供された。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この一巻と、三、四通の文章とを、帛紗ふくさにつつみ、しかと、そちが肌身につけて持っておれ。——そして予が、羽衣はごろもを舞うて、舞い終る頃、午の中食ちゅうじきの休みとなろう。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中食ちゅうじきのときには家中の席へじって、かれも拝領の折弁当おりべんとうを手に楽しげに箸をつけていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
という触れこみであったが、単に中食ちゅうじきをとるためではなかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)