上人しょうにん)” の例文
また、その童子人形の右手が、シャビエル上人しょうにん遺物筐シリケきょうになっていて、報時の際に、チャペルを打つことも御存じでいらっしゃいましょう。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
天竺てんじく南蛮の今昔こんじゃくを、たなごころにてもゆびさすように」したので、「シメオン伊留満いるまんはもとより、上人しょうにん御自身さえ舌を捲かれたそうでござる。」
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「……吉水よしみず上人しょうにんには、はや今ごろは」善信は、持仏堂を出て、縁に立った。未明の空を仰ぎながら、ふとつぶやいて、憮然ぶぜんとなった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは子のひじりという有名な上人しょうにんが、初めてこの山に登った時に、ここで休んで、昼餉ひるげに用いた杉箸を地にさして行ったと伝えております。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
三師の苦諫くかん 夜の十一時前でございましたが、大谷上人しょうにんを始め他の随行の方々と我々と共に団坐だんざしてお話することが出来ました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
日ごろ嘲り笑っていた志賀寺しがでら上人しょうにんの執着も、今や我が身の上となったかと思うと、阿闍梨はあまりの浅ましさと情けなさに涙がこぼれた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
徳川光圀とくがわみつくにきょうの惜しまれた紙、蓮如れんにょ上人しょうにんの廊下に落ちあるを見て両手に取っていただかれたという紙、その紙が必要品たるに論はないけれども
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
ふと知恩院の所化道心しょけどうしん様となれそめまして、はかない契りをつづけていましたうちに、わたしとの道にそむいた恋がお上人しょうにんさまのお目にとまり
中世スペインの天主教名僧、ロムアルドの遺骸を、分配供養して功徳とせんと、熱心の余り、上人しょうにんを殺さんとしたごとし。
「ぼうさま、あなたは かねがね れんにょ上人しょうにんから うけたまわって おります 一休いっきゅうさまでは ござりませぬか?」
一休さん (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
それでゾシマ長老も万一の場合をおもんぱかって、額でこつんをやったのさ。後で何か起こったときに、『ああ、なるほど、あの上人しょうにんが予言したとおりだ』
ひどいのろいのことばが、大僧正の口からはきだされると、お寺のなかの昔のお上人しょうにんたちの像が首をふりました。
われらのご先祖と、一緒におすまいなされたお方じゃ。今でも爾迦夷上人しょうにんと申しあげて、毎月十三日がご命日じゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
捜すと父は本堂の護摩壇で槃若経はんにゃきょうを誦んでいた。目撃した人は、「あの小さいお上人しょうにんさんがまるで鐘のような声でお経をよんでいたのは本当に凄かった。」
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
東山にえらい上人しょうにんがあるという話をお聞きになって逢いにおいでになったのですと、私は披露ひろうしておきました
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あなたのようなとうといお上人しょうにんさまにおにかかったのは、わたしのしあわせでした。どうかあなたのあらたかな法力ほうりきで、わたしをおすくいなすってくださいませんか。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その後、この上人しょうにんが、鼠一匹のことから、何かにつけて私を愛してくれられ、幸吉へと指名して彫る物を頼まれたことも度々たびたびで大いに面目を施したことがありました。
そうして父は最後まで剛情を押し通し、首をねられる間際になって七条道場の上人しょうにんがお経を誦したり念佛をすゝめたりした時にも、それには及ばぬと断ったと云う。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
市九郎は、現往明遍大徳衲げんおうみょうへんだいとくのうの袖に縋って、懺悔のまことをいたした。上人しょうにんはさすがに、この極重悪人をも捨てなかった。市九郎が有司ゆうしの下に自首しようかというのを止めて
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ただ上人しょうにんが在世の時自ら愚禿ぐとくと称しこの二字に重きを置かれたという話から、余の知る所を以て推すと、愚禿の二字はく上人の為人ひととなりを表すと共に、真宗の教義を標榜し
愚禿親鸞 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
『浪化上人しょうにん発句集ほっくしゅう』にはこの句は見えず、「二三日蚊屋のにほひや五月雨」という句が出ている。「二三日」も「にほひ」もこの方にはあるが、果してどう混線したものか。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
安政五年九月十日の、うまの刻のことでございますが、老女村岡様にご案内され、新関白近衛このえ様の裏門から、ご上人しょうにん様がご発足なされました際にも、私はお附き添いしておりました。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(つづけてよむ)いかなるちしき上人しょうにん、そのかみ、しゃか仏ほどのにょらいも、五体に身を受けたまえば、やまいのくるしみ、しょうろうびょうしとて、なくてかなわぬ物にてそうろう
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
私にこういう経験があるのです、私が若い頃、宮中に勤める身でありまして、ここの上人しょうにんに就いて声明学を研究しようと思って、京都の今出川から、毎日毎夜、ここへ通いました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
家康公いえやすこうの母君の墓もあれば、何とやらいう名高い上人しょうにんの墓もある……と小さい時私は年寄から幾度となく語り聞かされた……それらの名高い尊い墳墓も今は荒れるがままに荒れ果て
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その付近で火に焼かれたり川へはいって死んだりした者の供養のためで、浅草寺からなにがし上人しょうにんとかいう尊い僧が来て開眼式かいげんしきがおこなわれ、数日のあいだ参詣の人たちでにぎわった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
にこにこ笑いながら、縮緬雑魚ちりめんざこと、かれい干物ひものと、とろろ昆布こんぶ味噌汁みそしるとでぜんを出した、物の言振いいぶり取成とりなしなんど、いかにも、上人しょうにんとは別懇べっこんの間と見えて、つれの私の居心いごころのいいといったらない。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあまあ、五十嵐さん——」とお上人しょうにん山村常顕やまむらじょうけんが食卓の向うからとめた。
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
それから二度めに法事いした時には、中山のお上人しょうにんさまを招ばって御祈祷をしたてえから、紀伊國屋でも魂消て若草の法事いするような心に成ったかえと思えば、わしも少しは胸が晴れやしたよ
上人しょうにんの俳諧の灯取虫ひとりむし
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
そこで、それがどうして、「さまよえる猶太人」だとわかったかと云うと、「上人しょうにんの祈祷された時、その和郎わろうも恭しく祈祷した」
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すべて言語道断な次第じゃ。じゃによって、一山大衆だいしゅの名をもって、上人しょうにんの裁可を仰ぎ、即刻、わが浄域じょういきより追放を申しつくるものである
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いいではありませんか、いちいちあちらへ報告されるのであれば遠慮もいるでしょうが、愛宕あたご山にこもった上人しょうにん利生方便りしょうほうべんのためには京へ出るではありませんか。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ヒジリは上人しょうにんで女房はないはずであるのに、時々はそのひじりの児というものがいたのである。キーは調子を高く別に発声するから、恐らくはあざける意味に聴えたのであろう。
それから寺が建てられていろいろ尊いラマ(上人しょうにんという意味)が参りまして、その後ズクパ派のラマでギャルワ・ゴッツァン・パーという人がここに完全な道場を建てられた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「はい、この あたりの ものは、みな れんにょ上人しょうにんの しんじゃに ござります。」
一休さん (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
上人しょうにん、読んでいましたのは御存じの雨月なんですが、私もなぜか自分の声に聞きれるほど、時々ぞッぞッとしちゃあその度に美しい冷い水を一雫ひとしずくずつ飲むようで、が涼しいんです。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
べっぴんの若いご上人しょうにんさまがあって、ぽうとなった女の子があって、会いたい、見たい、添いとげたい。ままになるならついでのことに、ときどき尊い引導も授けてもらいたい、——とね。
また御定番ごじょうばんの松浦九兵衛尉どのは法華ほっけの信者でござりまして、小庵しょうあんをむすんで上人しょうにんをひとり住まわせておかれましたところ、その上人もまつうらどのがろうじょうなさるのをきかれまして
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
で前の晩は、諸鳥歓喜充満せりまで、文の如くに講じたが、の席はその次じゃ。則ち説いて曰くと、これは疾翔大力さまが、爾迦夷るかい上人しょうにんのご懇請こんせいによって、直ちに説法をなされたとうじゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
黒谷くろだにもうでしはべりけるに、上人しょうにん出合い、この道無をば見もやらで、かの金持ちの男をあながちにもてなし、……さてさておぼしめし寄りての御参詣かな、仏法の内いかようの大事にても御尋ね候え
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
「ではお上人しょうにん、一つ加持かじをしてみてください。」
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
禅房の戸が、ふくらむように、がたがたと鳴っていたが、そのうちに、上人しょうにんの寝屋の戸がはずれて、車を廻すように、豪雨の庭へころがった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし筆者の言をそのまま信用すれば「ふらんしす上人しょうにんさまよえるゆだやびとと問答の事」
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ヒジリは修業僧で、女房を持たぬ者の名であったのに、この頃は隠すは上人しょうにんせぬは仏というまでに、有りふれた秘密になっていた。それでこの贈答が聴く人の腹の皮をよらせたのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
道連みちづれになった上人しょうにんは、名古屋からこの越前敦賀えちぜんつるが旅籠屋はたごやに来て、今しがた枕に就いた時まで、わたしが知ってる限り余り仰向あおむけになったことのない、つまり傲然ごうぜんとして物を見ないたちの人物である。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ブッダ・バッザラ師は世間の人からギャア・ラマすなわちシナの国の上人しょうにんと言われて居る。というのはこの人の阿父おとっさんはシナ人でネパールへ来て妻君を貰うてこの大塔だいとうのラマになったのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
れんにょ上人しょうにんは そのころ の きこえた えらい ぼうさんでした。
一休さん (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
おのれを生身しょうじん普賢ふげんになぞらえまたあるときはとうと上人しょうにんにさえ礼拝されたという女どものすがたをふたたびこの流れのうえにしばしうたかたの結ばれるが如く浮かべることは出来ないであろうか。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
合掌がっしょうです……合掌作礼さらいしなければいけませんよ。あなたのために、いよいよ上人しょうにんさまが、お剃刀かみそりの式をとるのですから」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)