靴下くつした)” の例文
もっと靴下くつしたもポケットに入ってゐるし必ず下らなければならないといふことはない、けれどもやっぱりこっちを行かう。あゝいゝ気持だ。
台川 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
山路で、大原女おはらめのように頭の上へ枯れ枝と蝙蝠傘こうもりがさを一度に束ねたのを載っけて、靴下くつしたをあみながら歩いて来る女に会いました。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
殊にあしは、——やはり銀鼠の靴下くつしたかかとの高い靴をはいた脚は鹿の脚のようにすらりとしている。顔は美人と云うほどではない。
お時儀 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それから、靴下くつしたぐところも見ます。白くて固い、かわいらしい小さなあしが現われてきます。ほんとにキスをしてやりたいような足です。
晩には、もう気力もつきはてて、ほとんど口もきかず、食事を済すと、靴下くつしたつくろいながら、椅子いすにかけたまま居眠りをした。
くつも、靴下くつしたも、ふくらはぎ真黒まっくろです。緑の草原くさはらせいが、いいつけをまもらない四人の者に、こんなどろのゲートルをはかせたのです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
けれども、そうしているうちに、もう一羽のカラスが飛んできて、こんどは靴下くつしたをひっぱりましたので、ニールスは地べたにたおされてしまいました。
彼は快活な背の低い老人で、教服をまくって下から赤い靴下くつしたを出していた。その特長は、大百科辞典をきらうことと、撞球たまつきに夢中になることとであった。
怪しい男は、うずくまって靴下くつしたをぬいだと思うと、こんどは上着うわぎをぬぎ、チョッキのボタンをはずしはじめた。
くつばかりぢやない。うちなかまでれるんだね」とつて宗助そうすけ苦笑くせうした。御米およね其晩そのばんをつとため置炬燵おきごたつれて、スコツチの靴下くつした縞羅紗しまラシヤ洋袴ずぼんかわかした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこで、しめているおびをなげてやりました。これでもまだだめなので、靴下くつしたどめをなげてやりました。
けれども脚は、ほっそりしていて、絹の靴下くつしたは、やけに薄い。男が来た。ポマードを顔にまで塗ってるみたいな男だ。女は、にっと笑って立ち上った。僕は顔をそむけた。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それも以前なら手紙を書く時間でございましたのに、只今ただいまは子供たちの大きな穴や小さな穴のあいた靴下くつした這入はいったかごを持ち出して来て、それにかかりきりの始末でございます。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おかあさんはそれから、一晩ひとばんのうちにたくさんのふじのつるで、着物きものはかまと、くつから靴下くつしたまでって、んで、って、その上にやはりふじのつるで、ゆみをこしらえてくださいました。
春山秋山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
こはいのがごそりとげると……靴下くつしたならまだい「なに體裁ていさいなんぞ、そんなこと。」邊幅へんぷくしうしないをとこだから、紺足袋こんたびで、おやゆびさきおほきなあなのあいたのが、油蟲あぶらむしはさんだごとあらはれた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
シューラの身体からだはぐるぐるまわされたり、さぐりちらかされたりして、くまなく検査けんさされた。おまけに少しずつはだかにされた。小使こづかい長靴ながぐつをぬがして、ふるって見た。万一のために、靴下くつしたもはいでみた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
去年のお正月には靴下くつしたを編んであげたし、それからハンケチの縁を縫ってあげたし、それからまだ毛糸の手袋だの、腕ぬきだの、それどころか今年の御年始には赤い毛糸でシャツまで編んであげたに
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
つくろった靴下くつしたでも穿くときはしわの寄らないように。
現代若き女性気質集 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
れた靴下くつした縫つてゐる……
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
しかし両脚のない悲しさには容易に腰を上げることも出来ない。そのうちに下役は彼のそばへ来ると、白靴や靴下くつしたはずし出した。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
またこんども、一羽がニールスのえりをつかみ、もう一羽が靴下くつしたをつかんで、つれていくつもりとみえます。そこで、ニールスはあわてて言いました。
彼はいつも立っていて、あざやかに化粧をし紫の靴下くつしたをはき、明らかにその小さなカラーをよく見せんためであろうが、戸に背を向けていたものである。
それにしても神保町じんぼうちょうの夜の露店の照明の下に背を並べている円本えんぽんなどを見る感じはまずバナナや靴下くつしたのはたき売りと実質的にもそうたいした変わりはない。
読書の今昔 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かがんで靴下くつしたかわかしていたせいのひくい犬の毛皮けがわを着た農夫が、こしをのばして立ちあがりました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「あなたの靴下くつしたをあむんでしょう? それなら、もう、八つふやさなければ、はくとき窮屈よ」
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ところがまず眼の前の机、書物、手拭てぬぐい座蒲団ざぶとんから順々に進行して行李こうりかばん靴下くつしたまでいったが、いっこうそれらしい物に出合わないうちに、とうとう一時間経ってしまった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
朝になって寝床から引き起こされても、ぼんやり我れを忘れていて、裸のままの小さい両足を寝台の外にたれたり、またしばしば、一方の足に靴下くつしたを二枚ともはいたりした。
そうすると、一ぴきが燈火あかりをもってハンスを寝間ねまへつれて行く、一ぴきが靴をぬがせる、一ぴきが靴下くつしたをぬがせる、そしていちばんおしまいに、一ぴきが燈火を吹きけしました。
靴下くつしたの脚を寒そうに曲げて坐っていた光代は、流石さすがに今日は慎しんでいるようであったが、光ちゃん、いやに大人しいねと、御牧に盛んに杯をさされて、今日はそんなにいじめないでよ
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ああっ! やつはくつをぬいだぞ、靴下くつしたもぬいだ。あれっ! 足がない」
なぜって、靴下くつしたしかはいていないのですからね。オーレ・ルゲイエは、そっとドアをあけて、子供たちの目の中に、シュッと、あまいミルクをつぎこみます。でも、ほんの、ほんのちょっぴりですよ。
彼は絹の靴下くつしたをはきバイオリンをささげて襲撃が行なわれたレリダ市の攻囲のおりの勇士のひとりだった。
玄関げんかんに出たとき、じぶんの木靴きぐつはどこにあるかと見まわしました。いままで部屋の中では、靴下くつしたしかはいていなかったのですからね。少年は心のうちに思いました。
もしも誰か途中とちゅうで止っていてはわるい。もっと靴下くつしたもポケットに入っているしかならず下らなければならないということはない、けれどもやっぱりこっちを行こう。ああいい気持きもちだ。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彼は書物の前にすわって、まゆをしかめテーブルに両ひじをついて、何にも聞こえないようにこぶしを両耳に押しあてていた。ジャンナン夫人は靴下くつしたを繕いながら、老婢ろうひと話をしていた。
二人だけが長い行列にさえぎられて外の人達と離れてしまったのであったが、その時橋寺氏は、とある雑貨店の飾窓が眼に付いたので、僕、靴下くつしたを買いたいんですが、一緒に行って見てくれませんかと
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
偶然出会う何でもない婦人の白い靴下くつしたを見せられる方が、彼にとってはまだしもいやでなかったろう。
一人は白粉をぬりたてた女で、半ズボンに黒い半靴下くつしたをはいていた。他の二人はフランネルの服をつけた男で、暑さにうんざりして、言葉を忘れたかのようにときどきうなり声を出していた。