雷門かみなりもん)” の例文
浅草の観音堂について論ずれば雷門かみなりもんは既に焼失やけうせてしまったが今なお残る二王門におうもんをば仲店なかみせの敷石道から望み見るが如き光景である。
もと来た道へ帰ると、お水屋額堂を横に見て仁王門、仲見世なかみせの押すな押すなを右に左に人をよけて、雷門かみなりもんからそのまま並木の通りへ出た。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何分時間が早いので一応雷門かみなりもんの牛屋に上りまして鍋をつっ突き酒を加え乍ら、何方どっち方面の女にしようかと目論見を立てる事に致しました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
吾妻橋の西詰にしづめ雷門かみなりもんの電車停留所を、少し北へ行って、土手をおりた所に、吾妻橋千住大橋せんじゅおおはし間を往復している、乗合汽船の発着所がある。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
雷門かみなりもんを中心とし、下谷したや浅草あさくさ本所ほんじょ深川ふかがわの方面では、同志が三万人から出来た。貴方たちも、加盟していただきたい。どうです!
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
宵の町角を雷門かみなりもんの方へ出てゆくと、あとの四ツ目屋も戸をおろして、しとみ障子のうす明りに、「御小間物類おんこまものるい」という字ばかりが往来に残っている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少年の顔に往来する失望や当惑に満ちた表情。紳士は少年を残したまま、さっさと向うへ行ってしまう。少年は遠い雷門かみなりもんを後ろにぼんやり一人佇んでいる。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ただし、妾に少々都合もあり、考えも有之候これありそうらえば、九時より九時半までの間に雷門かみなりもんまでお出で下されまじくや。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
主人の佐兵衞が、今から二十五年前、觀音樣へ朝詣りをした時、雷門かみなりもんの側に捨てゝあつたのを拾つて、そのまゝ自分の子とも、奉公人ともなく育てたのでした。
二人が駕籠でくるわへ飛ばせたのは昼の八つ(午後二時)を少し過ぎた頃であった。雷門かみなりもんの前まで来ると、次郎左衛門を乗せた駕籠屋の先棒が草鞋の緒を踏み切った。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たままで通ってます」と、若い衆が灯火をつけながら教えてくれた。「浅草の方へ行ってますか?」ともう一度尋ねると雷門かみなりもんの前で止まると云うことであった。
貸家探し (新字新仮名) / 林芙美子(著)
せめて御賓頭顱おびんずるでもでて行こうかと思ったが、どこにあるか忘れてしまったので、本堂へあがって、魚河岸うおがし大提灯おおぢょうちん頼政よりまさぬえ退治たいじている額だけ見てすぐ雷門かみなりもんを出た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だがこの蓑市は『東都歳時記とうとさいじき』などには春三月十九日、冬十二月十九日と記す。いずれも浅草雷門かみなりもん前で市が立った。隔年に祭礼が行われない年は、十八日に変ったという。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
雷門かみなりもんで電車を下り、公園を抜けて、千束町、十二階の裏手に当る近所を、言われていた通りに探すと、渡瀬という家があったが、まさか、そこではなかろうと思って通り過ぎた。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
その女の家は、雷門かみなりもんの少し手前の横町であった。店にはお庄の見とれるような物ばかり並んでいたが、そこに坐っている女の様子は、お庄の目にも、あまりいいとは思えなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
が、ふと気がついて見ると、今はもう雷門かみなりもんもすぎて菊屋橋きくやばしまで来ていた。しかも私は、停留所の柱時計が十一時をすぎているし、あたりの店もそろそろ片づけ始めているのを見た。
近きベンチへ腰をかけて観音様を祈り奉る俄信心にわかしんじんを起すも霊験れいげんのある筈なしと顔をしかめながら雷門かみなりもんづれば仁王の顔いつもよりはにがし。仲見世なかみせ雑鬧ざっとうは云わずもあるべし。東橋あずまばしづ。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
浅草始まっての大火で雷門かみなりもんもこの時に焼けてしまったのです。
それが浅草の雷門かみなりもん辺であるかと思うほど遠くに見える。
熊手と提灯 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
雷門かみなりもん。へへへへ」望月は明らかに度を呑まれていた。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
わたくしははしくと共にすぐさま門をで、遠く千住せんじゅなり亀井戸なり、足の向く方へ行って見るつもりで、一先ひとまず電車で雷門かみなりもんまでくと
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三々五々人の往来する蔵前の通りを、はるか駒形こまがたから雷門かみなりもんをさしていそぐ栄三郎の姿が、豆のようにぽっちりと見える。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「そうであります」曹長の声は、すこしふるえを帯びていた。「雷門かみなりもん附近の、花川戸はなかわどというところであります」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
雷門かみなりもんで電車を降りると、吾妻橋を渡って、うろ覚えの裏通りへ入って行った。その辺一帯が夜中と昼とでは、まるで様子の違うのが、一寸きつねにつままれた感じだった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
雷門かみなりもんから縦に見た仲店。正面にはるかに仁王門が見える。樹木は皆枯れ木ばかり。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
茶屋町の横丁はもうかた日影で、雷門かみなりもんの通りからチラホラと曲がる人かげも、そこに縁なき男どもばかりで、枯柳かれやなぎがまい込むほか、午後になって賽銭さいせんの音もせず、店はいたって閑散な日。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう断って置いて己は廣小路へ行かずに雷門かみなりもんへ駆けつけた。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
雷門かみなりもん助六をききに行きたく候。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
京橋と雷門かみなりもんとの乗替も、習慣になると意識よりも身体からだの方が先に動いてくれるので、さほどわずらわしいとも思わないようになる。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お前済まないが、一寸使いに行って来ておくれ。浅草の雷門かみなりもんの所に、○○という洋酒屋があるだろう。あすこへ行ってね、何でもいいから、これで買える丈けの上等の葡萄酒ぶどうしゅ
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それは弦三の目算違もくさんちがいだった。彼は、雷門かみなりもんまで出ると、地下鉄の中に、もぐり込んだ。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
浅草観音堂の境内けいだいを描くに当つても彼の特徴は水茶屋土弓場どきゅうばまた奥山見世物場みせものば等の群集に非ずして、例へば雷門かみなりもん大挑灯おおちょうちんを以ていきおいく画面の全部をおおはしめ
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
幽霊男はワハワハと群集を縫って、細い道を曲り曲り、遂に雷門かみなりもんの電車通りへ出た。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
長吉は夢中で雷門かみなりもんの方へどんどん歩いた。若い芸者の行衛ゆくえ見究みきわめようというのではない。自分の眼にばかりありあり見えるお糸の後姿を追って行くのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
長吉ちやうきち夢中むちゆう雷門かみなりもんはうへどん/\歩いた。若い芸者の行衛ゆくゑ見究みきはめやうとふのではない。自分の眼にばかりあり/\見えるおいと後姿うしろすがたを追つてくのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
広小路ひろこうじへ曲ると、夜店が出揃でそろって人通りもしげくなったので、二人はそのまま話をやめて雷門かみなりもんまで来た。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お豊は乗って来た車から急に雷門かみなりもんで下りた。仲店なかみせ雑沓ざっとうをも今では少しも恐れずに観音堂へと急いで、祈願をこらした後に、お神籤みくじを引いて見た。古びた紙片かみきれ木版摺もくはんずり
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
とよは乗つて来た車から急に雷門かみなりもんりた。仲店なかみせ雑沓ざつたふをも今ではすこしもおそれずに観音堂くわんおんだうへと急いで、祈願きぐわんこらしたのちに、お神籤みくじを引いて見た。古びた紙片かみきれ木版摺もくはんずり
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
次は瓢箪池ひょうたんいけを埋めた後の空地から花屋敷の囲い外で、ここには男娼の姿も見られる。方角をかえて雷門かみなりもんの辺では神谷バーの曲角まがりかど。広い道路を越して南千住行の電車停留場のあたり
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
つぎ瓢箪池へうたんいけうづめたあと空地あきちから花屋敷はなやしきかこそとで、こゝには男娼だんしやう姿すがたられる。方角はうがくをかへて雷門かみなりもんへんでは神谷かみやバーの曲角まがりかどひろ道路だうろして南千住行みなみせんぢゆゆき電車停留場でんしやていりうぢやうあたり
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
種彦はただどんよりした初秋の薄曇り、このいさましい木遣の声に心を取られながらぞろぞろと歩いている町の人々とあい前後して、駒形こまかたから並木なみきの通りを雷門かみなりもんの方へと歩いて行くうち
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
雷門かみなりもんといっても門はない。門は慶応元年に焼けたなり建てられないのだという。門のない門の前を、吾妻橋あずまばしの方へ少し行くと、左側の路端みちばたに乗合自動車のとまる知らせの棒が立っている。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)