雛妓おしゃく)” の例文
「ゆうべ、この千吉の妹のやつが、殺されたんです。いつぞやお話し申し上げた、柳橋から雛妓おしゃくに出ていたおはんというです」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雛妓おしゃくの黄色い声が聞えたり、踊る姿が磨硝子すりガラスとおして映ったりした。とうとうおしまいには雛妓が合宿へ遊びに来るようになった。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
突当つきあたりらしいが、横町を、その三人が曲りしなに、小春が行きすがりに、雛妓おしゃくささやいて「のちにえ。」と言って別れに、さて教授にそう言った。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雛妓おしゃく達が若い張りのある声で「いっちく、たっちく太右衛門どん——」を繰り返しました。鬼にされたのは白旗直八。
新造卸しの引出物の折菓子を与えられて、唇の紅を乱して食べていた雛妓おしゃくが、座を取持ち顔に、「愛嬌喚あいきょうわめき」をした。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
とウッカリ口を辷らしたからまらない。隅ッ子の方に固まっていた雛妓おしゃくが「ワッ」と泣き出す……トタンに来島の血相が又も一変して真青になった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小六は早くから、少し年増としまの芸者と十二、三の雛妓おしゃくと一緒に来て、お茶を出したりお膳を運んだりするのでした。きっとこの人たちは同じ家にいるのでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「こんな下駄を穿かして、式に連れて行かれるものか。これは、お前、雛妓おしゃくなぞの穿くような下駄だ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
帯広おびひろは十勝の頭脳ずのう河西かさい支庁しちょう処在地しょざいち、大きな野の中の町である。利別としべつから芸者げいしゃ雛妓おしゃくが八人乗った。今日網走線あばしりせんの鉄道が㓐別りくんべつまで開通した其開通式に赴くのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
眼瞼まぶたの裏の紅い処をひっくりかえして白眼を出させたり、耳朶みゝたぶや唇の端を掴んで振って見たり、芝居の子役か雛妓おしゃくの手のようなきゃしゃな青白い指先が狡猾に働いて
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
過般こないだ宴会えんかいの席で頓狂とんきょう雛妓おしゃくめが、あなたのお頭顱つむりとかけてお恰好かっこう紅絹もみきますよ、というから、その心はと聞いたら、地がいて赤く見えますと云って笑いころげたが
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
女学生の群も中々多く、時には芸者や雛妓おしゃくや又はカッフエの女給らしい艶めいた若い女性達が、真面目な顔付でオールを動かしていたりして、色彩をはなやかならしめている。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
その時分若松屋には三代目の小糸という雛妓おしゃくも、お丸という二代目も出ていた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
岡田三郎助の雛妓おしゃくの額が、また壁間に残っているのも、思い出の種である。
芝、麻布 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
灯がつくと、芸者と雛妓おしゃくとがどやどやいやに品をつくって入って来た。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
奥には、板新道の雛妓おしゃくらしいのが、五人ほど、水盤をのぞき合って、明礬みょうばん辻占つじうらだの、水草の弄具おもちゃなどを咲かせて、騒いでいる。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昼は屋台が廻って、この玄関前へも練込んで来て、芸妓連げいしゃれんは地に並ぶ、雛妓おしゃくたちに、町の小女こおんなまじって、一様の花笠で、湯の花踊と云うのをった。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
逸作は、もしこのことで不孝の罰が当るようだったら俺が引受けるなどと冗談のように言って、それから女中に命じて雛妓おしゃくかの子をへいすることを命じた。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
雛妓おしゃくや、若い芸妓げいしゃ達——力に逆らわないように慣らされている女達——は、こうなまめかしい合唱を響かせました。
今度は十五六のお転婆な雛妓おしゃくが、後へ廻って両手で足を掬い上げたので、見事ころ/\と芝生の上を転がりましたが、どッと云う笑い声のうちに、再びのッそり起き上り
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「時に、銚子ちょうしを持つ役ですが」と実は稲垣の方を見て、「君のとこの娘を借りて、俊と、二人出そうと思いましたがね、それも面倒だし……いっそ雛妓おしゃくを頼むことにしました」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
例の芸者や雛妓おしゃくやかみさんや奥さんや学生や紳士や、さま/″\の種類階級の人々のぞろ/\渦を巻いた、神楽坂独特の華やかに艶めいた雑踏ざっとうの中を掻き分けながら歩いていた光景は
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
「……バカア……好色漢すけべえ……そんな事を云うたて雛妓おしゃくは惚れんぞ……」
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すると、その洋館と日本座敷とをつないでいる橋廊下の上にぼんやりと、海をながめている雛妓おしゃくのすがたがあった。トム公の影はすぐに隠れていた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
商売をひいてからは、いつも独りで束ねるが、銀杏返いちょうがえしなら不自由はなし、雛妓おしゃくの桃割ぐらいは慰みに結ってやって、お世辞にも誉められた覚えがある。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしは雛妓おしゃくに訳をざっと説明してから家の中を見廻みまわして、「ですからここは借家よ」と言った。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
座敷著姿の艶っぽい芸者や雛妓おしゃく等があの肩摩轂撃的けんまこくげきてきの人出の中を掻き分けながら、こちらの横町から向うの横町へと渡り歩いている光景は、今も昔と変りなくその善い悪いは別として
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
雛妓おしゃく達も客も芸妓も皆んな並べて
雛妓おしゃくの時に前歯を折ったといって、このへんに」と、糸切歯を指して「——ちょびっと、銀を入れているのが、笑う時に、妖婦らしく見えたっけが」
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次の部屋の真中まんなかで、盆に向って、飯鉢おはちと茶の土瓶を引寄せて、此方こなたあかりを頼りにして、幼子おさなごが独り飯食う秋の暮、という形で、っ込んでいた、あわれ雛妓おしゃく
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人はふすまを開けて出て来て、雛妓おしゃくを見て、好奇の眼をみはった。雛妓は丁寧に挨拶あいさつした。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
七人の雛妓おしゃくばかりが、二台の馬車につまっていた。馬車がゆれるたびに、雛妓たちはキャッキャと笑いけた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はァい。」と引張ひっぱって返事をして、雛妓おしゃくぜんらして立ち、段階子だんばしごの下で顔を傾けて、可愛らしく
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何も知らない雛妓おしゃく時代に、座敷の客と先輩の間に交される露骨な話に笑い過ぎて畳の上に粗相をしてしまい、座が立てなくなって泣き出してしまったことから始めて、囲いもの時代に
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「ヘエ、じゃ、雛妓おしゃくにしたのかい。……それやかえっていいだろう、今のうちから、柳ばしの水で洗い上げれば、さだめし、江戸前の芸者衆になるだろうよ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、まだ寝ないで、そこに、羽二重の厚衾あつぶすま、枕を四つ、頭あわせに、身のうき事を問い、とわれ、睦言むつごとのように語り合う、小春と、雛妓おしゃく、爺さん、小児こどもたちに見せびらかした。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何も知らない雛妓おしゃく時代に、座敷の客と先輩との間に交される露骨な話に笑い過ぎて畳の上に粗相そそうをして仕舞い、座が立てなくなって泣き出してしまったことから始めて、囲いもの時代に
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「内気だけど、品がいいもの、ほかの雛妓おしゃくさんと来たら、私たちでも、顔負けがするのがあるもの」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
運がいと、雛妓おしゃくの袖を引張ひっぱることも出来るし、女中のしりを叩くことも出来るのが役得。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
現在、奉行所の獄中にとらわれている郁次郎が、雛妓おしゃくのお半を、何しに、殺害せつがいするいわれがあろう
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
キャキャとする雛妓おしゃく甲走かんばしった声が聞えて、重く、ずっしりと、おっかぶさる風に、何を話すともなく多人数たにんずの物音のしていたのが、この時、洞穴ほらあなから風が抜けたようにどっ動揺どよめく。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雛妓おしゃくたちが、すみでクスリと笑った。庄次郎はわるそうに顔を横にした。すると簀戸越しに見える水団扇のかげから、眼が——女の眼が——じいっと、やはり、自分を見ているのだった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小春さん、先刻さっきの、あの可愛い雛妓おしゃくと、盲目めくらとっさんたちをここへお呼び。で、お前さんが主人になって、みんなで湯へ入って、御馳走を食べて、互に慰めもし、また、慰められもするがい。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……抱妓かかえが五人とわけが二人、雛妓おしゃくが二人、それと台所とちびの同勢、蜀山しょくざんこつとして阿房宮、富士の霞に日の出のいきおい紅白粉べにおしろいが小溝にあふれて、羽目から友染がはみ出すばかり、芳町よしちょうぜん住居すまい
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
分けてむこうは身一つで、雛妓おしゃく一人抱えておらぬ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)