かか)” の例文
旧字:
払い落せば滝川どのの勝だ……もとより武道の試合であれば、勝敗にかかわらず後日に遺恨を含まぬこと、立会いの者一同証人でござる
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
番をしていないからとて、めったに、いなくなることもあるまいと、常に心にはかかりながら、いて安心して、せめて同じ土地の
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「主君のお身が大事。善助どの、太兵衛どのは、ここにかかわらず先へ行ってくれ。——於菊どのの身は、わしがたずねて後から出る」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小父さんなぞから見るとずっと難有味ありがたみのない人だと思うにもかかわらず、そういう大人の肥満した大きな体格に、充実した精力に
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
喜怒哀楽が材料となるにもかかわらず拘泥こうでいするに足らぬ以上は小説の筋、芝居の筋のようなものも、また拘泥するに足らん訳だ。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
阿賀妻は二三歩傍らに出た。返事があるまで、こんなことにかかずらっている余裕はなかった。そして、歩き出したとき、彼女は呼びとめた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
話聖東ワシントンのこと起り、蘭夷の報ずるところを聞けば則ち曰く、「いま礮台ほうだい海潯かいじんめぐらすを見ざれば、南風四月はなはだ心にかかる」。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
いやめてくれ、………で、外の廊下でみ合っている間じゅう、当人は何もかかわりがないかのようにうつろな眼を据えているばかりであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのためにさまたげらるることなくというのは第二に導かれる意味になるのであるから、この歌はやはり、「母にかかわることなく、拘泥こうでいすることなく」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
怪談の目星を打たれる我々も我々であるが、部署を定めて東奔西走も得難いね。生憎あいにく持合もちあわせが無いとだけでは美術村の体面にかかわる。一つ始めよう。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
成程一命にかかわるような大した事ではないが、併し其大した事でない用が間断しっきりなく有る。まず朝は下女と殆ど同時におこされて、雨戸を明けさせられる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
姉をかばう母の心はよく判っているが、この場合、一刻も早く姉をさがし出して、なんとかその処分をしなければ、父の身分にもかかわる、家名にも関わる。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ほろぼすところにかかっておるのじゃ! さればこのたびの汝の所業は、神のくにへの裏切りじゃぞ! ……許さるるときあるまいぞよ! ……日夜念々神の怒り
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もうそんなことは少しも思っていないんだ。聴衆だの著名だのということには、少しもかかわりたくないんだ。著名ということは、不名誉きわまるいやしいことだ。
立て込んだ客の隙間すきまへ腰を割り込んで行くのも、北新地の売れっ妓の沽券こけんかかわるほどではなかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
そういう人たちが何かのことで意気銷沈したという場合には、まことにおあつらえむきの幽霊の株ができるのです。といっても、何もあなたにかかわることではありません。
上人様は俗用におかかわりはなされぬわ、願いというは何か知らねど云うて見よ、次第によりては我が取り計ろうてやる、とさもさも万事心得た用人めかせる才物ぶり。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私は一年にたった二度、わたしの年老いた虚弱な母に逢いに行くばかりで、私とほかの世間とのかかり合いというものは、全くこれだけのことしかなかったのであります。
「全竜先生、人間の命二つ三つにかかわることだ。打ちあけてお話を願いたいんだが——」
さあ、幸いにわれわれの呼吸が他のものに対すると同じように、われわれの命にもかかわるものならば、限りない憎悪の接吻を一度こころみて、たがいに死んでしまおうではないか
わたしだち見物人と直接かかわりのあるようで、それでいて全然別途な生活であるということが、そういう生活に指さきをも触れることのできないというもどかしい物悲しさであった。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
それでは罪の観念の存しないといわれる東洋思想において、伝統主義というものは、そしてまたヒューマニズムというものは、如何なるものであろうか。問題は死の見方にかかわっている。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
まして世にれなる才能と、たぐいなき麗貌れいぼうの武子姫が、世間的に地位なく才腕なき普通の連枝へ、御縁づきになる事は、法主鏡如様の権威にかかわり、なお自分たち一同の私情よりしても
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
利を入れるだけでもほうが付かんのだから、長くこれを背負つてゐた日には、体も一所いつしよに沈没して了ふばかり、実に一身の浮沈にかかる大事なので、僕等も非常に心配してゐるやうなものの
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いかなる生命とも、かかわりはない。それは「表現」の衣を持たない。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
『正法眼蔵』が何であろうと、今日のかれには余りかかわりはないはずである。あれを書いた道元は禅には珍らしく緻密な頭脳を持っていたということを、誰しもが説いている。それには違いなかろう。
検事の抗議にもかかわらず、法水はずけずけと云い続けた。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
今度は天下の安危にかかわる
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
というのも、近所合壁がっぺき西門慶せいもんけいと金蓮のわけあいを知らぬはなく、どうなることかと、内心、かかり合いを極度に恐れていたからである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども坂越の男にそういう手紙を出すのは、自分の品格にかかわるような気がしてあえてし切れなかった。返事を受け取らない先方はなおの事催促をした。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こうした場所にもかかわらず、停車場前に戻り、そこに一夜を送って、サン・テチエンヌ寺の塔を宿屋の窓の外に望みながら朝霧の中に鶏の声を聞いた時は
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして隣のおむらの知人で、そういう方面にかかわりのある人に頼み、尾花屋という家へでかけたのであった。
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お葉はのままふらふらと歩き出した。𤢖わろの噂が何となくかかったのであろう、彼女かれよそながら恋人の様子を探ろうとして、行くとも無しに角川家の門前まで来てしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それがおれになんのかかわりがあろう。」と彼は考えた。「俺の知ったことではない。」
ストイシズムは自己のものである諸情念を自己とはかかわりのない自然物のごとく見ることによって制御するのであるが、それによって同時に自己あるいは人格という抽象的なものを確立した。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
そんな工合にして数年たつうちに、雪子の身の上には格別の変化も起らなかったが、妙子の境遇に思いがけない発展があったので、結局に於いてそれが雪子の運命にも或るかかわりを持つに至った。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
にもかかわらず彼らの迷妄はさめず、宗教の名にかくれて世衆を惑乱し、それにくみさぬ良民はって、兇徒を嘯集しょうしゅうし、勢いますます猖獗しょうけつして
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして、口にする事が、内容の如何いかんかかわらず、如何いかにもせわしなく、かつ切なそうに、代助の耳に響いた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれらが、「朱雀」という符牒ふちょうで呼ぶこの陰謀に、浜屋敷がなにかのかかわりをもつことは慥かである。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「兄貴が附いてて、これ位のことが出来ないでどうする——俺の体面にかかわる」と実の眼が言った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
幸福が存在にかかわるのに反して、成功は過程に関わっている。だから、他人からは彼の成功と見られることに対して、自分では自分に関わりのないことであるかのように無関心でいる人間がある。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
いよいよ生命いのちかかわりそうになった時は、素姓すじょうを打明け、知恩院の光厳とは知っていた間であることを訴えてみる気でいた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでこの事がな、今だから御話しするようなものの、当時はぱっとすると両家の面目にかかわると云うので、内々にして置いたから、割合に人が知らずにいる
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
斬るも斬られるも素より稼業柄のことで、堅気の私共がかかわるべき事じゃ有りません
無頼は討たず (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
にもかかわらず光秀は、容易にそれを持ち出し得ないのである。秀吉は、折ふし出かける間際ではあり、客の容子ようすにもえるものを感じたので
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
津田ははっきり疑っていないと云わなければ、何だか夫として自分の品格にかかわるような気がした。と云って、女から甘く見られるのも、彼にとって少なからざる苦痛であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天の与えと云おうか、海の荒れる季節にもかかわらず風も無く、海上には緩いうねりがあるだけ、然も夜半前には全く霧もれたので、太平丸は湖上を行くように快走を続けることが出来た。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それにかかわるあらゆる話題が、それが民衆自身の生活でもあるように、明けても暮れても話題となって騒ぎを加えて行った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は画工えかきに博士があるものと心得ている。彼は鳩の眼を夜でもくものと思っている。それにもかかわらず、芸術家の資格があると云う。彼の心は底のないふくろのように行き抜けである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「岡村とわれわれとは、もうなんのかかわりもない、彼がおとがめを受けたことは、気の毒に思うけれども、私は詳しい事情を知らないし、知っていたにしても、おまえに話す必要はないと思う」
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)