酒手さかて)” の例文
事件は妙に急迫感を帯びて来たので、寸刻の遅れも許されず、町駕籠まちかごを拾って精一杯の酒手さかてをやったのは平次にしては珍しいおごりです。
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
おおきくうなずいた伝吉でんきちは、おりからとおあわせた辻駕籠つじかごめて、笠森稲荷かさもりいなり境内けいだいまでだと、酒手さかてをはずんでんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
少女は伸びあがりて、「御者、酒手さかては取らすべし。れ。一策ひとむち加へよ、今一策。」と叫びて、右手めてに巨勢がうなじいだき、おのれはうなじをそらせて仰視あおぎみたり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
此男に酒手さかての無心をされるのはわたくしばかりではあるまいと思って、或晩欺いて四辻の派出所へ連れて行くと、立番の巡査とはとうに馴染になっていて
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もし、なにたなら、通知つうちしてれ。うすれば酒手さかてすからと土方連どかたれん依頼いらいして、此所こゝつた。
それが後々は飲ませるかわりに酒手さかてぜにをやることにもなったが、やはり古風な家では出入でいりの者などに、一杯飲んで行くがいいとって、台所の端に腰を掛けて
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼は二百文の酒手さかてを村役人に渡してしまうと、ぷんぷん腹を立てて寝転んだ。あとで思いついた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
そうしてどうやら事を納めたようにして酒手さかてをせびる——というような風の悪い武家が無いではなかったそうでございますが、いずれも遠国の旅人ゆえ、相手が怖がって
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
また像をおほうて今は落葉おちばして居る一じゆ長春藤ちやうしゆんとうが枝を垂れて居た。ブリゲデイエ君に礼を云つて酒手さかてを遣らうとしたが中中なかなかかぶりを振つて受けない。西洋人としては珍らしい男である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
車夫しゃふは年頃四十五六しじゅうごろく小肥満こでっぷりとした小力こぢからの有りそうな男で、酒手さかて請取うけとり荷を積み、身支度をして梶棒かじぼうつかんだなり、がら/\と引出しましたが、古河から藤岡ふじおかまでは二里里程みちのり
翌朝よくてうまだ薄暗うすぐらかつたが、七時しちじつたくるまが、はずむ酒手さかてもなかつたのに、午後ごご九時くじふのに、金澤かなざは町外まちはづれの茶店ちやみせいた。屈竟くつきやうわかをとこふでもなく年配ねんぱい車夫くるまやである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なと力身りきんで見てもびく共せず二人の雲助嘲笑あざわらひイヤ強い旅人じや雲助は旅人にかたかさねば世渡りがならず酒手さかてほしさに手を出して親にも打れぬ胸板むないたをれるばかりにかれては今日から駄賃だちん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「釘づけだらうがかすづけだらうが構ふ事アねえて。そいつをぶつこはしや、銀の十字架かめだいか取れようつてもんだ。さうすれやそいつをぶして銭にした上に褒美の酒手さかてが貰へるつて訳だ。」
酒手さかてをはずむから、急いでくれんかの」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
どうで酒手さかては出やあしめえ。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
伝奇にも酒手さかてくれうぞ紅葉駕もみじかご
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
酒手さかてッ……酒手ッ——!」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さう言ふな、お小言こごと言ひ乍らも、笹野の旦那は、八五郎にも呑ませろ——と、大した酒手さかてを下すつたぜ、氣のつく方ぢや無いか、磔刑になる科人とがにん
「そうともそうとも、酒手さかてきいていうんじゃねえが、太夫たゆうはでえいち、ひんがあるッて評判ひょうばんだて。江戸役者えどやくしゃにゃ、なさけねえことに、ひんがねえからのう」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「御新造、酒手さかての方をいくらか……旦那に話してみていただきてえもんでございます」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
酒手さかてためには、うたがうべき土器どきさへからつてさうな人達ひとたちである。
つぶして銭にした上に褒美ほうび酒手さかてがもらえるってわけだ。
酒手さかてをやって稲荷様の前に網を張らせ、浅草へ行く娘でなければ、乗せてはならぬと言い付けておきました。
いうまでもなく、祝儀しゅうぎ酒手さかて多寡たかではなかった。当時とうじ江戸女えどおんな人気にんき一人ひとり背負せおってるような、笠森かさもりおせんをせたうれしさは、駕籠屋仲間かごやなかまほまれでもあろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
オーイオーイと呼びかけて決闘をいどむという物すごいのも現われず、酒手さかてをねだる雲助霞助もてんから目の中へ入れては置かないから、不安なるが如くして、かえって安全なる旅路。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
道中は無暗むやみに人と物争いをしちゃあいけねえぜ、甲州街道の郡内というところは人気が悪いところだから、女連と見たら雲助どもが因縁をつけるだろうけれど、酒手さかてをドシドシくれてやりさえすりゃ
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)