もと)” の例文
すべてべからず、たとえば沙を圧して油をもとめ、水をって酥を求むるがごとく、既に得べからずいたずらに自ら労苦すとある。
もとむる物あって得ざるの様子であった。かくてこの裁判は、証拠不充分放免という宣告に終り、被告は直ちに自由の身となった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
中臣・藤原の遠つ祖あめの押雲根命おしくもね。遠い昔の日のみ子さまのおしの、いいと、みを作る御料の水を、大和国中残るくまなく捜しもとめました。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ソクラテスの短所をもとめて、悪辣な筆を運ばし、一時読書界の注目をいたこともあったが、しかし、これも今日では、殆んど観察点が外れていて
ソクラテス (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
叔父の貞吉は自分の娘たちの学友や知人の娘の写真などを矢代に見せて、彼の意見をもとめるのも、一つは矢代の母から頼まれているとも受けとれた。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
日向は暑いし風の吹く処は寒いので、風の当らない木蔭をもとめて、鷹に追われた雉子きじのように偃松の繁みに潜り込む。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
十の指は我があらゆる暗黒面を指し、却りて我をして我に一光明面なしや否やを思はしめ、我をして自ら己の長をもとめ、自ら己の能をてらはしめたり。
さればシエクスピイヤの哲學上所見とその實感とを知らむと欲して、猶その戲曲をあさらむは、氷をりて火をもとめ、すなを壓して油を出さむとするにや似たらむ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
死をもとめて得ず、居れば立つをおもひ、立てばすをおもひ、臥せば行くをおもひ、ぬれば覚め、覚むれば思ひて、夜もあらず、日もあらず、人もあらず、世もあらで
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ためによし無きうらみを負いて、迷惑することもありぬべしと、四辺を見廻わして、身を隠すべき所をもとめしに、この辺にはしばしば見る、山腹を横に穿うがちたる洞穴を見出したり。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手分けしてその跡をもとめ、自分は峰の方を行きしに、とある岩の陰より大なる熊こちらを見る。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
聲の所在ありかもとむる如く、キョロ/\と落着かぬ樣に目を働かせて、徑もなき木陰地こさぢの濕りを、智惠子は樹々の間を其方に拔け此方に潜る。夢見る人の足取とは是であらう。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
光りのようなその髪もまた細かに震えた。クララの手はおのずからアグネスの手をもとめた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
人住まぬ眞洞まほらもとめて行きぬらむ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
己をこの塵の中にもとめるのだ。
もとめるでもなく
たすク可キ者ノ我国ニ欠損けっそんシテ而シテ未ダ備ハラザルヲ思ヒ此ニ漸ク一挙両得ノ法ヲもとメ敢テ退食たいしょくノ余暇ヲぬすンデ此書ヲ編次シすなわ書賈しょこヲシテ之レヲ刊行セシメ一ハ以テ刻下教育ノ須要ニ応ジ一ハ以テ日常生計ノ費ヲ補ヒテ身心ノ怡晏いあんヲ得従容しょうよう以テ公命ニ答ヘント欲ス而シテ余ヤト我宿志しゅくしヲ遂ゲレバ則チ足ル故ヲ
『曾我物語』にはこの事を敷衍ふえんして李将軍の妻孕んで虎肝を食わんと望む、将軍虎を狩りてくわれ死す、子生れ長じて父の仇をもとめ虎の左眼を射
水も地質が花崗岩の砂地で、岩と岩との重なり合った罅隙の多い土質とは異っているから、少し谷間へ下ってもとめたなら、湧き出していそうに思える。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
自然から「美」をもとめないで「美」に似た事象のある所とした。理想の「美」を絵画に据ゑてゐた。が、其も墨書きやの絵巻若しくは、屏風の構図であつた。
羅馬なる恩人は常に我に不快なる事を告げ、中にはことさらに我に快からざるべき事どもを探りもとめて、そを我に告ぐる如くなりしに、今はさる詞を耳にすることなし。
声の在所ありかもとむる如く、キヨロ/\と落着かぬ様に目を働かせて、径もなき木蔭地こさぢの湿りを、智恵子は樹々の間を其方そなたに抜け此方こなたに潜る。夢見る人の足調あしどりとは是であらう。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
始に何者なりやとおどろかされし貫一は、今又何事なりやといよいあきれて、彼の様子を打矚うちまもれり。たちまち有りて貫一のまなこ慌忙あわただしもとむらん色をして、婦人のうつむけるをうかがひたりしが
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
我々は改まった節には晴のぜんに坐り、常の日には今でも褻の飯を食っているのである。すなわち眼前の事実を観測して、その中から年久しい慣習の跡をもとめることができるのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たちまち一人皮袴かわばかま乗馬し従者一人添い来って卜を請う、西に去って食をもとめんか東に求めんかと問うたんで、宗し東に向えと告げた。
こんな山の中では鳩は河筋に沿うて平地に出で、それから道をもとめて飛び帰るものだそうである。
さりながら、何程思続け候とても、水をもとめていよいほのほかれ候にひとし苦艱くげんの募り候のみにて、いつ此責このせめのがるるともなくながらさふらふは、孱弱かよわき女の身にはあまりに余に難忍しのびがたき事に御座候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さうして後者とても、次第に連歌誹諧歌の方に向つて、時好の中心をもとめて行つた。
これも今少し遠方に境堀の跡をもとむべきである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
十月に入りて地全く乾けば水をもとむる狗頭猴の団体極めて夥しく河に赴き、かげった岸を蔽える灌木の漿果しょうかを食うため滞留す、彼らの挙止を観るは甚だ面白し
私達の眼は華やかにも沈痛を極めた色の中に漂うている許りである。私は南アルプスの大井川に匹敵する峡谷を北アルプスにもとめて、この黒部川を得た、そして満足した。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
秋深くなるにつれて、衰えの、目立って来たうばは、知る限りの物語りを、しゃべりつづけて死のう、と言う腹をきめた。そうして、郎女の耳に近い処をところをともとめて、さまよい歩くようになった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
その子衡父の屍をもとめて得ざりければ、はくちょうの足をつないで石崖頂に置き、白日昇天したと言い触らし、愚俗これを信じて子孫を天師とあがめた(『五雑俎』八)。
し岩壁の豪宕ごうとう壮大なる、渓流の奔放激越せる、若くは飛瀑の奇姿縦横なるものをもとめたならば、とろ八町であろうが、長門峡であろうが、或は石狩川の大箱小箱であろうが
秩父の渓谷美 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
口広くして人を丸嚥まるのみにすべく歯大にしてとがれり、これを見て人畜何ぞ戦慄せざらん、日中は暑ければ地下にかくれ夜出て食をもとめ、また河や湖泉に行き水を飲む
森林に彷徨さまよ幽壑ゆうがくに逍遥するの興趣は、都会の地に於てもとむることは到底不可能である。それ所ではない、わるくすると今に青い物は野菜の外に見られなくなるかも知れぬ。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
兎雨と降る矢の下に逃げ道をもとめ歩卒の足下をくぐり出んとすれば歩卒これを踏み殺しまた蹴り戻す、あるいは矢を受けながら走りあるいは一足折られ三足でのがれ廻る
足で分らない時は手で探って蹈み固めた路らしい処をもとめて足を運ぶのが牛の歩みよりも遅い。余程下ったろうと思う頃遠くに一点の火光が現われた時には、稍元気付いた。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
妙光女魂既にうせたりといえども、容儀儼然活けるがごとく、妍華けんか平生に異ならざるをあいいいて曰く、この女かくまで美艶にして、遠くもとむるも等類なしと、各々染心ぜんしんを生じ
夫に跟いて岩の露出した狭い山稜を下って一つの鞍部に着いた。此辺に野宿する積りで両側の渓を探して水をもとめたが、更に見当らない。見当ったのは羚羊の足跡と其糞位のものだ。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
またいわく、老蛇体に長毛あるは、その頭に玉あり、その色虹を紿あざむく、その蛇夜これを取り出し、道を照らして食をもとむ。深い藪中に棲み人家に近づかず、神の下属てしたなれば神蛇デブア・サールバと名づく。
壁面の上部にはわずかの罅隙をもとめて根を托した禾本かほん科らしい植物の葉が、女の髪の毛をいたように房さりと垂れて、葉末からは雫でも落ちているらしく、手でしごいたように細くなっている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
農商務省が全く巨摩こま郡に属する山を山梨郡の山として了ったのは、可笑しい間違いであるが、し『甲斐国志』西沢御林山の文にって、国師岳の西に奥仙丈の名に相当すき山をもとめたならば
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)