よそほ)” の例文
新字:
彼は長らくきびしく私を見詰めた。私は彼から眼をそらして、火の方を見詰めて、靜かな、落着いた樣子をよそほひ保たうとつとめた。
蒼白い顏が少し弱々しく見えますが、粗末な身扮みなりに似合はぬ美しさで、存分によそほはせたら、お喜多におとらぬ容貌きりやうになるでせう。
こゝには神も人にまじはつて人間の姿人間の情をよそほつた。されば流れ出づる感情は往く處に往き、とゞまる處に止りて毫も狐疑こぎ踟蹰ちゝうの態を學ばなかつた。
新しき声 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
與力よりきなかでも、盜賊方たうぞくがた地方ぢかたとは、實入みいりがおほいといふことを、公然こうぜん祕密ひみつにしてゐるだけあつて、よそほひでもまた一際ひときは目立めだつて美々びゝしかつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
宗助そうすけはさういふ方面はうめんまる經驗けいけんのないをとこではなかつたので、ひて興味きようみよそほ必要ひつえうもなく、たゞ尋常じんじやう挨拶あいさつをするところが、かへつて主人しゆじんるらしかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
みぎよそほひでスリツパで芝生しばふんで、秋空あきぞらたか睫毛まつげすまして、やがて雪見燈籠ゆきみどうろうかさうへにくづほれた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おつぎのよそほひはそばでは疎末そまつであつても、處々ところ/″\ちらり/\としろ穗先ほさきのぞいて大抵たいていはまだえ/″\としてたゞまい青疊あをだゝみいたやう田圃たんぼあひだをくつきりと際立きはだつてつのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかし、これらの甲胄かつちゆうをどういふふうにけてゐたかといふことは、あの埴輪人形はにわにんぎよう甲胄かつちゆうよそほふたのがのこつてをりますので、それを大體だいたい恰好かつこう想像そうぞうすることが出來できます。(第六十九圖だいろくじゆうくず
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
よそほざるうれたさに、みやにまゐりて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
十二人の内四人は將軍と同じよそほひをした近習連、四人は鷹匠たかしやう、あとの四人は警衞の士で、微行とは言ひ乍ら、此時代にしては恐ろしく手輕です。
彼女は何一つ話すこともなく、一度席に坐ると、まるで壁龕へきがんの中の彫像のやうに、身動きもしないでゐた。姉妹は、二人共、純白のよそほひをしてゐた。
前栽せんざい強物つはものの、はないたゞき、蔓手綱つるたづな威毛をどしげをさばき、よそほひにむらさきそめなどしたのが、なつ陽炎かげろふ幻影まぼろしあらはすばかり、こゑかして、大路おほぢ小路こうぢつたのも中頃なかごろで、やがて月見草つきみさうまつよひぐさ
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おびやかかりよそほひに松明たいまつほのほつづきぬ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
しかしそろ/\とはひつて來た時には、何だか、もつとずつと人數が多いやうな氣がした。その中の幾人かは非常に脊が高く、大抵の人は白いよそほひをしてゐた。
まだの花も咲かず蝶々も出ないのですが、路傍のよもぎ田芹たぜりが芽ぐんで、森の蔭、木立こだちの中に、眞珠色の春霞はるがすみが棚引いて、まだ陽炎かげろふは燃えませんが、早春のよそほひは申し分もありません。
ひと生命せいめいあることをらせがほよそほつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
獨り友なく大峰おほみねよそほひうかび
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
見よげなあはせに着換へさせ、頬を撫でたり、襟を直したり、髮を掻き上げたりしてゐる二人の年増女、——娘の死のよそほひに餘念もなくひたりきつて、悲しみの底にしづまり返つて居た二人の女が
さはあれ皐月さつきさかりのよそほ
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)