袖垣そでがき)” の例文
さて、濡縁なりで、じかに障子を、その細目にあけた処へ、裾がこぼれて、袖垣そでがき糸薄いとすすきにかかるばかり、四畳半一杯の古蚊帳ふるがやである。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
袖垣そでがきのあたりの萩叢はぎむらを割って、ぬうッと、誰やら頬被ほおかむりをした男の影が、中腰に立ち、こなたの書院の明りに、顔をさらして見せた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こっちの手水鉢ちょうずばちかたわらにある芙蓉ふようは、もう花がまばらになったが、向うの、袖垣そでがきの外に植えた木犀もくせいは、まだその甘い匂いが衰えない。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二七不動に近き路地裏に西京汁粉さいきょうしるこ行燈あんどうかけて、はぎ袖垣そでがき石燈籠いしどうろう置きたる店口ちよつと風雅に見せたる家ありけり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
不意に庭の方でくつの音がして、はぎ袖垣そでがきの向うから、派手な茄子紺なすこんの両前の背広を着て、金縁の濃い色眼鏡を掛けて
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
袖垣そでがき辛夷こぶしを添わせて、松苔まつごけ葉蘭はらんの影に畳む上に、切り立ての手拭てぬぐいが春風にらつくような所に住んで見たい。——藤尾はあの家を貰うとか聞いた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
通らでも事は済めども言はば近道の土手々前どてでまへに、仮初かりそめ格子門かうしもん、のぞけば鞍馬くらま石燈籠いしどうろはぎ袖垣そでがきしをらしう見えて、椽先ゑんさきに巻きたるすだれのさまもなつかしう
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
のきには尾垂おだれと竹の雨樋が取付けてあり、広い庭に巴旦杏はたんきょうやジャボン、仏手柑ぶしゅかんなどの異木が植えられ、袖垣そでがきの傍には茉莉花まつりか薔薇花いけのはななどが見事な花を咲かせている。
文登ぶんとう景星けいせいは少年の時から名があって人に重んぜられていた。ちん生と隣りあわせに住んでいたが、そこと自分の書斎とは僅かに袖垣そでがき一つを隔てているにすぎなかった。
阿霞 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
道庵の見取図は入口が右なのに、ガラッ八のは左、袖垣そでがきも、障子も、縁側も、そっくりそのままと言っていいくらい正反対になっているのは、一体何を意味するのでしょう。
そこに一軒の家の袖垣そでがきのような低い生垣いけがきの垣根があった。その生垣越しに縁側えんがわが見えた。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
庸三は暗い茶の間の窓の下から、袖垣そでがきで仕切られた庭の方へまわって、縁側の板戸ぎわに身を寄せて、そっと声をかけたが、やがて、葉子の声がして板戸が一枚繰りあけられた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そのお高の眼に、袖垣そでがきを越して映ったものは、門からはいってくる磯五の姿であった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
船から河岸へ通う物揚場の石段の上には、切石が袖垣そでがきのように積重ねてある。その端には鉄の鎖がつないである。二人はこの石に倚凭よりかかった。満洲の方のうわさが出た。三吉は思いやるように
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
父には五つの歳に別れまして、母と祖母ばばとの手で育てられ、一反ばかりの広い屋敷に、山茶花さざんかもあり百日紅さるすべりもあり、黄金色の茘枝れいしの実が袖垣そでがきに下っていたのは今も眼の先にちらつきます。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
採光法、照明法も材料の色彩と同じ精神で働かなければならぬ。四畳半の採光は光線の強烈を求むべきではない。外界よりの光をひさし袖垣そでがき、または庭の木立こだちで適宜に遮断しゃだんすることを要する。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
「朝顔が咲くのを見たわ」おふさは夜具の中で参太の手を引きよせた、「手洗鉢ちょうずばちの脇の袖垣そでがきからまってるの、なにか動くようだからひょいと見たのよ、そうしたら朝顔の蕾が開くところだったの」
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ついそこの袖垣そでがきのところに落っこちていたんでね。
袖垣そでがきにバラをからませた鉄柵の門から内を覗くと、中央に広い草花のガーデンが見え、両側が長い厩舎きゅうしゃとなっていて、奥に宏壮な洋館があった。
戸袋を五尺離れて、袖垣そでがきのはずれに幣辛夷してこぶしの花が怪しい色をならべて立っている。木立にかしてよく見ると、折々は二筋、三筋雨の糸が途切れ途切れにうつる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
向う側は、袖垣そでがき枝折戸しおりど、夏草の茂きが中に早咲はやざきの秋の花。いずれも此方こなたを背戸にして別荘だちが二三軒、ひさし海原うなばらの緑をかけて、すだれに沖の船を縫わせたこしらえ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつも小手毬やライラックが散った後、離れ座敷の袖垣そでがきのもとにある八重山吹の咲くのと同時ぐらいなので、今はまだ、ようよう若葉が芽を吹きかけているだけである。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何心なく振り返ると、袖垣そでがきの上から一と目に見える縁側に、二十歳はたちばかりの武家風とも町家風ともつかぬ娘が立って、二人の後ろ姿を見送っているのと、顔を見合せてしまいました。
袖垣そでがきのところにある、枝ぶりのいい臘梅ろうばいの葉が今年ももう黄色くむしばんで来た。ここにいるうちに、よく水をくれてやった鉢植えの柘榴ざくろけやき姿なりづくったこずえにも、秋風がそよいでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
信如しんによ何時いつ田町たまちかよときとほらでもことめどもはゞ近道ちかみち土手々前どてゝまへに、假初かりそめ格子門かうしもん、のぞけば鞍馬くらま石燈籠いしどうろはぎ袖垣そでがきしをらしうえて、縁先ゑんさききたるすだれのさまもなつかしう
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
……すると、だいぶ夜も更けてからホトホトと雨戸を叩くものがあるので起き出して雨戸をあけて見ると、袖垣そでがきの萩の中に死んだお梅のすぐの妹のお米が袖を引きあわしてしょんぼり立っている。
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
然れども余は不幸にしていまだかつて油画の描きたる日本婦女のまげ及び頭髪とうはつに対し、あるひは友禅ゆうぜんかすりしましぼり等の衣服の紋様もんように対して、何ら美妙の感覚に触れたる事なく、また縁側えんがわ袖垣そでがき、障子
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして、武者屋敷といえばどこも同じな冠木門かぶきもん袖垣そでがきまで、渡に送られて出て来ると、おりふし、外から戻って来たかれの新妻とばったり出会った。
十畳の廊下外のひさしの下の、井戸のところにある豊後梅ぶんごうめも、黄色くすすけて散り、離れの袖垣そでがき臘梅ろうばいの黄色い絹糸をくくったような花も、いつとはなし腐ってしまい、しいの木に銀鼠色ぎんねずいろ嫩葉わかば
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
然れども余は不幸にしていまだかつて油画の描きたる日本婦女のまげ及び頭髪とうはつに対し、あるひは友禅ゆうぜんかすりしま絞等しぼりとうの衣服の紋様もんように対して、なんら美妙の感覚に触れたる事なく、また縁側えんがわ袖垣そでがき障子しょうじ
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「へえ。あの袖垣そでがきの所にあったのを抜いて来たの」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はぎ袖垣そでがきから老梅ろうばいの枝へと、軽業かるわざでも見せるようにげてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)