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蚊帳
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かや
ふりがな文庫
“
蚊帳
(
かや
)” の例文
仕舞には只今番頭が
一寸
(
ちよつと
)
出
(
で
)
ましたから、帰つたら聞いて持つて参りませうと云つて、頑固に一枚の蒲団を
蚊帳
(
かや
)
一杯に敷いて出て行つた。
三四郎
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
日常、礼儀作法のやかましいお方が、いかにお
従兄弟
(
いとこ
)
の仲とはいえ、
蚊帳
(
かや
)
の中にはいって、しきりと、密談遊ばしているのだった。
茶漬三略
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
廊下へ出るのは気がかりであったけれど、なおそれよりも恐ろしかったのは、その時まで自分が寝て居た
蚊帳
(
かや
)
の内を
窺
(
うかが
)
って見ることで。
悪獣篇
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
お鈴と二人で
漸
(
やっ
)
と
宥
(
なだ
)
めて、房吉から引離して、
蚊帳
(
かや
)
のなかへ納められた隠居が
鎮
(
しずま
)
ってからも、お島はじっとしてもいられなかった。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
葉子はやがて打ち開いた障子から
蚊帳
(
かや
)
越しにうっとりと月をながめながら考えていた。葉子の心は月の光で清められたかと見えた。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
▼ もっと見る
小さな
姪
(
めい
)
の首の
火傷
(
やけど
)
に蠅は吸着いたまま動かない。姪は
箸
(
はし
)
を投出して火のついたように
泣喚
(
なきわめ
)
く。蠅を防ぐために昼間でも
蚊帳
(
かや
)
が
吊
(
つ
)
られた。
廃墟から
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
当主はそれから一年余り後、
夜伽
(
よとぎ
)
の妻に守られながら、
蚊帳
(
かや
)
の中に息をひきとつた。「蛙が啼いてゐるな。
井月
(
せいげつ
)
はどうしつら?」
庭
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
どうせお帰りにならない夫の蒲団を、マサ子の蒲団と並べて敷いて、それから
蚊帳
(
かや
)
を
吊
(
つ
)
りながら、私は悲しく、くるしゅうございました。
おさん
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
通る人も通る人も皆
歩調
(
あしどり
)
をゆるめて、日当りを選んで、秋蠅の力無く歩んで居る。下宿屋は二階中を
開
(
あけ
)
ひろげて
蚊帳
(
かや
)
や
蒲団
(
ふとん
)
を乾して居る。
茗荷畠
(新字旧仮名)
/
真山青果
(著)
見ると大きなベッドのまわりには、天井から
蚊帳
(
かや
)
の様な薄絹が垂れて、その中にスヤスヤ眠っている京子の顔が、うっすりと見えている。
恐怖王
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
蚊帳
(
かや
)
の外に立っているのは、女は女に違いないけれども、女の姿をした鬼であります。臆病な金助にはたしかにそう見えました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
「行田文学」にやる新体詩も、その狭い暑苦しい
蚊帳
(
かや
)
の中で、外のランプの光が
蒼
(
あお
)
い影をすかしてチラチラする机の上で書いた。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
早々
(
そうそう
)
蚊帳
(
かや
)
に
逃
(
に
)
げ
込
(
こ
)
むと、
夜半
(
よなか
)
に雨が降り出して、
頭
(
あたま
)
の上に
漏
(
も
)
って来るので、
遽
(
あわ
)
てゝ
床
(
とこ
)
を
移
(
うつ
)
すなど、わびしい旅の第一夜であった。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
慣れない床、慣れない枕、慣れない
蚊帳
(
かや
)
の
内
(
なか
)
で、そんなに前後も知らずに深く眠られたというだけでも、おげんに取ってはめずらしかった。
ある女の生涯
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
絞められて
蚊帳
(
かや
)
のなかに死んでいたんです。不思議じゃありませんか。人の執念はおそろしいもんだと、近所の者もみんなふるえていますよ
半七捕物帳:05 お化け師匠
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
身体の調子は
頗
(
すこぶ
)
る良いのだが、肉体労働が少し過ぎるらしい。夜、
蚊帳
(
かや
)
の下のベッドに横になると、背中が歯痛のように痛い。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
そうした或夜のこと、たいてい話したいことも話し尽して、ふと言葉が途切れたとき、古
蚊帳
(
かや
)
買いだという中年の、庄さくと呼ばれる男が
足軽奉公
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
ぷうんと
蚊
(
か
)
は、やつと
逃
(
に
)
げるには
逃
(
に
)
げたが、もう
此
(
こ
)
の
狭
(
せま
)
い
蚊帳
(
かや
)
の
中
(
なか
)
がおそろしくつて、おそろしくつてたまらなくなりました。
ちるちる・みちる
(旧字旧仮名)
/
山村暮鳥
(著)
宿屋の一と間に
蚊帳
(
かや
)
吊
(
つ
)
って寝てて、それが六畳ぐらいの狭い座敷で、同じ蚊帳の中に、私と光子さん中に
挟
(
はさ
)
んで両端に夫とお梅どん寝てる。
卍
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
道阿弥の首を
賞翫
(
しょうがん
)
しながら、若夫婦が
蚊帳
(
かや
)
の中の寝床で
盃
(
さかずき
)
の遣り取りをするのも、草双紙の趣向にもありそうなことである。
武州公秘話:02 跋
(新字新仮名)
/
正宗白鳥
(著)
自分も母にねだって
蚊帳
(
かや
)
の破れたので捕虫網を作ってもらって、土用の日盛りにも恐れず、これを肩にかけて毎日のように
虫捕
(
むしと
)
りに出かけた。
花物語
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
布団頼母子
(
ふとんたのもし
)
を落して、いね自身長い間の倹約の末、ようやくの思いで買いととのえた客用の新しい麻の
蚊帳
(
かや
)
と、一組の布団を
土産
(
みやげ
)
にもたせた。
暦
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
蚊帳
(
かや
)
がこう
吊
(
つ
)
ってあって、其の中に萩原様と綺麗な女がいて、其の女が見捨てゝくださるなというと、生涯見捨てはしない
怪談牡丹灯籠:04 怪談牡丹灯籠
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
部屋に這入ると、手探りで
蒲団
(
ふとん
)
を敷いて
蚊帳
(
かや
)
を
吊
(
つ
)
った。
寝間着
(
ねまき
)
に着かえる力もなく、そのまま私はふとんの上に寝そべった。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
ぽん太というのは
蚊帳
(
かや
)
を着物に仕立て直し、その蚊帳の四隅の
鐶
(
かん
)
を紋の代わりに結いつけてすましていた変わり者だった。
円太郎馬車
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
赤ん坊のころ、若い母親の不注意から、
釣
(
つり
)
らんぷの下へ
蚊帳
(
かや
)
を釣って寝させておいたら、どうした事か
洋燈
(
ランプ
)
がおちて蚊帳の天井が燃えあがった。
旧聞日本橋:03 蕎麦屋の利久
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
我々は空地の樹の傍に
蚊帳
(
かや
)
を
釣
(
つ
)
って子供たちを寝せてから、
茄子
(
なす
)
畑のそばで茫然としてこの火を眺めながら夜を明かした。
地異印象記
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
蚊帳
(
かや
)
のなかに
蟠
(
わだかま
)
る闇の裡に私らのさざめきは聞こえた。黙契の裡に談話を廃して後しばらくして、「蛙が鳴くなあ」兄の声はしめやかであった。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
「それから昼に言はうと思つて忘れてゐたけど、
昨夜
(
ゆうべ
)
あたりはもう蚊が二三匹出て寝られなかつたから、今夜はぜひ
蚊帳
(
かや
)
を吊りたいんだがね。」
桑の実
(新字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
雪もよいの風は鋭く
頬
(
ほほ
)
を削った。その針はどんな防寒具でも通すのだから、水夫らの仕事着などは、
蚊帳
(
かや
)
のようであった。
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
万作は黙つて聞いてゐましたが、ふと十二年前に国を出る時、おつ母さんに
蚊帳
(
かや
)
の約束をした事を想ひ出しましたから
蚊帳の釣手
(新字旧仮名)
/
沖野岩三郎
(著)
蚊帳
(
かや
)
の用意がなかったので、十月のなかばまで
難渋
(
なんじゅう
)
した。蚊ばかりではない。名も知らない虫が、あかりを慕って来る。
果樹
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
それは
某夜
(
あるよ
)
、夫婦で床に就いて、細君は早く眠り、寛一郎一人がうつらうつらしていると、どこからともなく火の玉が来て、
蚊帳
(
かや
)
の上を這いだした。
掠奪した短刀
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
舞台は、
上手
(
かみて
)
障子内に
蚊帳
(
かや
)
を吊り、六枚屏風を立てて、一体の作りが浪人
住居
(
ずまい
)
の体。演技はすでに幕切れに近かった。
人魚謎お岩殺し
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
朝六時睡
覚
(
さ
)
む。
蚊帳
(
かや
)
はづさせ雨戸あけさせて新聞を見る。玉利博士の西洋梨の話待ち兼ねて読む。
印度
(
インド
)
仙人談完結す。
病牀六尺
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
夏の
夜更
(
よふ
)
けの、外は露気を含んで冷や冷やと好い
肌触
(
はだざわ
)
りだけれど部屋の中は締め込んでいるのでむうっと寝臭い
蚊帳
(
かや
)
の臭いに混ってお前臭いにおいが
うつり香
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
その日の晩、十二時はとくに打ったのに、つけっぱなしの電燈の下に、
蚊帳
(
かや
)
は広々と、美和子の寝床は
空
(
から
)
であった。
貞操問答
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
白い
蚊帳
(
かや
)
のなかで、わざと、激しく、ゆき子は、扇をつかつてゐた。二人の唇のなかには、さつき、芝生で飲んだ、シェリー酒の匂ひがこもつてゐる。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
暑いので、開け放した縁からの月光に、
蚊帳
(
かや
)
が揺れていた。お久美のうえに、庄吉の顔が大きくひろがっていた。
あの顔
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
白い
蚊帳
(
かや
)
のついた
寝台
(
ねだい
)
と
籐編
(
とうあみ
)
の椅子と鏡台と洗面器の外には何もない質素な一室である。壁には
画額
(
ゑがく
)
もなく、窓には
木綿更紗
(
もめんさらさ
)
の
窓掛
(
まどかけ
)
が下げてあるばかり。
海洋の旅
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
蚊帳
(
かや
)
だの、針金で鉢巻をした大きな瀬戸火鉢だの、古い新聞紙や古電球なぞをジロジロ見まわしているようであったが、やがて、今までとは丸で違った
鉄鎚
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
実は白いきれを四方にさげた、日本の
蚊帳
(
かや
)
のようなもんで、その下からは大きな灰いろの四本の
脚
(
あし
)
が、ゆっくりゆっくり上ったり下ったりしていたのだ。
黄いろのトマト
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
旗本の相当の人で、
蚊帳
(
かや
)
の無い人があった。鎧をもっている人は
稀
(
まれ
)
だった。百石百両という相場で、旗本の株を町人に譲って、隠居する人が、多かった。
近藤勇と科学
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
その程度のお嫌いなんですかね? 私はまた、青い顔をして
蚊帳
(
かや
)
でもお吊りになるんだと思ってたんですがね。
雷嫌いの話
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
そしたら着物を着てやろうというので
蚊帳
(
かや
)
で着物を拵え
素透
(
すどお
)
しでよく見えるのに平気で交番の前を歩いていた。
回想録
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
玄関の次の
室
(
へや
)
につってある
蚊帳
(
かや
)
の端っぽが、開いた
襖
(
ふすま
)
から見えた。その中で突然わっと女の泣き声が爆発した。
夏の夜の冒険
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
「それでわしは、すぐ蒲団から出るとわしの枕を抱えて、押入れの中に逃げこみました。そして
蚊帳
(
かや
)
を頭から引被って、外の様子に聞耳を立てていました」
地獄の使者
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
「馬鹿野郎、
猿曳
(
さるひ
)
き見たいなことを言やがつて、——寢付きの惡いのは、
蚊帳
(
かや
)
にでつかい穴が開いてたせゐだ」
銭形平次捕物控:310 闇に飛ぶ箭
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
写生図は完全にごちゃごちゃな私の大鞄、私が眠る時使う日本の枕、
蚊帳
(
かや
)
にかぶせた筵、箱に入った双眼鏡、椅子にのせた日本の麦藁帽子を、示している。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
清浄な
蒲団
(
ふとん
)
。
匂
(
にお
)
いのいい
蚊帳
(
かや
)
と
糊
(
のり
)
のよくきいた
浴衣
(
ゆかた
)
。そこで一月ほど何も思わず横になりたい。
希
(
ねが
)
わくはここがいつの間にかその市になっているのだったら。
檸檬
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
“蚊帳”の意味
《名詞》
蚊帳(ブンチョウ、かチョウ(湯桶読み)、かや(熟字訓))
かやの漢語表現ないしそれに当てた漢字表記。
(出典:Wiktionary)
“蚊帳”の解説
蚊帳(かや、かちょう、ぶんちょう、蚊屋)は、蚊などの害虫から人などを守るための網。
(出典:Wikipedia)
蚊
常用漢字
中学
部首:⾍
10画
帳
常用漢字
小3
部首:⼱
11画
“蚊帳”で始まる語句
蚊帳釣草
蚊帳坐禅
蚊帳美人
蚊帳売
蚊帳外
蚊帳幌
蚊帳草
蚊帳越