蒼蠅うるさ)” の例文
しかし亡友の遺児であってみれば捨てて置くことは世間が蒼蠅うるさかった。それで岡引の虎松に命じて探索させたのだがどうも分らない。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この女はある親戚のうち寄寓きぐうしているので、そこが手狭てぜまな上に、子供などが蒼蠅うるさいのだろうと思った私の答は、すこぶる簡単であった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
でも、仕合せと眼病はなほつた。若い夫人は手土産をげて博士のうちへ礼に往つた。博士は蒼蠅うるささうにお礼の口上を聴いてゐたが
ハヾトフは折々をり/\病氣びやうき同僚どうれう訪問はうもんするのは、自分じぶん義務ぎむるかのやうに、かれところ蒼蠅うるさる。かれはハヾトフがいやでならぬ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
どっこいとポチが追蒐おッかけて巫山戯ふざけかかる。蒼蠅うるさいと言わぬばかりに、先の犬は歯をいて叱る。すると、ポチは驚いて耳を伏せて逃げて来る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
長き講釈も玉江嬢は更に蒼蠅うるさしと思わず「中川さん、そういう風にうかがってみると家庭料理は段々むずかしくなってうっかり手が出せませんね」
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
さすがに屋台店こそ出ぬが、公園の四つの門の前には売子が蒼蠅うるさく鈴を鳴らしながら夕陽新聞の呼び売をする。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
六郎 さなきだに世の中が面白からぬと仰せられてゐたところへ、恰も將軍の御上洛、その御出迎ひを強ひられる蒼蠅うるささに、いつそ武士を捨つるとのお詞でござりまする。
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
蒼蠅うるさく頼んで何といってもかないので、博士も遂に承諾して一行のうちに加えたのだ。
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
... 老い枯れし老婆の御身に嫌はるゝは、可惜あたら武士ものゝふ戀死こひじにせんいのちを思へば物の數ならず、るにても昨夜よべの返事、如何に遊ばすやら』。『幾度申しても御返事は同じこと、あな蒼蠅うるさき人や』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
あくどい蒼蠅うるささがわりに少なくて軽快な俳諧といったようなものが塩梅されているようである。例えばドライヴの途上に出て来るハイカラなそま杭打くいうちの夫婦のスケッチなどがそれである。
映画雑感(Ⅴ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
男たちは少しも私に蒼蠅うるさい眼遣いをしなくなってきたことだ! いいや、相かわらず蒼蠅い眼遣いはしているが、いつかのウェンデルのような、あんな失礼な真似はしなくなってきたことだ。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
此方こっちもとより密売しようではなし、国の秘密をらす気遣きづかいもないが、妙な役人が附て来ればただ蒼蠅うるさい。蒼蠅いのはマダいが、その下役が何かほか差支さしつかえがあると、私共も出ることが出来ない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
庄「よく来るな、蒼蠅うるさいなア」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
筋市 蒼蠅うるさい、黙れ。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
自分は母の気を休めるため、わざと蒼蠅うるさそうにこう云った。母はまた行李の中へ、こまごましたものを出したり入れたりし始めた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ハバトフは折々おりおり病気びょうき同僚どうりょう訪問ほうもんするのは、自分じぶん義務ぎむであるかのように、かれところ蒼蠅うるさる。かれはハバトフがいやでならぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
二人はかね顔馴染かおなじみの警視庁強力犯係ごうりきはんがかりの刑事で、折井おりい氏と山城やましろ氏とだった。いや、顔馴染というよりも、もっと蒼蠅うるさい仲だったと云った方がいい。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今の世に廃兵と生命保険の勧誘員ほど蒼蠅うるさい者は、たんと有るまい。ある時その生命保険の勧誘員が、亡くなつた上田敏博士を訪ねた事があつた。
我邦の妻君は食物ごしらえをさも余計な仕事のように蒼蠅うるさがってどうしたらちょこちょこと早く副食物おかずが出来るだろうと手数を省く工風ばかりしている。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
如何どういうものだか、内でお祖母ばあさんがなめるようにして可愛がって呉れるが、一向嬉しくない。かえっ蒼蠅うるさくなって、出るなとめる袖の下を潜って外へ駈出す。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
さも蒼蠅うるさげに博士に取り次ごうともせずに、拒絶したのであったが、私の押しての強硬な申込みについに不承不承に顔をしかめながら、ノートを受け取って薄暗い玄関の奥へ消え去ったのであった。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼は好い気になって、書記の硯箱すずりばこの中にある朱墨しゅずみいじったり、小刀のさやを払って見たり、ひと蒼蠅うるさがられるような悪戯いたずらを続けざまにした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
再縁の話も実は蒼蠅うるさいほどあるのではあるが、妾は一も二もなくこれをお断りしている。結婚生活なんて、そんなに楽しいものではないからである。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
外でもない、ちんぴらな新聞売子で、医者とエマアソンとの知らない色々の事が載つてゐる新聞を押売おしうりしに来るのだ。医者はそれが蒼蠅うるさくて仕方がなかつた。
あいのおさえのという蒼蠅うるさい事のないかわり、洒落しゃれかつぎ合い、大口、高笑、都々逸どどいつじぶくり、替歌の伝受など、いろいろの事が有ッたが、蒼蠅うるさいからそれは略す。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
悪くすると子供は蒼蠅うるさいから欲しくない、育児なんぞはイヤな事だというような人も出ます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかし医者の来るたびに蒼蠅うるさい質問を掛けて相手を困らすたちでもなかった。医者の方でもまた遠慮して何ともいわなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蒼蠅うるさい世間は、玲子の殊遇しゅぐうが桐花カスミとの同性愛によるものだろうと、噂していたが、それは嘘に違いない。
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私も亦夜着をかぶった。いぬは門前を去ったのか、啼声がやや遠くなるにれて、父のいびきが又蒼蠅うるさく耳に附く。寝られぬ儘に、私は夜着の中で今聴いた母の説明を反覆くりかえし反覆しあじわって見た。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「世間め、どんな取沙汰をしてるだらうな。ほんとに蒼蠅うるさいつたらありやしない。」
限りなき質問をお登和嬢は更に蒼蠅うるさしとも思わず
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「こういう証文さえ入れさせて置けばもう大丈夫だからね。それでないと何時まで蒼蠅うるさく付けまとわられるか分ったもんじゃないよ。ねえちょうさん」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは四五日前までは、毎日のように彼のところへ来ては、老人へのよき執成とりなしを、蒼蠅うるさいほど頼んでいた千石虎之進せんごくとらのしんという、死んだ老人の末弟に当る男であった。
仲々死なぬ彼奴 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それから二三日すると、川崎造船所の株が蒼蠅うるさい程しきりと切り替られた。
「何だよ?」と蒼蠅うるさそうにお政は起直ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
主人の長広舌も客の耳には蒼蠅うるさからず
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
隠す事を知らない彼女は腹にある事をことごとく話した。黙って聞いていた自分にもしまいには蒼蠅うるさいほどであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ああ、そうですか」と一郎は大きくうなずきながら「では耳飾の宝石も、そのときに落したんですね。これも拾われては蒼蠅うるさいことになるから、後で探したというわけですね」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
津田は蒼蠅うるさそうにこう云った。お延は取りつく島もないといった風にお秀を見た。どうか助けて下さいという表情が彼女の細い眼とまゆの間に現われた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、速水はさも蒼蠅うるさそうに応えた。そしてその器械を持ちあげて、鉄砲を撃つときのように肩にあてた。だから器械はそのとき直立していた。それから彼は引金のようなものをグッと下に引いた。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分たちの親切を、無理にも子供の胸に外部からたたき込もうとする彼らの努力は、かえって反対の結果をその子供の上に引き起した。健三は蒼蠅うるさがった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
客は蒼蠅うるさいほどお重に同情の言葉を注射したあと、「じゃ残念だが始めましょうか」と云い出した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうしてしつこく自分自身の話題にばかり纏綿つけまつわった。それがまた津田のこうとする事と、間接ではあるが深い関係があるので、津田は蒼蠅うるさくもあり、じれったくもあった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子供を持った事のないその時の私は、子供をただ蒼蠅うるさいもののように考えていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は二日酔ふつかよいの眼と頭をもって、かいこの糸をくようにそれからそれへと出てくるこの記念かたみかず見つめていたが、しまいには眼先にただようふわふわした夢の蒼蠅うるささにえなくなった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それには無論養家を出る出ないの蒼蠅うるさい問題も手伝っていたでしょう。彼は段々感傷的センチメンタルになって来たのです。時によると、自分だけが世の中の不幸を一人で背負しょって立っているような事をいいます。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)