色艶いろつや)” の例文
旧字:色艷
もしこれが金堂の銅像のようにみずみずしい滑らかな色艶いろつやを持っていたならば、もっと容易に人の心を捕えることができたであろう。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
もとからひよわそうな顔だちであったが、このごろは色艶いろつやもめだってわるく、頬もこけたし、唇も乾いて、いつもかさかさしていた。
だが、それけでは駄目だ。いくら色艶いろつやがよくなったとて、顔の相好そうごうが生きては来ない。死人か、でなければ生命いのちのない人形だ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
家には親方とかみさんとがゐた。色艶いろつやのよい愛嬌あいけうのある小肥りの、筒袖絆纏つゝそでばんてんを着た若いかみさんが私をあいそよく迎へてくれた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
幹が横に、おおきく枝を張った、一里塚のような松の古木の下に、いい月夜でしたが、松葉ほどの色艶いろつやもない、わらすべ同然になって休みました。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
音には出ないで、つぶった眼と額と——繃帯のすき間にあらわれている彼の皮膚の色艶いろつやが、間ちがいないと請けあっていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
烏が二羽、船ばたにとまって、そうして一羽はやつれて翼の色艶いろつやも悪いと来ているんだから、その引立たぬ事おびただしい。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
笑えば人を魅するような妖艶ようえんな色が出て来ました。そして何事を差置いても、その色艶いろつやに修飾を加えることが、お君の第一の勤めとなりました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
色艶いろつやといい形といい、さてさて聞きしにまさる名品であるが、昔のものは随分重いものであるな! と、感嘆遊ばされた。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
若い時にはちょっとかっただろうと思われるほど、今もなお色艶いろつやのいい女で、風呂に行っても二時間はたっぷりかかるほどのおめかし屋であった。
厚い眼瞼まぶた、軽く丸みをもった眼、小鼻の開いたかなり太い鼻、怜悧れいりそうにほっそりした頬、重々しいあご、かなり濃い色艶いろつや、そういうものをもってして彼女は
其処そこに肥大な体の、髪もひげも銀を染めたロダン翁がたち迎へて、鼻眼鏡を掛けた目と色艶いろつやのよい盛高もりだかな二つのとに物皆を赤子せきしの様に愛する偉人の微笑を湛へなが
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
と病人は言つて聞かせて、自分の色艶いろつやの無い細い手と、柿田の若い看護婦らしい手とを見比べる。
死の床 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
瀬戸に注意せられてから、あの顔を好く思い浮べて見ると、田舎生れの小間使上がりで、植木屋の女房になっている、あの安がどこかに美人の骨相を持っている。色艶いろつやは悪い。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ポンパドール夫人の顔の色艶いろつやのいいことや、その唇や、目や、髪毛や、頬や、笑靨や、その肢体やの何一つとして豔美ならざるはなく、男の心を惹き付けぬものはないと賞めちぎつた後で
東西ほくろ考 (新字旧仮名) / 堀口九万一(著)
色艶いろつやのわるい、むくんだような顔、下瞼したまぶたはだらりとたるみ、不快なへこみができている。そして帽子の下からのぞいている大きな眼だ。その大きな眼が、宮川をじっと見つめていたのである。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ほとんど毎日死ぬ死ぬと言て見る通り人間らしい色艶いろつやもなし、食事も丁度一週間ばかり一りふも口へ入れる事が無いに、そればかりでも身体からだの疲労が甚しからうと思はれるので種々いろいろに異見も言ふが
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
自分のはだの素地や、色艶いろつやを省みずに、化粧してはキット失敗すると思います。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
それから今一つはもちのうまさ、及びその形と色艶いろつやのよいことで、これもまた横杵よこぎね大臼おおうすが使用せられる時になって、始めて今までの水に浸した米の粉のしとぎに、代ることが出来たものである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その頃はいつもでっぷりふとってまだ色艶いろつやのよかったルーソーのかみさんが、いかめしく帳場に陣取っていたが、彼はそこで金を払い、給仕に一スーを与えると、上さんは笑顔を見せてくれた。
「あかかがち」とは赤酸漿たんばほおずきの古い名、当時の美女はほおずきのように丸く、赤く、艶やかであったらしくも考えられる。赤いといっても色艶いろつやうるわしく、匂うようなのを言ったのであろう。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
天女も五衰ごすいぞかし、玳瑁たいまいくし、真珠の根掛ねがけいつか無くなりては華鬘けまんの美しかりけるおもかげとどまらず、身だしなみものうくて、光ると云われし色艶いろつや屈托くったくに曇り、好みの衣裳いしょう数々彼に取られこれえては
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかし何よりも驚くべきはその美しい色艶いろつやで、燃え立つばかりに紅かったが、単に上辺うわべだけの紅さではなく、底に一抹いちまつの黒さを湛えた小気味の悪いような紅さであり、ちょうど人間の血の色が
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
若々しい色艶いろつやを見せたかと思われたのもほんのつかの間のことであった。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
如何にもそれは死体とは考えられぬ程なまめかしい色艶いろつやであった。犯人は死体化粧によって、そこに一つの芸術品を創造したのだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
(声くもる)そして、うつつに、夢心ゆめごこちに、言いあてたお前の顔が、色艶いろつやから、目鼻立まで、そっくりじゃないか。さあ。(位牌を捧げ、台に据う。)
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
徳兵衛の皮肉な、そらとぼけた口調や、色艶いろつやの悪い顔にうかべた卑しい表情などを思い返すと、登もまた睡を吐きたいような、いやな気持になるのであった。
あのお内儀かみさんの元気なことは——お湯に入っているところを見ますと、肉づきはお相撲さんのようで、色艶いろつや年増盛としまざかりのようで、それで、もう五十の坂を越しているのですから驚きます。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つまり部屋一杯の人の顔、それが生きてうごめいているのです。映画なぞでないことは、その動きの静かなのと、生物そのままの色艶いろつやとで明瞭めいりょうです。
鏡地獄 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小宮山はどの道一泊するものを、乾燥無味な旅籠屋に寝るよりは、多少色艶いろつやっぽいその柏屋へとめたので。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と胸のうちで繰返して、その目と、髪と、色艶いろつやと、一つ一つまとまり掛けると……おぼえがある!
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すこ高過たかすぎるくらゐに鼻筋はなすぢがツンとして、彫刻てうこくか、ねりものか、まゆ口許くちもと、はつきりした輪郭りんくわくひ、第一だいいち櫻色さくらいろの、あの、色艶いろつやが、——それが——いまの、あの電車でんしや婦人ふじん瓜二うりふたつとつてもい。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
皓歯しらはべによ、すごいようじゃない事、夜が更けた、色艶いろつやは。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)