臓腑ぞうふ)” の例文
旧字:臟腑
が、つぎの一瞬、かれは再び栄三郎の一刀を臓腑ぞうふに感じて、焼けるような痛苦のうちにみずから呼吸をひきとりつつあるのを知った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
クリストフは幻覚に襲われ、一身を挙げて緊張していたが、臓腑ぞうふまでぞっと震え上った。……ヴェールは裂けた。眩惑げんわくすべき光景だった。
停車場ステエション前で饂飩うどんで飲んだ、臓腑ぞうふ宛然さながら蚯蚓みみずのやうな、しツこしのない江戸児擬えどっこまがいが、うして腹なんぞ立てるものかい。ふん、だらしやない。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これはもちろん単純なる女学生の唱歌には相違なかったが、しかし不思議に自分の中にいる日本人の臓腑ぞうふにしみる何ものかを感じさせられた。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
悪人の臓腑ぞうふを引出してろうと、虎も引裂ひっさく気性の文治郎、こらえ兼て次の間にあります一刀に目を付けるという、これからが喧嘩になります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
許すも許さぬもない、これへ登りつくなり、自然にヘバッてしもうたのじゃ。わしにせよ、これ以上の我慢は、口から臓腑ぞうふ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それゆえこの小説の臓腑ぞうふといえば、あるひとりの男の三歳二歳一歳の思い出なのである。その余のことは書かずともよい。
玩具 (新字新仮名) / 太宰治(著)
からの胃袋は痙攣けいれんを起したように引締って、臓腑ぞうふ顛倒ひッくりかえるような苦しみ。臭い腐敗した空気が意地悪くむんむッと煽付あおりつける。
寺と墓地とは縁もゆかりもない千歳村の此耕さるべき部分の外に行き得る場所はないのであろう乎。都会が頭なら、田舎は臓腑ぞうふではあるまい乎。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「口から臓腑ぞうふが飛びだすほど駈けてきたんだが、十五ミニュートとは、だいぶちがう。……だが、念には念を入れ、もうひとかえりやって見よう」
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
何となれば去勢する鶏は産れてから七、八十日位の雛鳥に限るから身体からだも小さいし、腹の中の臓腑ぞうふや筋骨も弱いし大きなものを扱うよりも非常に困難だ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
斬り開かれた腹部から中庭の石に臓腑ぞうふがつかみ出されていたにかかわらず、どくっどくっと、死直後の惰力だりょく動悸どうきを打って、あたたかい血を奔出ほんしゅつさせていた。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
正道はうっとりとなって、この詞に聞きれた。そのうち臓腑ぞうふが煮え返るようになって、けものめいた叫びが口から出ようとするのを、歯を食いしばってこらえた。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
自分は急に陰気になって下へさがる、とうてい交際つきあいはできないんだと思うと、背中と胸の厚さがしゅうと減って、臓腑ぞうふうすぺらな一枚の紙のようにしつけられる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕なんぞは臓腑ぞうふぐるみほうり出したって、焼いた玉ねぎ一つくらいにしか、値ぶみしてくれやしない。
それに照らすと人の筋骨きんこつから臓腑ぞうふまではっきりと映ったので、最初に見た者はおどろいて気絶した。
切支丹の拷問に「囚徒」を逆吊さかづりにして、その頭の鬱血うっけつと、胸を臓腑ぞうふが圧迫することのために、口からはもとより、ついには目と鼻とからまで出血して、たいてい七
多くの家族の者らは暗闇くらやみのうちに散り失せ、自分の子供らがいかになったかも知らず、いわば往来の上におのれの臓腑ぞうふを落としてゆくのは、さほど珍しいことではない。
ちょうど、霍乱かくらんか何かのような、一時は臓腑ぞうふまで吐くんじゃないかと思いました。が、それでもうんと吐いたのは容態が軽い方で、あまり吐かない女どもは重うございました
それから新たに祭壇を設けて遺骸を安置し、その臓腑ぞうふを大木の根元に埋め、幹をけづつて英語の書ける従者に、リヴィングストーンの姓名と誕生日と死亡日とをほらせました。
アフリカのスタンレー (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
卵色の膜に包まれた臓腑ぞうふがべろべろとあふれ出た。屠手の中には牛の爪先を関節のところから切り放して、土間へ投出ほうりだすのもあり、胴の中程へ出刃を入れて肉を裂くものもあった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
猫の身になつたらおなか臓腑ぞうふがしめつけられてずいぶん苦しいことに違ひありません。
身代り (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
しいて抜こうとすれば、針が根元から切れ傷口から臓腑ぞうふが出て、蜂が死んでしまう。
進化論と衛生 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
すなわち彼は、英国の海岸を外より脅かさんとせるドイツの恐るべきを知ると同時に、国家の臓腑ぞうふを内より腐蝕ふしょくせんとする貧困のさらに恐るべき大敵たることを発見したものである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
切り裂かれた疵口きずぐちからは怨めしそうに臓腑ぞうふい出して、その上には敵の余類か、こがねづくり、薄金うすがねよろいをつけたはえ将軍が陣取ッている。はや乾いた眼の玉の池の中にはうじ大将が勢揃せいぞろえ。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
しかしそれは思っただけで、恋争いの敗北の痛みは、臓腑ぞうふに深く刻みつけられた。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
そこには、兎が臓腑ぞうふを出し、雪を血に紅く染めて小児のように横たわっていた。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
やぶ医者のような男の半身像が赤い舌をペロリと出しているのである。それからライフという当時ハイカラな名の薬の看板はガラス絵だった。せた男が臓腑ぞうふを見せて指ざしている絵だった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
強×(9)され、×(10)えぐられ、臓腑ぞうふまで引きずり出された女たち!
間島パルチザンの歌 (新字旧仮名) / 槙村浩(著)
「そりゃあ、むろんさ。臓腑ぞうふの中が糞尿だらけになっては、たまらんよ。」
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
鼻のあなから洟汁はなじるをたらし、口から臭い息を吐き、わきの下からぬる/\した汗を出すこと、体内には糞や尿や膿や血やあぶらが溜ってい、臓腑ぞうふの中には汚物が充満し、いろ/\の虫が集っていること
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは臓腑ぞうふと臓腑をりあわすような呻きであった。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
どろどろと臓腑ぞうふごと溶けて流れた血のあと
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
同時に、右から左へかけてはすかいに胴がわれて、一時に土を染めて流れ出す血、臓腑ぞうふ……いつのまにか、ものの見事に斬られていたんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
せつな、ウオオッという吼え声とともに、牝の巨体は、その臓腑ぞうふの中に短刀を入れたまま、ころげ出て草原をまろび、彼方かなたの林へザッと躍り込んだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば「人生案内」の最後の景において機関車のほえるようなうめくような声が妙に人の臓腑ぞうふにしみて聞こえる。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして彼らは自分の血をしぼり出し、自分の臓腑ぞうふをしぼり出していた。それは痛ましいまた奇怪な光景であった。
今のように血を出して肛門の処を切り取って中の臓腑ぞうふを引抜いて逆さにして一晩釣るしておかねばならん。こうして涼しい処へ置くと土用中でも二日位持つ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
運命の暴力は、いかに吾人ごじんが完成しておりあるいは冷静となっていても、吾人の臓腑ぞうふの底より人間性を引き出し、それを外部に現わさせるだけの特性を持っているものである。
わしが小坊主のとき、先代がよう云われた。人間は日本橋の真中に臓腑ぞうふをさらけ出して、恥ずかしくないようにしなければ修業を積んだとは云われんてな。あなたもそれまで修業を
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「土左衛門の臓腑ぞうふを烏がついばむところがあるんだ。土左衛門は人形だが、烏は真物ほんもので、種を聞くと、桶へ入れてこもの間に隠しておく、どじょうをついばむんだってね、そりゃ凄いぜ親分」
家の隅の暗いところに障子代りのきぬが垂れているので、その隙間から窺うと、そこには大きい鳥のような物が人の如くに立っていた。その全身は水晶に似て、臓腑ぞうふがみな透いて見えた。
切り開いた陰部から手を挿入そうにゅうして臓腑ぞうふを引き出したものとみえて、まるで玩具おもちゃ箱をひっくりかえしたように、そこら一面、赤色と紫とその濃淡の諸器官がごっちゃに転がっていた、がただ一つ
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
が、ただ先哲、孫呉空は、蟭螟虫ごまむしと変じて、夫人の腹中に飛び込んで、痛快にその臓腑ぞうふえぐるのである。末法の凡俳は、咽喉のどまでも行かない、唇に触れたら酸漿ほおずきたねともならず、とろけちまおう。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さもないと施術の時臓腑ぞうふが膨脹して非常に困難だし、それに血管の動作が激烈だから出血しやすい。出血は施術に大禁物だいきんもつすこしでも出血したらモー施術が出来ん。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しんぱつ、また、眼もとまらぬ一げきとつ、すべて見事な肉体のから演舞だった。史進は、声をらして、そののどから臓腑ぞうふを吐かんとするほどに身も疲れてしまった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
作品を臓腑ぞうふからほとばしり出させた強い本能は沈黙してしまっている。なんのために作品が生まれたのかもうわからない。作品のうちに自分の姿を認めることもなかなかできない。
絵というよりもむしろ臓腑ぞうふの解剖図のような気味の悪い色の配合が並べられている。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いま水からあげたばかりのぬのを石にたたきつけたように、花と見える血沫ちしぶき四辺あたりに散って、パックリと口を開いた白い斬りあとから、土にまみれる臓腑ぞうふ玩具箱おもちゃばこをひっくりかえしたよう……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
放蕩ほうとうの酒で臓腑ぞうふを洗濯されたような彼のおもむきもようやく解する事ができた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)