老爺おやじ)” の例文
うだか。分りゃしませんよ。老爺おやじめ、なるべく遅く帰って来ればいゝのに。こう思っているのじゃありませんか。はゝゝゝゝ。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
スウェーデンの牧牛女うしかいめは狼を黙者だんまり灰色脚はいいろあし金歯きんばなど呼び、熊を老爺おやじ大父おおちち、十二人力にんりき金脚きんあしなど名づけ決してその本名を呼ばず
所詮しょせん牛をそらすくらいならば、なぜ車の輪にかけて、あの下司げすき殺さぬ。怪我をしてさえ、手を合せて、随喜するほどの老爺おやじじゃ。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
坂下の花屋の小屋に、主人の乗換馬の白が預けてあるからと聞いて——小次郎はその花屋の軒に立ったが、きょうも老爺おやじはいなかった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
凧を拵えようと思うけれど、骨がなくて弱っている所へ桶屋の老爺おやじが来た。竹を少し呉れと言ったら、いくらでも上げると言った。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と言うから、鐚が木口の後ろを見ると、いかにも人のよさそうな老爺おやじが一人、なべーんとしたかおをして、しょんぼりと控えている。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「どうしなすった。喧嘩でもしなすったかね。」と、橋番の老爺おやじはそこにある水桶の水を汲んでやりながら、少しく眉をひそめて訊いた。
放し鰻 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ある冬の事、この老爺おやじというのが、元来はなし上手なので、近所の子供だちが夜になると必ず皆寄って来て、老爺おやじはなしをせがむのが例であったが
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
云えばすぐに殺されるか、刺違えて死兼しにかねぬ忠義無類むるいごく頑固かたくな老爺おやじでございますから、これをいものにせんけりアなりません。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
言うまでもなく、いつぞや身投げを助けられた老爺おやじと銭形の平次、寮の騒ぎを他所よそに、土手の蔭にヒソヒソと物語りします。
ところがその山羊髯老爺おやじがソレでいて、ドコか喰えない感じがする。凄いところが在りそうな気がして、たまらなく薄気味が悪いから怪訝おかしい。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
久助は、老爺おやじではあったが、そういう宴席のとりなしなどは、巧みなものであった。口数をきかずに用が足りて、万事によく気が届くのであった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
上に熊手くまでのかかった帳場に、でッぷりした肌脱ぎの老爺おやじが、立てた膝を両手で抱えて、眠そうにりかかっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「やれやれなさけない、のう、お前様まえさん。」老爺おやじうなずき、「御慈悲をば頼んでみるじゃ。」と二人は土下座をして平突張へッつくば
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この老爺おやじもわがためには紀念すべき人である、だからこの画をこの老爺おやじにくれてやって八幡に奉納さすれば、われにもしこの後また退転の念が生じたとき
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あの老爺おやじさんは確か二円五十銭で買ったはず、五十銭もうけるとはひどい、もっと負けさせなさいなどいっています。しかし、三円なら値ぎりようもありません。
その照明にグロテスクにくまどられた顔とともに、水腫みずばれのした咽喉のどを振り立てながら、あのレクトル・エケクランツ老爺おやじが、その品物の真なることを肯定して
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
雨の中に立っておお元気なり。早速足ごしらいをして飛び立つ。案内者を一名雇う。佐十さじゅうさんという頑強日光一の案内老爺おやじ負梯子おいばしごに一行の荷物をのせて雨中を出かける。
「ハイハイハイッ。お邪魔でがあすよ。ハイハイハイッ」と馬上なる六十あまりの老爺おやじ頬被ほおかぶりをとりながら、怪しげに二人ふたりのようすを見かえり見かえり行き過ぎたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
何だと思うと中風病ちゅうふうやみ老爺おやじが、しびんにやってる。実は客ではない、その家の病人でしょう。その病人と並べて寝かされたので、汚くてたまらなかったのはく覚えて居ます。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
見なさる通り今こそかしらに雪をいただき、額にこのような波を寄せ、かお光沢つやせ、肉も落ち、力も抜け、声もしわがれた梅干老爺おやじであるが,これでも一度は若い時もあッたので
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
そのかたわらに見るからあわれをもよおすような、病みやつれた六十ばかりの老爺おやじ、下草にべったりと両手をつき、水洟みずばなをすすりながら、なにかクドクドとくり言をのべている。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「では早速そういう事に取掛るに就ては、内の老爺おやじをここへ呼んで来ますよ」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
七色の風船玉を売って歩く老爺おやじのまわりには、村の子供がたかっていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
木戸番の老爺おやじが番台の上に坐って、まねきの口上を述べていた。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
老爺おやじことばを叩き消すように順作が云った。
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
たちまちの内にあの老爺おやじは、牛のはづなでございましょう、有り合せた縄にかけられて、月明りの往来へ引き据えられてしまいました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
後ろで声がしたので、酒のしずくを拭きながらふりかえってみると、さっき賭将棋かけしょうぎをやっていた相手の門番、伊平いへいという老爺おやじである。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老爺おやじは火縄の手を休めて腰を立てると、武士は肩にかけた振分けの荷物を縁台の上に投げ出して、野袴のばかますそをハタハタとたた
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
の白きをんで散歩する市郎のところへ、の七兵衛老爺おやじが駈けて来て、大きな眼と口とをしきりに働かせながら、山𤢖やまわろの一件を注進したのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と云ううちに貫七爺は眼のたまを奥の方へ引込まして支那扇を畳んだ。その表情が東京の寄席で聞いた何とかいう怪談屋の老爺おやじにソックリであった。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「いやな野郎だな——とにかく、あの老爺おやじ鳥屋とやにつくまで、後を跟けてみるがいい。とんだ草臥儲くたびれもうけかも知れないが」
主「それは/\、うかまア此の老爺おやじの生きて居りますうちに、かたきが討てますれば、もうわたくしほかに思い残すことは有りませぬ、何うか一刻もお早く」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女中は声を挙げて別荘番の老爺おやじを呼んだけれども、風雨の音にさえぎられて、別荘番の家までは、届かないらしかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
老爺おやじはああいいますけれど、お上さんの気前を買って、私がお貸し申しましょう。だから入れられるだけ入れてみて下さい。倒されればそれまでです」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
たいがい老爺おやじと妻と息子と手提げが、四つぽかんとして通行人の膝から下を眺めてることが多かった。
びっくりして振り向くと六十ばかりの老爺おやじが腰をかがめて僕の肩越しにのぞき込んでいるんだ。僕はあまりのことに、何だびっくりしたじゃアないかと怒鳴ってやッた。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そこの窓際まで来て、雨戸を開けて、あだか戸外おもての人とはなしをしているかの様子であった、暫時しばらくして、老爺おやじはまた戸を閉めて、手に何か持ちながら其処そこの座に戻って来たが
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
の田舎老爺おやじもこの事を知らなかったため横暴なる赤馬車にいじめられているのであるが、いかに山の中とはいえ、かくのごとき不親切極まる営業振りは聞捨てにならぬ。
「やい、愚図々々してるとこうだぞ。」足を揚げて老爺おやじを蹴飛ばし、襟をつかみて老婆を突遣つきやる。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山猿のような例の老爺おやじが先に立って私と後藤君とは山道に掛かりましたが、左の方は断崖絶壁……下をのぞいて見ると、幾十丈とも分らぬ谷底の水が紺青こんじょう色をして流れている。
ずいとはいり込むと、客が一人、酒樽さかだるに腰を掛けて、老爺おやじを相手に盛んに弁じ立てている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「お前の老爺おやじが死んだのか」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
が、あの老爺おやじはとんとそれに頓着する容子ようすもなく、ただ、二三歩譲っただけで、相不変あいかわらずとぼとぼと寂しい歩みを運んで参ります。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「親分はいねえが、部屋の留守は年寄役でおれが預かっている。おれは、念仏太左衛門ねんぶつたざえもんという老爺おやじだが、何か挨拶があるなら聞いてやろう」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
百姓の老爺おやじと子供とがその掛物を拡げて見ようとするところだから、米友は眼の色を変えて駈け寄って、横の方から、それをひったくりました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「第一、先般、御承知の一パイ屋の藤六老爺おやじが死にました時に仏壇の中から古い人間の頭蓋骨と、麦の黒穂くろんぼが出た事は、御記憶で御座いましょう」
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
怪しいしにざまに見せかけて白翁堂の老爺おやじをば一ぺい欺込はめこみ、又海音如来の御守もまんまと首尾く盗み出し、根津の清水の花壇の中へ埋めて置き
彼は苦しまぎれに門番の老爺おやじを口説いた。門番は内職をして小金を溜めているということを知っているからであった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
妙な苦笑ひと一緒に、澁紙張しぶがみばりにしたやうな五十恰好の老爺おやじが一人、木戸を押し開けて、縁側の方へ顏を出しました。