竹刀しない)” の例文
それはわからない——最近になって復興して、竹刀しないの声に換ゆるに読書の声を以てした道場の賑わいも、明日からは聞えないのです。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
奉行職ぶぎょうしょく記録所きろくじょの役部屋へ、小野十太夫じゅうだゆうがはいって来る。彼は汗になった稽古着けいこぎのままで、ときには竹刀しないを持ったままのこともある。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
撃剣でも竹刀しないの打ち込まれる電光石火の迅速な運動に、この同じ手首が肝心な役目を務めるであろうということも想像されるであろう。
「手首」の問題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
薙刀なら向うずね、鎖鎌なら竹刀しないをからめ寄せて鎌で首、たいていはいい加減にあしらって片づける鮮やかさ、全く心得たものだ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
稽古ばかまをはいて、竹刀しないの先へ面小手めんこてはさんで、肩に担いで部屋を出たが,心で思ッた、この勇ましい姿、活溌かっぱつといおうか雄壮といおうか
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
高輪たかなわの邸で、学校出の若い社員と、今でも竹刀しないを握ります。ゴルフもこの頃、はじめたが、とても撃剣のようには行きません」
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
竹刀しない、木刀、槍、薙刀なぎなた、面、胴、籠手の道具類が、棚に整然と置かれてあり、左の板壁には段位を分けた、漆塗りの名札がかけてあった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
行司はたといいかなる時にも、私曲しきょくなげうたねばなりませぬ。一たび二人ふたり竹刀しないあいだへ、おうぎを持って立った上は、天道に従わねばなりませぬ。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや、おれだって、和歌山にいた頃は、藩の指南へ通って相当に竹刀しないダコをこしらえたものだが、ただ、あいつは苦手だよ」
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どなたからお聞き及びかはしりませぬが、どうぞそのようなことは、お胸におさめておいてくださるよう、女形おやまの身で、竹刀しない
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「さ! どっちもしっかり! ぬかるな、ぬかるな、竹刀しないじゃねえんだ、べらぼうめ、さわれあ赤え血が出るんだぞ」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「とうとう小手を取られたんだあね。ちょいと小手を取ったんだが、そこがそら、竹刀しないを落したものだから、どうにも、こうにもしようがないやあね」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子供の時前を通ると、竹刀しないの音がすぐ聞えた。星享の殺された時、刺客伊庭想太郎の名前を見て、私はあの高い塀と、塀の中の竹刀の音を思い出した。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
勿論もちろんその間に、俺は二三度調べに出て、竹刀しないぐられたり、靴のまゝでられたり、締めこみをされたりして、三日も横になったきりでいたこともある。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
竹刀しないを取られる所が面白いでしょう。『そら、そこで竹刀を取られたんだあね』という所が面白いでしょう」
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「いやいや。確かに竹刀しない離れがして来たぞ。のう平馬殿……お手前はこのじゅう、どこかで人を斬られはせんじゃったか。イヤサ、真剣の立会であいをされたであろう」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
怜悧れいりなる手塚はすぐ一さくを案じて阪井をたずねた、阪井は竹刀しないをさげて友達のもとへいくところであった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ドズンと、竹刀しないで床を突いた。長い竹刀はちゃんとさっきからその男の横の羽目に立てかけてある。
刻々 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「えいっ。」といって、正二しょうじかお自分じぶん竹刀しないで、一つかるくたたいて、あちらへかけしました。
はととりんご (新字新仮名) / 小川未明(著)
撃剣の竹刀しない撃合うちあうような音と、威勢のいい掛声とが入り交って、如何いかにも爽やかな感じである。
掛物を破り、竹刀しないをふり廻し、盛大なもので、実に楽しさうである、ちつとも暗くなく、惨めでない。喧嘩禁止令といふものが発令された際にこの家族はどうなるだらう。
ほかの腰元たちも一緒になって薙刀や竹刀しない撃の稽古をする。まるで鏡山の芝居を観るようです。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と同時に、鋭く目を射たものは、疑問の藩士の両手の指と手のひらに見える竹刀しないだこでした。
やぶれたストーヴについて、不自由ふじいう外出がいしゅつについて、ふうられた手紙てがみについて、不親切ふしんせつ軍医ぐんいについて、よこつら竹刀しないばす班長はんちょうについて、夜中よなかにみんなたたおこ警報けいほうについて
一 読書思索観察の三事は小説かくものの寸毫すんごうも怠りてはならぬものなり。読書と思索とは剣術使の毎日道場にて竹刀しないを持つが如く、観察は武者修行にでて他流試合をなすが如し。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ぽかりと、一郎の頭に、新聞紙をまいてつくった代用品の竹刀しないが、ふりおろされた。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
竹刀しない袋こそは提げていないが、百田の若い周囲であり背景であった。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
次郎君なかなか元気者でしてな、竹刀しないを握らせると、もう夢中になって打込んでまいりましたわい。ところで、これははじめのうち誰でもそうじゃが、うまく懸声かけごえが出ない。出ても気合がかからない。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
面小手で竹刀しない引担ひっかついでお前、稽古着に、小倉の襠高まちだかか何かで、ほおの木歯を引摺ひきずって、ここの内へ通っちゃ、引けると仲之町を縦横十文字にならして歩いた。ここにおわします色男も鳴すことその通り。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
敵の竹刀しないわすだけの稽古けいこ試合だった。
手にした竹刀しないをふりかざして
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
兵馬は、それを聞くと早速に、教えられた通り代官屋敷の道場を叩いてみると、その時に、もはや戞々かつかつとして竹刀しない打ちの最中でありました。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もちろん腕が段ちがいというのではない、塚田や海保たちとも竹刀しないを合せてみたが、勝負はたいてい五分と五分であった。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし、そうなったところで、幾ぶんでも柔術やわらなり竹刀しないの下地がある浪人者に、及ばなくなったのは当りまえであった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひそかに以前まえから嫌っていて、そのため両親へは内密に、町道場へ通って行き、竹刀しないの振り方など習うほどであった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小田巻直次郎の竹刀しない友達やら飲友達で、足繁く出入している、浪人の臼井金之輔、御家人南久馬、旗本の次男で、三津本弦吉——などに掛けられました。
大次郎は、優しい顔に似げなく額部ひたいの照りに面擦れを見せて、黒七子くろななこ紋付きの着流し、鍛え抜いた竹刀しないのように瘠せた上身を、ぐっと千浪のほうへ向けた。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ハハハハそこでそら竹刀しないを落したんだあねか。ハハハハ。どうも気楽なものだ」と圭さんも真似して見る。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何でも先生に学んだ一人は武徳会の大会に出、相手の小手へ竹刀しないを入れると、余り気合いの烈しかったために相手の腕を一打ちに折ってしまったとかいうことだった。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かれは、竹刀しないなおして、小僧こぞうさんのほうたのでした。はやくもそれをった新吉しんきち
はととりんご (新字新仮名) / 小川未明(著)
その門のところにひっころがしてあったつり鐘を竹刀しないでたたいていましたからね、なにふざけたまねするんだ、つり鐘だってそんなものでたたかれりゃいてえじゃねえかっていったら
真面目に面をつけて竹刀しないを振廻している私達の方を、例の細い眼で嘲笑を浮べながら見ているのだったが、ある日の四時間目、剣道の時間が終って、まだ面もらない私のそばへ来て
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「拙者の方は、例によって、竹刀しないばかり持ち続けているが、どうもまだ、山林に隠れる程の覚悟も決まらぬよ。慰めは酒だ。そう申せば、只今は、灘の上酒くだりを頂いたそうで、何よりだ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
竹刀しないが長持ちに幾杯とかあったというような事をりょうの祖母から聞いた事がある。
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
歴々の武士が竹刀しないの持ちようも知らず、弓の引きようも知らず、それでも立派にお役を勤めて家繁昌する世の中に、なんの役にも立たない鎧や刀は、五月の節句の飾り具足や菖蒲刀しょうぶがたなも同様だ。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
生れて以来、竹刀しないを手に持つたことがたつた一度しかないのである。
剣術の極意を語る (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ですから、竜之助さんも、竹刀しないの中で育ったもので、十二三の時に、大抵の武者修行が、竜之助さんにかないませんでした。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「梶派の組太刀は別して烈しゅうござるが、充分にやって置くと竹刀しない稽古の会得が楽に参る、呉々も御勉強なさるよう」
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
やがてガラガラと竹刀しないを引くと、たまりへ行って道具を脱ぎ、左右の破目板を背後うしろに負い、ズラリと二列に居流れた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そんな論理がどこの国にあるものか。俺の汁粉より君は運動と号して、毎晩竹刀しないを持って裏の卵塔婆らんとうばへ出て、石塔をたたいてるところを坊主に見つかって剣突けんつく
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)