ねむり)” の例文
わたしは、しもねむりをさました劍士けんしのやうに、ちついてきすまして、「大丈夫だいぢやうぶだ。ちかければ、あのおときつとみだれる。」
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
す事もあらねば、貫一は臥内ふしどに入りけるが、わづかまどろむと為ればぢきに、めて、そのままにねむりうするとともに、様々の事思ひゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ねむり顏よりげしときわがうちふるひしさまに異ならじ、我はあたかも怖れのため氷に變る人の如くに色あをざめぬ 四〇—四二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
やがて疲労の恢復かいふくした後おのずから来るべき新しい戯れを予想し始めるので、いかなる深刻な事実も、一旦ねむりおちるや否や
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ねむりさめて見れば眼あきらかにして寝覚ねざめの感じなく、眼をふさぎて静かにせばうつらうつらとして妄想はそのままに夢となる。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
私は神に感謝した——言葉にも盡くせない程の苦惱の中にも、溢るゝ感激のよろこびを經驗して——そして私はねむりに落ちた。
どの哥薩克もこんな調子で——快いねむりを覚されたのがかんに障ったとでもいうようにぶっきら棒に云い放す。
死の復讐 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その間ゆめうつつとの境のようなる時に、これもたけの高き男一人近よりて懐中に手を差し入れ、かの綰ねたる黒髪を取り返し立ち去ると見ればたちまちねむりは覚めたり。山男なるべしといえり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さて、この死切しにきったらしいすがたで四十二ときつときは、氣持きもちねむりからむるやうに、自然しねんきさッしゃらう。しかるに、翌朝あくるあさ、あの新郎殿むこどのおことむかひにとてするころは、おことちゃうんでゐる。
坐っているということと起きているということとは一枚になっているので、比丘びくたる者は決して無記むきねむりに落ちるべきではないこと、仏説離睡経ぶっせつりすいきょうに説いてある通りだということも知っていなかった。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
で、布団を胸へかけ、静かにねむりへ入ろうとした。すると襖がひっそりとあいて、雇婆やといばあさんが顔を出した。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼はに夢ならでは有得べからざるあやしき夢にもてあそばれて、みづからも夢と知り、夢と覚さんとしつつ、なほねむりの中にとらはれしを、端無はしなく人の呼ぶにおどろかされて、やうやものうき枕をそばだてつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
果シテソノ言フガ如クンバ、知ラズ余ガ管スル所ノ人民如何いかニシテカ食ヲ得ベキヤ。車ヲ下ルノ日コレヲ救フノ術如何ニシテ宜シキヲ得ベキヤト。㖗唫ぎんきん思量ノ際覚エズねむりニ就ク。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、大方おほかたねむりからめたものが、覺束おぼつかなさに宿しゆくねんれたものとおもつたらう。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
睡くなればいつでも睡られる赤ん坊や閑人ひまじんならば、ねむりは悪でないのみか、また快楽でさえあり得るのだが、以前はそういう人が少なく、また睡るべからざる場合が、今よりも遙かに多かった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
余この頃精神激昂げっこう苦悶やまず。ねむりめたる時ことに甚だし。寐起を恐るるより従つて睡眠を恐れ従つて夜間の長きを恐る。碧梧桐らの帰る事遅きは余のために夜を短くしてくれるなり。(五月十日)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
わかかあさんにさはるまいと、ひよいとこしかしてた、はずみに、婦人ふじんうへにかざした蛇目傘じやのめがさしたはひつて、あたまつかへた。ガサリとおとすと、ひゞきに、一時ひとときの、うつゝのねむりさますであらう。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼はこれのみ開封せずして、やがて他の読壳よみがらと一つに投入れし鞄をはたと閉づるや、枕に引寄せて仰臥あふぎふすと見れば、はや目をふさぎてねむりを促さんと為るなりき。されども、彼はねぶるを得べきか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その余の人々はこの声にねむりさましただ打ち驚くばかりなりしといえり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この声にお千代はねむりから目をさまし、「お帰んなさい。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)