睡気ねむけ)” の例文
旧字:睡氣
夜がふけて睡気ねむけのさすようになると、たれか年上としうえの者がおかしい昔話をしだして、みんなを笑わせようとしたこともふつうであった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
伊太利イタリア、フランスの別なく、油絵芸術は習慣と惰性とによって、ともかくも連続はしていた訳であるが睡気ねむけを催すべき性質のものとなり
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
痴呆ちほうのように何も思うこともなかった。ステッキにすがって静かに目をつぶると、ひとりでにうとうとと睡気ねむけがさして来た。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
と大地に坐って眺め入っている中に睡気ねむけを催して横になった。直ぐ側がどぶだ。片岡君はもう少しのところまで漕ぎつけた。
一年の計 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
わたしは指で自分の眼瞼まぶたをおさえ、壁にまっすぐにりかかって何時間も立ちつづけ、出来る限り睡気ねむけと闘いました。
いや、でも、そういうのは、末弘春吉の漫才を聞いていると、アダリンやカルモチンの効目のように睡気ねむけを催してくるということになっても困るな。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
急に烈しく睡気ねむけして来たので、丑松は半分眠り乍ら寝衣ねまきを着更へて、直に感覚おぼえの無いところへ落ちて行つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
僕は君臣、父母、夫婦と五倫部の話を読んでいるうちにそろそろ睡気ねむけを感じ出した。それから枕もとの電燈を消し、じきに眠りに落ちてしまった。——
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おそくまで仕事をしてから床に這入はいつたので、重々しい睡気ねむけが頭の奥の方へ追ひ込められて、一つのとげ/\した塊的かたまりとなつて彼の気分を不愉快にした。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
例えば第三十九段で法然上人ほうねんしょうにんが人から念仏の時に睡気ねむけが出たときどうすればいいかと聞かれたとき「目のさめたらんほど念仏し給へ」と答えたとある。
徒然草の鑑賞 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
庭では小池助手が、これも煙草を吸いつつ、椅子にかけたり、椅子の前を歩哨ほしょうのように行きつ戻りつしたり、睡気ねむけを追っぱらうのに一生懸命であった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「すなわち水文飲咒の術——恐らくきっとその頃から城中の人々一人残らず睡気ねむけを感ずるでございましょうな?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
九時過ぎたので、床屋の弟子のかすかな疲れと睡気ねむけとがふっと青白く鏡にかゝり、へやは何だかがらんとしてゐる。
床屋 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
来太は眠ろうとして眼を閉じたが、睡気ねむけのくるまえにかずかずの幻像が習慣のように意識の面をかすめ去った。
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
機嫌よく一家で団欒だんらんし、このごろ齢のせいで睡気ねむけづいて困るなどといい、匆々に自分の部屋へひきとるが、それは見せかけで、池泉に向いた寝間に入ると
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かく睡気ねむけます効目ききめのある話——それもなるたけ、あまり誰にも知られていないというやつを、此の場かぎりという条件で、しゃべることにしちゃ、どうだろうかね
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
相模女のおむら、始めのうちは、大きい眼を開いて、看護みとるつもりでしたが、次第に猛烈に睡気ねむけに襲われると、我にもあらず、健康ないびきをかいて寝込んでしまいました。
私達はときどき花莚の上に三人ともごろりと寝そべって、じっとその下に冷たい土のはだざわりを感じ合ったりしていた。それは私達に睡気ねむけを誘うほど気もちがよかった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
弟子たちはひどく睡気ねむけを催したが、フト気がついて見るとイエスの御顔のさまは変わってこの世ならぬ光が内から輝き出で、その衣まで純白に輝いているではありませんか。
「今お起きになったの」と云うと、「今日は土曜だったのか」と云ってから、「明日は朝から出かけるんだろうね」と、まだ睡気ねむけの残っているような薄寝惚け声で云った。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
帯もひもも解かれないのだからね。私の所だけででも几帳面きちょうめんにせずに気楽なふうになって、世間話でもしたらどうですか。何か珍しいことで睡気ねむけのさめるような話はありませんか。
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかし、時間は意外に早くたったと見えて、うつらうつら睡気ねむけがさして来かかったとき
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ついうと/\となりかゝつた時、勝手の方に寝てゐる末の弟が、何やら声高に寝言を言つたので、はツと眼が覚め、嗚呼あの弟は淋しがるだらうなと考へて、睡気ねむけ交りに涙ぐんだが
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
良人おっとたちはみな市の中心へ出勤し、夫人達はそろそろお茶の支度にかかり、胃は昼飯ランチを消化して睡気ねむけをもよおし、交通巡査はしきりに時計を見て交替にあこがれ——これを要するに
あるとき、絵のことに思いをこらして心がつかれ、思わずも睡気ねむけをもよおしたので、うとうととまどろむと、夢の中で、自分が湖水に入って大小さまざまの魚とともにあそぶのを見た。
「それでも今夜のように、ふらふら睡気ねむけのさすったらないのでございますもの。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちにはまた睡気ねむけがさしそうになる、から、ちと談話はなしの仲間入りをしてみようとは思うが、一人が口をつぐめば、一人が舌をふるい、喋々としてふたつの口が結ばるという事が無ければ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
なりに似合はず臆病おくびょうな小娘にぶつかつて、これはいい睡気ねむけざましの相手が見つかつたと内々ほくほくしてゐるらしいことは、つい先刻まであんなに不愛想だつた一重ひとえまぶたの小さな眼が
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
さて、バナナはくなったが、虎は仲々出て来ぬ。期待の外れた失望と、緊張の弛緩しかんとから、私はやや睡気ねむけを催しはじめた。寒い風にふるえながら、それでも私はコクリコクリやりかけた。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
駒井の殿様のお船が着くまでの睡気ねむけざましだ、なにも物が欲しい惜しいというわけのものではない、七兵衛は七兵衛冥利に、誰にも見られねえところの、六十八万石のお城の内部の模様を
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
給仕はその結果睡気ねむけもさめて、口をパックリあけてただ驚くばかりだった。
ふすまを打ちかずきながら書籍、雑誌など読みいたりしに、ようやく睡気ねむけづきて、やや華胥かしょに遊ばんとする折しも、枕辺の方に物音して、人の気配するままに驚きて目を開き見れば、こはいかに
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
濡鼠ぬれねずみになって寒いが、極度に疲れているので、いつか睡気ねむけを催して来た。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
しかし、眼の前のテーブルに、どんよりとした液体を容れた瓶や、注射器などが置かれてあるのに気がつくと、さっきの不気味な言葉と思い合せ、睡気ねむけなど、水を浴びたように抜け落ちて行った。
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
穴は小さいが、大きな罪でも犯したように、董承は、すっかり睡気ねむけもさめて、凝視していたが、——見る見るうちに、彼のひとみはその焦穴こげあなへさらにふたたび火をこぼしそうな耀きを帯びてきた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
活動写真の評判や朋輩ほうばい同士のうわさにも毎日の事でもうきている。睡気ねむけがさしてもさすがここでは居睡いねむりをするわけにも行かないらしく、いずれも所業しょざいなげにただ時間のたつのを待っているという様子。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「さようでございます。こうして居りましても、どうかすると、あまり暖いので、睡気ねむけがさしそうでなりません。」
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何んの甲斐かひもない。子供は半睡の状態からだん/\と覚めて来て、彼を不愉快にしてゐるその同じ睡気ねむけにさいなまれながら、自分を忘れたやうにかんを高めた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
二郎青年もベッドに這入ったが、なかなか睡気ねむけを催さぬ。ほかの人々は安心しても、彼丈けは怪物の神変不思議な手並てなみを、まざまざと見せつけられていたからだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひきこまれるような睡気ねむけがつき、まわりの風景がよろめいてきたところで、そろりと水の中に落ちこむ。たぶん飛沫も立たないだろう。かすかな水音。それで事は終る。
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
少し睡気ねむけがさして来た。横になろうとした。しかしその時近寄って来る、人の気勢けはいが感じられた。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
睡気ねむけたちまち香油のびんを離れて瓦斯ガスの光に溶けてしまへやが変に底無しのふちのやうになった。
床屋 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
しかし一番長そうに思われる細い金針きんばりが腰骨の両側あたりへ深く入って、ズキズキと病める部分に触れて行った時は、睡気ねむけを催すほどの快感がその針のかすかな震動から伝わって来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ことに光代とは好い相棒であるらしく、盛んに辛辣しんらつな舌戦を交えるのが、まるで漫才を聞いているようなので、幸子たちは昼の疲れをも忘れ、すっかり睡気ねむけを覚まされてしまったが、あ、大変だ
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
半ば好奇的こうきてき睡気ねむけざまし的に、机の上に足などをあげていて、この記事を読んできた連中は、その次のぎょうへいって、大概たいがいっ! と大きく叫んで、その躯は椅子ごと床の上に転がったものである。
壮者のさかんな血ほど、気懶けだる睡気ねむけを覚えるような日である。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その内に妙子はいつものやうに、だんだん睡気ねむけがきざして来ました。が、ここで睡つてしまつては、折角の計略にかけることも、出来なくなつてしまふ道理です。
アグニの神 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
葉子はただ一人ひとりいたずらに興奮して狂うような自分を見いだした。不眠で過ごした夜が三日も四日も続いているのにかかわらず、睡気ねむけというものは少しも襲って来なかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
うしろでは、男達は知合いと見えて、まだ坐ったまま、ボソボソと話し合っている、その声が機関の音とごっちゃになって、妙に睡気ねむけを誘う様な、けだるいリズムを作るのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その内に妙子はいつものように、だんだん睡気ねむけがきざして来ました。が、ここで睡ってしまっては、折角の計略にかけることも、出来なくなってしまう道理です。
アグニの神 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)