盆栽ぼんさい)” の例文
梅の盆栽ぼんさいを下さるという事ですが、これは影も形も見えないようですから、頂きません。ただ御礼だけ申し述べておきます。それから
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
釣に行かぬ時は、たいてい腰を曲げて盆栽ぼんさいや草花などを丹念にいじくっている。そうかといってべつにたいしたものがあるのでもない。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
半分開けた障子は、手細工の切張りだらけですが、例の淺黄色の空が覗いて、盆栽ぼんさいの梅のつぼみのふくらみが、八五郎の膝に這つて居るのです。
ねこを可愛がることと、球をくことと、盆栽ぼんさいをいじくることと、安カフェエの女をからかいに行くことぐらいより、何の仕事も思い付かない。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
うめ盆栽ぼんさい縁側えんがわにおいて、ながめていたおじいさんは、小僧こぞうさんたちのうなりごえをきいて、なんだろうとおもいました。
日の当たる門 (新字新仮名) / 小川未明(著)
岬の村から見る一本松は盆栽ぼんさいの木のように小さく見えたが、その一本松のそばにある家ではお母さんがひとり、むすめのつとめぶりを案じてくれている。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「旦那は盆栽ぼんさいがお好きのようだったから、それ、そこの庭にある鉢植にも、大方自身で水をおやりなすったことでしょう——が、それにしちゃ——。」
実際その花はちょうどいかりげたようなおもしろい姿をていしているので、この草を庭にえるか、あるいは盆栽ぼんさいにしておき、花を咲かすと、すこぶるおもむきがある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
私の行った時は、叔父は黒無地の着物に白い巻帯まきおびをしめ、表の縁端えんはししゃがんで盆栽ぼんさいの手入れをしていた。
蝋梅ろうばいうめのようにうつくしくはなをつける樹木じゆもくを『花木かぼく』とよびますが、うめ早春そうしゆん花木中かぼくちゆうでも第一だいいちとして、むかしからあいせられて、庭木にはき盆栽ぼんさいにもたてられるものです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
盆栽ぼんさいはどこが本家でしょうという問いを出し、人間生活には偶然ちがった場所で同じようなことが始められることはよくあって、そういう場合は、文献によるというが
細君が出て行って了うと、彼は所在なさに趣味を持ち出した盆栽ぼんさいいじりを始めるのだった。跣足はだしで庭へ下りて、土にまみれていると、それでもいくらか心持が楽になった。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
盆栽ぼんさいならべた窓のそと往来わうらいには簾越すだれごしに下駄げたの音職人しよくにん鼻唄はなうた人の話声はなしごゑがにぎやかにきこえ出す。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
縁邊えんがはにはまめふるぼけた細籠ざるいれほしてある、其横そのよこあやしげな盆栽ぼんさいが二はちならべてありました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「悪党だって、絵の上手なのも居るし、家で盆栽ぼんさいをいじっている奴もある。現に、木鼠きねずみの三公なんかは、巾着切きんちゃくきりは下手へただが、伝馬牢へ入ると、時々、句を作って出てくるそうだ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、自分の懐かしい家は無くなり、美しい背広せびろも、丹精たんせいした盆栽ぼんさいも、振りなれたラケットもすべて赤い焼灰やけばいに変ってしまったことがハッキリ頭に入ると、かえって不思議にも胆力たんりょくすわってきた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これらは決しておもちゃの盆栽ぼんさいではない、盆栽でないこれらの松は太さはそれほど眼に立たないが、ことごとく普通ふつうの自然に生えた樹木にくらべると、まずすでに初老のよわいをかさねているのだ。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その縁側に是公ぜこうから貰ったかえで盆栽ぼんさいと、時々人の見舞に持って来てくれる草花などを置いて、退屈もしのぎ暑さもまぎらしていた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「むづかしい顏は大笑ひだ、盆栽ぼんさいに毛虫が湧いたんだよ。少し機嫌が惡かつただけのことさ、——あの毛の生えたのを見ると、鳥肌とりはだが立つんでね」
たまくことゝ、盆栽ぼんさいをいぢくることゝ、安カフェエの女をからかひに行くことぐらゐより、何の仕事も思ひ付かない。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
よく、うさぎが、垣根かきねしたほうのすきまから、あかと、とがったくちびるして、こちらのおじいさんが、丹誠たんせいしているくさや、盆栽ぼんさいなどをべたからでした。
うさぎと二人のおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
盆栽ぼんさいを並べた窓の外の往来には簾越すだれごしに下駄げたの音職人しょくにん鼻唄はなうた人の話声がにぎやかに聞え出す。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
錢形の平次は縁側一パイの三文盆栽ぼんさいを片付けて、子分の八五郎の爲に座を作つてやり乍ら、煙草盆を引寄せて、甲斐性のない粉煙草をせゝるのでした。
盆栽ぼんさいなどのえてある中庭を通り抜けてかどの一部屋へ案内されたが、水はなかなか出る様子がない。そのうち、こちらへと云ってまた二階へしょうぜられた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
盆栽ぼんさいをいぢくることゝ、安カフェエの女をからかひに行くことぐらゐより、何の仕事も思ひ付かない。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
平次はケチな盆栽ぼんさいの梅をいつくしみながら、自分の影法師と話すやうに、のんびりと朝の支度を待つて居たのです。
高木たかぎ細君さいくん夜具やぐでもかまはないが、おれはひとあたらしい外套ぐわいたうこしらえたいな。此間このあひだ齒醫者はいしやつたら、植木屋うゑきやこも盆栽ぼんさいまつつゝんでゐたので、つく/″\おもつた
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「高木の細君は夜具でも構わないが、おれは一つ新らしい外套マントこしらえたいな。この間歯医者へ行ったら、植木屋がこも盆栽ぼんさいの松の根を包んでいたので、つくづくそう思った」
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
好きな盆栽ぼんさいをいぢつたり、八五郎とザルたゝかはして居る平次は、その日に限つて熊井熊五郎が出動することを知つたのは、單純な暗合や何んかで無いことは、あまりにもあきらかです。
小さい鉢の中で、窮屈そうに三本の幹が調子をそろえて並んでいる下に、恰好かっこうの好い手頃な石さえあしらったその盆栽ぼんさいとこの上に置かれた後で、夫人は始めて席に着いた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平明な朝の光の中に、平次の顔の穏やかさ、夜店物のケチな盆栽ぼんさいばかり集めて、その規矩準縄きくじゅんじょうにはまらぬ、勝手な発育を楽しむ平次の心境には、岡っ引らしさなどは微塵みじんもありません。
「ここはどうしても盆栽ぼんさいの一つや二つせておかないと納まらない所ですよ」と云った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平次はさう言ひ乍ら、楓林ふうりん仕立ての盆栽ぼんさいの邪魔な枝を一つチヨンとりました。
その時男は顔を上げて、まだ腰もかけずむきも改ためない敬太郎を見た。彼の食卓の上には支那めいたはちに植えた松と梅の盆栽ぼんさいが飾りつけてあった。彼の前にはスープの皿があった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平次は庭へ飛び降りると、いきなり枯れた松の盆栽ぼんさいに手をかけました。
平次は盆栽ぼんさいの世話を焼きながら、気のない顔を挙げます。
お延の眼は床の上に載せてあるかえで盆栽ぼんさいに落ちた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平次は盆栽ぼんさいの世話を燒き乍ら、氣のない顏を擧げます。
「おや、——盆栽ぼんさいがあるね」
「おや、——盆栽ぼんさいがあるね」