うつ)” の例文
そこをさかのぼると、自分のうつっている血をとおして、遠い大祖おおおやたちの神業かみわざと、国体のしんが、いつか明らかに、心に映じてくる。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九人は、完全にうつの庶民の心に、なりかえって居た。山の上は、昔語りするには、あまり寂しいことを忘れて居たのである。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
スパイクをピンゼルとするかのラグビーは瞬間崩れゆくうつつの夢ではあれ、しかも常に永遠を背負わないと誰がいい得よう。
スポーツの美的要素 (新字新仮名) / 中井正一(著)
なよたけ! 僕だってお前を愛するためにこのうつに生れて来たんだ。お前は僕のいのちだ! たったひとつのかけがいのない僕のいのちだ!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
いつわりも似つきてぞするうつしくもまこと吾妹子われに恋ひめや」(巻四・七七一)、「高山と海こそは、山ながらかくもうつしく」(巻十三・三三三二)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「よくは知らねえが四つ半ごろから八つぐれえまで、夢うつつに雨の音を聞いたように記憶おぼえていやす。」
この蕪雑ぶざつうつも、美の訪れの場所である。そうして下根の凡夫も、救いの御手に渡さるる身である。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そしてその中心をなすものは、天をかける幻の馬と、地上を行き戻りするうつつの馬である。そこに降り注ぐ春の光に、ここを拓いた祖先の心の豊かさが匂っている。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
天皇ここに畏みて白したまはく、「恐し、我が大神、うつしおみまさむとは、らざりき」と白して、大御刀また弓矢を始めて、百官の人どものせる衣服きものを脱がしめて、拜み獻りき。
以前もとはきっと軍人で女優にでもうつつをぬかしていたのだろうときめてしまった。
うつせ身の陽炎かげろふの影とも消えやらず、うつゝかと見れば、夢よりも尚ほ淡き此の春秋の經過、例へば永の病に本性を失ひし人の、やうやく我に還りしが如く、瀧口は只〻恍惚として呆るゝばかりなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
まあ要するに夢とうつつの間をさまよつてゐるみたいな目つきなんだわ。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
うつつ世には見も及ばず聴きもなれざる遠い昔の歴史の世界——全く恍惚こうこつの境に引きいれられまして、わたくしどもは、それが夢であるのか、うつつであるのかわかちのつかない場面に魂を彷彿とさせます。
「草紙洗」を描いて (新字新仮名) / 上村松園(著)
今朝も見てここだうつしきかやの実やほらよほらよと子に拾ひつつ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つかのまのやみのうつつもまだしらぬ夢より夢にまよひぬるかな
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
この不覊の魂を宿したる骸は憂きうつし世の鬼の手に落ちた。
霊的本能主義 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
夢かは、うつ狹霧さぎりのこの世去らば
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
日曇ひなぐもり、『うつごゝろ』のかぜあれて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
唯うっとりと、塔のもとから近々と仰ぐ、二上山の山肌に、うつの目からは見えぬ姿をおもようとして居るのであろう。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
けれど余りにも、優しかった兄、弟思いな兄、また力とたのんでいた兄に、突忽とっこつと、うつし世の姿を眼の前から掻消かきけされてしまったので、多感な謙三郎は
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竹取翁 なよたけは信ずるものをうしのうた。なよたけの夢はうつから消えて行くのじゃ。……竹取ノ翁もなよたけのかぐやも無明の中に消えて行くのじゃ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
なお宣長のりながの「あら玉来経きふる」説、即ち年月の経過するうつという意。久老ひさおいの「たま来経きふる」説。雅澄まさずみの「手纏たまく」説等がある。宇智うちうちと同音だからそう用いた。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
この蕪雑ぶざつうつも、美の訪れの場所である。そうして下根げこんの凡夫も救いの御手に渡さるる身である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それがわれわれの「今」であり、「ここ」であり、「自分」のあらわなうつつである、と彼はいう。
絵画の不安 (新字新仮名) / 中井正一(著)
母岩から分解されて、湯に晒らされた白雲母の細片が、このはかないうつし身に、荒唐にして典麗な、原始的の装飾を施してくれたのだった。太古草まいの気息が四辺に充満する。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
ももりたまはく、「いまし、吾を助けしがごと、葦原の中つ國にあらゆるうつしき青人草一九の、き瀬に落ちて、患惚たしなまむ時に助けてよ」とのりたまひて、意富加牟豆美おほかむづみの命といふ名を賜ひき。
うつしくもれたる春のゆふなげきおのれ揺りあぐる声のともしさ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
るだにへせじ、うつしごころ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
うつし世に救ひの船は通ひ來ず
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そう思うた刹那、郎女の身は、大浪にうちたおされる。浪に漂う身……衣もなく、もない。抱き持った等身の白玉と一つに、水の上に照り輝くうつ
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ぐったりとうつを見出したが、夢にしても不思議であった。黄紗こうしゃにくるんだ三巻の天書は膝にのっている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
儂はまことの心で儂の話を聞き入れてくれる人はもうこのうつには一人もおらぬものと諦めてしもうた。……儂がおのが力で己がうつを捨てて行ったのじゃ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
私はこのうつにおいて落ちかかるお前の短い運命を、持ち直させるだけの力を許されてはいない。だけれども霊の世界において私はお前を不滅にさせねばおかない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
夢か、はたうつつか。恐らく、古い物語、能、演劇の連想か、あるいは又もっと深く、血にひそむ、祖先の経験の発露か……いずれ、時世とかけ離れた山住みが生む、浪漫的な幻影でがな。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
薬師くすりしはさはにをれどもあれのはおほかたに似ずうつのためいまのため
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
はるばるとわたる月夜のうろこ雲うつしき母の子をかかへ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
日曇ひなぐもり、「うつし心」の風あれて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
唯うつとりと、塔の下から仰ぎ見る二上山の山肌に、うつの目からは見えぬ姿を見ようとして居るのであらう。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
人の一生も生涯の士道も、その仕上げは、よくも悪くも死によって定まるとか申しますが、今日の御生害ごしょうがいうつの人をも数多あまた生かし、また御自身の一命をも末代に生かすはれ一期いちご
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はるばるとわたる月夜のうろこ雲うつしき母の子をかかへ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
何やら我々には想像も出来ぬ理由があって、日を祀る修道人が、目眩めくるめく光りに馴れて、うつの明を失ったと言う風の考え方があったものではないか知らん。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
日ざかりはだしうつしきもののつやほの肉色の晝貌のはな
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
うつし身は、罪のいれずみ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なごり惜しく過ぎ行くうつし世のさま/″\。郎女は、今目を閉ぢて、心に一つ/\収めこまうとして居る。ほのかに通り行き、はた著しくはためき過ぎたもの——。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
日ざかりはだしうつしきもののつやほの肉色の昼貌のはな
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
唯、他人ひとの手に触れさせたくない。かう思ふ心から解いては縫ひ、縫うてはほどきした。うつの幾人にも当る大きなお身に合ふ、衣を縫ふすべを知らなかつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
石仏は正面まと向きおはし須臾しゆゆに見る空うつしけくはてなかりにし
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
黒きの沈静にしてうつしけき、花をさまりてのちにこそ観め
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うつしくもいたもかなしきこの淺夜月にふたつの星くぐり入る
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
うつしくもいたもかなしきこの浅夜月にふたつの星くぐり入る
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)