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猜疑
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さいぎ
ふりがな文庫
“
猜疑
(
さいぎ
)” の例文
ところが、ある日、べつだん何も理由はなかったのだが、どうかしたはずみに、玄石は細君に対して、
猜疑
(
さいぎ
)
の心を抱くようになった。
二人の盲人
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
十左は性急な気質だし、兵部に対して必要以上に憎悪と
猜疑
(
さいぎ
)
をもっている。一ノ関の名が出るだけで、すぐに不法と陰謀を考える。
樅ノ木は残った:04 第四部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
嫉妬
(
しっと
)
、
猜疑
(
さいぎ
)
、朋党異伐、
金銭
(
かね
)
に対する
狂人
(
きちがい
)
のような執着、そのために起こる殺人兇行——あるものと云えばこんなものばかりです。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「そうかね」と病人は云ったが、何事に
依
(
よ
)
らず
友達
(
ともだち
)
の言う事を
猜疑
(
さいぎ
)
の耳を持って聞く癖が付いているので、
嬉
(
うれ
)
しくも思わなかった。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
無論それは一時的のものに過ぎなかった。けれども当然自分の上に向けられるべき夫の
猜疑
(
さいぎ
)
の
眼
(
め
)
から、彼女は運よく
免
(
まぬ
)
かれたのである。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
▼ もっと見る
彼らは無邪気な心をもってものをそのまま受け容れて味うことができないで、
猜疑
(
さいぎ
)
の眼を見張って一切のものを分析し批評する。
語られざる哲学
(新字新仮名)
/
三木清
(著)
人々は
猜疑
(
さいぎ
)
と
嫌悪
(
けんお
)
の
眉
(
まゆ
)
をひそめる。父の一身に非難が集まる。その時に子はどうしたらよいのであろう。会うのがよいか会わぬがよいか。
出家とその弟子
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
由来、南蛮の将兵は、猛なりといえども、進取の気はうすく、
猜疑
(
さいぎ
)
ふかく、
喧騒
(
けんそう
)
多く、智をもって計るに
陥
(
おちい
)
りやすい弱点をもっています。
三国志:10 出師の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
仲間たちのつまらない
猜疑
(
さいぎ
)
や、彼女に光らせないようにと注意してるゼザベル——(彼女は座頭の女優をきらってゼザベルと
綽名
(
あだな
)
していた)
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
……かくして一般の人心に、日本人に対する不幸なる嫌悪、彼らの動機に対する
猜疑
(
さいぎ
)
、彼らと事を共にするを好まぬ傾向が増え、かつ燃えた。
戦争史大観
(新字新仮名)
/
石原莞爾
(著)
が、相手が少しの
猜疑
(
さいぎ
)
もなく、無邪気に自分を
凝視
(
ぎょうし
)
しているのを見ると、俊寛はそれに答えるように、軽い微笑を見せずにはいられなかった。
俊寛
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
眼鏡を掛けてはいるが、その奥からのぞいている細い眼。お人良しと
猜疑
(
さいぎ
)
とのまざりあった其の眼付。——おお、それが彼以外の誰だろうか。
虎狩
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
人種が違い、風俗が違い、文明の源が違う人であると、ごく友誼的にもって往っても、人類の弱点として
猜疑
(
さいぎ
)
の心が起る。
東亜の平和を論ず
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
果して然らば、地球人類がお互い同士に
猜疑
(
さいぎ
)
し、
堕
(
お
)
とし合い、
殺戮
(
さつりく
)
し合うことは賢明なることであろうか。断じて然らず。
地球発狂事件
(新字新仮名)
/
海野十三
、
丘丘十郎
(著)
絹枝さんは口にこそ出さね、心では、我親ながら、余りの
猜疑
(
さいぎ
)
心を
浅間
(
あさま
)
しい様に思ったが、父の云いつけにはそむかれぬ。
黄金仮面
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
「なんという無類な完全な若者だろう。」私は心の中でこう感嘆した。恋人を紹介する男は、深い
猜疑
(
さいぎ
)
の目で恋人の心を見守らずにはいられまい。
生まれいずる悩み
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
しかし、その片鱗だに記憶に残っていないので、柔和な眼に、しだいに、
猜疑
(
さいぎ
)
のいろを浮かべて来て、怒りはじめた。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
他国人民の繁栄なるをば
猜疑
(
さいぎ
)
の眼をもってこれを観、しかして他の利益をもってただちに我の損害となすがごとし。
将来の日本:04 将来の日本
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
殊に先年月形城の
謀叛
(
むほん
)
以来牡鹿山の老臣共は
猜疑
(
さいぎ
)
の念が深くなって、容易に願いを聴き届けようともしなかった。
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
その不幸をオセロにうちあけないでいるうちに、イヤゴーはオセロの
猜疑
(
さいぎ
)
と
嫉妬
(
しっと
)
をかきたてることに成功した。
女性の歴史:文学にそって
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
暗い
猜疑
(
さいぎ
)
と
狭量
(
きょうりょう
)
とが、こつちのはらはらするほど裸かになつて出た。私はそれを見るのがたまらなく厭だつた。
母たち
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
不断
(
ただ
)
でさえ日の眼に当ることなしに不断にじめじめと陰険な渋面をつくって
猜疑
(
さいぎ
)
の眼ばかりを据えているあの憎たらしい坂道は、どんなにか滑り易い面上に
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
お島はその頃から、鶴さんが外へ出て何をして歩いているか、解らないと云う不安と
猜疑
(
さいぎ
)
に悩されはじめた。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
純粋に二人きりの、のんきな交友など、この世に存在をゆるされないものかも知れない。必ず第三者の
牽制
(
けんせい
)
やら
猜疑
(
さいぎ
)
やら
嘲笑
(
ちょうしょう
)
やらが介入するもののようである。
惜別
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
人と人との間、邦と邦との間に
猜疑
(
さいぎ
)
騙瞞
(
へんまん
)
若し
今日
(
こんにち
)
の如くにして終るとせば、宗教の目的
何所
(
いづく
)
にかあらむ。
「平和」発行之辞
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
自分は
猜疑
(
さいぎ
)
もしなければ、嫉妬もせず、ただ一と筋に
真情
(
まごころ
)
を傾けて女の意のままに尽してやってさえいれば、いつかはこちらの真情が向うに徹しなければならぬ。
霜凍る宵
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
そんな風に
穿鑿
(
せんさく
)
をすると同時に、老伯が
素食
(
そしょく
)
をするのは、土地で好い牛肉が得られないからだと、何十年と継続している伯の原始的生活をも、
猜疑
(
さいぎ
)
の目を以て視る。
沈黙の塔
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
パンをくれた俺に感謝する眼ではなく、なんでパンをよこすのかと
猜疑
(
さいぎ
)
にみちた眼なのである。俺は俺の好意を犬に知らせてやりたいと、ふたたびパンを投げ与えた。
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
露人を初め米国から(後には英仏からも)日本の領土的野心を
猜疑
(
さいぎ
)
され、嫉視され、その上数年にわたって撤兵することが出来ずに、戦費のために再び莫大の外債を負い
何故の出兵か
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
今日、その事を思返すだけでも、明治時代と大正以後の世の中との相違が知られる。その頃の世の中には
猜疑
(
さいぎ
)
と
羨怨
(
せんえん
)
の眼が今日ほど鋭くひかり輝いていなかったのである。
雪の日
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
あらゆる動物のうちに、猫だけがいけない。あいつに表情がない、
愛嬌
(
あいきょう
)
が無い、おだてが
利
(
き
)
かない、感激が無い——芸術がまるっきりわからない。
猜疑
(
さいぎ
)
のくせに
柔媚
(
にゅうび
)
がある。
大菩薩峠:26 めいろの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
太子の
俤
(
おもかげ
)
も今別れた
数奇
(
さっき
)
なキャゼリン嬢の姿もみんな消え失せて、この戦争の陰に着々として来るべき日の備えをしている英国の
猜疑
(
さいぎ
)
と暗躍とがしみじみと考えられてきた。
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
鞘
(
さや
)
をパチンと抜いて渡したのを、あせって震える手に取って、
慳相
(
けんそう
)
な女親が革鞄の口を切裂こうとして、
屹
(
きっ
)
と
猜疑
(
さいぎ
)
の瞳を技師に向くると同時に、大革鞄を、革鞄のまま提げて
唄立山心中一曲
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
私はそこへ
詣
(
おまい
)
りに行きたいのですけれども、そこへ行きますと例の関所がありますので、関所の役人
など
(
たち
)
に逢うたり、あるいは山都の中にはどうせ
猜疑
(
さいぎ
)
心の深い
商人
(
あきんど
)
も居るであろう。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
小山「アハハ君の眼からは天女に見えても
猜疑
(
さいぎ
)
という
色眼鏡
(
いろめがね
)
で視られると天女が悪魔と思われる事もあるからね。しかしマア君の御両親だからそんな事はあるまいが僕のワイフに加勢を ...
食道楽:春の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
老婆はひっきりなしに
咳
(
せき
)
をしたり、
喉
(
のど
)
を鳴らしたりしていた。彼女を見た青年の目に何か特別な表情でもあったのだろう、とつぜん老婆の目にはまた先ほどと同じ
猜疑
(
さいぎ
)
の色がひらめいた。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
広子はちょっと
苛立
(
いらだ
)
たしさを感じた。のみならず取り澄ました妹の態度も芝居ではないかと言う
猜疑
(
さいぎ
)
さえ生じた。すると辰子は
弄
(
もてあそ
)
んでいた羽織の
紐
(
ひも
)
を投げるようにするなり、突然こう言う
問
(
とい
)
を発した。
春
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
菜穂子はその一方、そう云う事まで
猜疑
(
さいぎ
)
せずにはいられなくなっている自分を、今こうしてこんな山の療養所に一人きりでいなければならなくなった自分よりも、一層寂しいような気持で眺めていた。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
己は
癇癪
(
かんしゃく
)
を起したり、
猜疑
(
さいぎ
)
の
目附
(
めつ
)
きで見たり、苦々しい事を
云
(
い
)
ったりした。礼を言わなくてはならないのに、そんな事をしたのだ。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
関羽の帰り方があわただしかったし、二夫人の使いというので、曹操も
猜疑
(
さいぎ
)
をいだいて様子をうかがわせによこしたものである。
三国志:05 臣道の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
田舎
(
いなか
)
の小都市の堪えがたい
猜疑
(
さいぎ
)
心は、その一員となるの名誉を正式に懇願しないと、他人が勝手にはいることを許さなかった。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
叔父はどこまでも私を子供扱いにしようとします。私はまた始めから
猜疑
(
さいぎ
)
の眼で叔父に対しています。穏やかに解決のつくはずはなかったのです。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
要もない
猜疑
(
さいぎ
)
と不満とにさえぎられて、見る見る路傍の人のように遠ざかって行かねばならぬ、——そのおそろしい運命を葉子はことさら痛切に感じた。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
「ははあ、……」ヤスは、怒りと
猜疑
(
さいぎ
)
心とにあふれた眼つきで、「あんたも、財産目あてで来たんじゃな?」
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
それだけに、その方面での失望は彼にとって大きな打撃となった。こうした打撃は、生来
闊達
(
かったつ
)
だった彼の心に、年とともに群臣への暗い
猜疑
(
さいぎ
)
を植えつけていった。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
平和の
下
(
もと
)
に競争をするのは
宜
(
よ
)
いが、それがために、
猜疑
(
さいぎ
)
心、嫉妬心を導いて間違った方面に行くと、次第次第に平和に遠ざかるという、
怖
(
おそ
)
るべき不幸を
醸
(
かも
)
すのである。
平和事業の将来
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
愛する者の言うことは一も二もなく盲従しながら、反対な者の言行は
悉
(
ことごと
)
く
猜疑
(
さいぎ
)
の目を向けます。
婦人改造と高等教育
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
お上さんの頭は霧が掛かったように、ぼうっとしているが、もしや
騙
(
だま
)
されるのではあるまいかと云う
猜疑
(
さいぎ
)
だけは
醒
(
さ
)
めている。それでも熱心に末造の顔を見て謹聴している。
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
性来の悪魔性が——
嗜虐
(
しぎゃく
)
性が、ムクムクと胸へ込み上げて来、この純情の
処女
(
おとめ
)
の心を、嫉妬と
猜疑
(
さいぎ
)
とで、穢してやろうという
祈願
(
ねがい
)
に駆り立てられるのであったが、今は反対で
血曼陀羅紙帳武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
思慮もなく、ただ無分別に、うろうろと、あこがれの瞳をよせる少女達に、
小突
(
こづ
)
きまわされて、かれは当惑した。その上、周囲の教師達の
猜疑
(
さいぎ
)
と嫉妬との狭量な
眼
(
まなこ
)
もいやだった。
貞操問答
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
“猜疑”の意味
《名詞》
猜 疑 (さいぎ)
人の言動に、何か裏があるのではないかと疑うこと。
(出典:Wiktionary)
猜
漢検1級
部首:⽝
11画
疑
常用漢字
小6
部首:⽦
14画
“猜疑”で始まる語句
猜疑心
猜疑深
猜疑嫉妬
猜疑褊狭