牢屋ろうや)” の例文
すぐに馬をひきださせて、牢屋ろうやのほうへかけさせました。それを気づかって、大臣はおおくの兵士をつれて、あとにしたがいました。
銀の笛と金の毛皮 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
夕御飯ゆうごはんがすむと、お気に入りの松さんの車で、ソロソロと、牢屋ろうやの原の弘法大師こうぼうさまへ祖母は参詣にゆく。ある時は毎晩のように出かける。
前に言ったように、石段もなくすぐに会堂の広場に出られる食堂の戸口は、昔の牢屋ろうやの戸口のように錠前とかんぬきとがつけられていた。
縛られた怪物が、鎖をかみ牢屋ろうやの壁にぶっつかってるようである。怪物は今にも壁を破って外に飛び出そうとしてるかと思われる。
彼は牢屋ろうやの後にある、大きな岩の中を、人に分らないように、そっと下から掘りけて、その中へ秘密の部屋をこしらえました。
デイモンとピシアス (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
牢屋ろうや番人ばんにんは、たまげてしまいました。まったくかげのごとくにえてしまったこのおとこを、普通ふつうのものとはおもわれなかったのです。
おけらになった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
肺病になって、牢屋ろうやのなかで死んでしまったんです。それもずっとあとで聞きました。母は家を畳んで村へ引き込みました。……
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先日のように目前の眺めが英文の新な材料として目に映らず、永の年月自分を押籠めた牢屋ろうやの壁か何かのようにわびしく見えた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
前大蔵大臣は一旦呼び出されたが牢屋ろうやには入れられずお下げになった様子である。けれども後にはきっと捕縛ほばくされるに違いないという評判。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「二十七、八くらいでござりました。そのうえ、つい今までご牢屋ろうやにでもつながれていたというような節の見うけられたかたでござりました」
たヽつてる御方おかたがあつてさるのかも知らんけれど、あれでは今に他人様ひとさまの物に手を掛けて牢屋ろうやへ行く様な、よい親の耻晒はぢさらしに成るかも知れん。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
この方はハッキリしていて気に入ったから、勿論もちろんだ、牢屋ろうやへでもなんでも這入はいる、と威勢のいいところを見せて、ソクラテスを気取ったものだ。
余はベンメイす (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
訊問じんもんえてのち、拘留所に留置せられしが、その監倉かんそうこそは、実に演劇にて見たりし牢屋ろうやていにて、しょうの入牢せしはあたかも午前三時頃なりけり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
わたしは牢屋ろうやのうらをぶらぶら歩きながら、がっしりした監獄かんごくくいを一本一本かんじょうしながらながめていました。
第二の通信は、主人公がひところはやりの革命運動をして、牢屋ろうやにいれられたとき、そのとき受けとることにしよう。
猿面冠者 (新字新仮名) / 太宰治(著)
恋人を牢屋ろうやに入れる位なら、その上、あの人と永久に別れてしまう位なら、いっそのこと。そうだ。いっそのこと……
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どうして、こうなると牢屋ろうやもそんなに悪い所ではなかった。ただでごちそうを食べさせて、とめてくれるのだもの。
誰にも黙って眼に見えない牢屋ろうやを出る時が来た。この考えは彼をよろこばせた。彼はあの長い流浪の旅を終って故国に帰り着いた当時のことを思い出した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ラヴォアジエが革命の大騒動で捕われて牢屋ろうやに入れられたときの話ですが、実はこの数年前にフランス議会ではメートル法を設定するという仕事がはじめられて
ラヴォアジエ (新字新仮名) / 石原純(著)
武蔵屋政吉むさしやまさきちという家だ、そこを訪ねて行けばお前さんを立派な堅気にしてくれるだろう、牢屋ろうやで五年お勤めをする気で、みっしり桶屋を稼ぐがいい、——分ったか
暗がりの乙松 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
朝でも夜でも牢屋ろうやはくらい、いつでも鬼メが窓からのぞく。二人は日本橋の上に来ると、子供らしく欄干に手をのせて、飄々ひょうひょうと飛んでいる白いかもめを見降ろしていた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
後にこの三人が敵の牢屋ろうやに入れられてからのクライマックスがちゃんと生きて来るように思われる。
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あのとき僕は、もうすこしで船の中の牢屋ろうやにいれられるところだったんです。そのとき大木老人がきてくれて、僕が無罪だということをさかんにいってくれたんです。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は捕手とりての役人に囲まれて、長崎の牢屋ろうやへ送られた時も、さらに悪びれる気色けしきを示さなかった。
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
牢屋ろうやさかいにして、北は官宅街とし、南に庶民の町屋を営ませた。蝦夷地改め北海道の主都として、面目のために、当地に自費移住するものには家作料を百両貸しあたえた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
実は、桂さんと武市さんが、お牢屋ろうやを破って、勤王方のお武士さむらいを一人、家へ預けに来たんです。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今考えて見ても、私が今こうして牢屋ろうやの中にいるよりも遥かに遥かに辛かったように思う。
リゼットが始めて彼にとらえられてサン・ラザールのシャトウ——すなわ牢屋ろうやへ送り込まれるときには生鳥いけどりうずらのように大事にされた。真にりょうを愛する猟人かりうどものを残酷ざんこくに扱うものではない。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わたしは、自分が彼女かのじょを敵の手中から救い出す有様ありさまや、血まみれになった自分が彼女を牢屋ろうやからうばい出す光景や、そしてとうとう彼女の足もとで死ぬ場面を、次々に心にえがき出した。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「この片腕には入墨がしてありますぞいな。この入墨は甲州入墨といって、甲州者で悪いことをしたのが、甲府の牢屋ろうやへつながれて追い出される時に、この入墨をされるのじゃわいな」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで豊雄の大盗だいとうの疑いは晴れたが、神宝を持っていた罪は免がれることができないので、牢屋ろうやに入れられていたのを、豊雄の父親と兄の太郎が賄賂わいろを用いたので百日ばかりでゆるされた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかし、掘り出して近代的設備の全き宝蔵や博物館に陳列保存されると、たちまちガラス張の牢屋ろうやにとじこめられ、名札を添えられ、写真をとられ、批評され、胴上げされて見世物になり易い。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
機屋はたやの亭主が女工を片端かたはしからかんして牢屋ろうやに入れられた話もあれば、利根川にのぞんだがけから、越後えちごの女と上州じょうしゅうの男とが情死しんじゅうをしたことなどもある。街道に接して、だるま屋も二三軒はあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
糺問所きゅうもんじょと云う牢屋ろうやのようなものがあって、その糺問所の手に掛って古川節蔵せつぞうと、前年、私が米国に同行した小笠原賢蔵おがさわらけんぞうと云う海軍士官と、二人ふたり連れで霞ヶ関の芸州げいしゅうの屋敷に監禁されて居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
……そうでしたよ。いっそ、徹底すりゃ、よかったんです。自分の気もちを、もっと突きつめて——もっとも、そうすりゃ、牢屋ろうやか殺されたか、——そいでも、行くべきだったんだ、そこまで。
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
といいながら、百姓ひゃくしょうをつかまえて、牢屋ろうやれて行こうとしました。
赤い玉 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「それさ、いい着物を着て、ただ者の子供じゃあんめいよ。そんだとも、うっかり手をつけられねいぞ。かかり合いになって牢屋ろうやさでも、ぶっこまれたら大変だ。触らぬ神にたたりなしって言うわで。」
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
おがまぬ牢屋ろうやなかで、 
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
モントルイュ・スュール・メールの市の牢屋ろうやを脱走した時、警察の方では、その脱走囚徒はパリーの方へ走ったに違いないと想像した。
私がこの牢屋ろうやうちじっとしている事がどうしてもできなくなった時、またその牢屋をどうしても突き破る事ができなくなった時
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小伝馬町の牢屋ろうやから、引廻しの出るときの御用を勤めるという、特別の役をもっている荷馬の宿があったから——の小伝馬町側に住んでいた。
牢屋ろうやとびらにかかっているじょうもそのままであれば、なにひとつあたりに、かわったこともなかったのに、おとこばかりは、いなくなったのであります。
おけらになった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それに、お年寄りがこの寒空に火の種一つねえご牢屋ろうや住まいも身にこたえることだろうから、なるべくいたわってやんな
おれは彼女を独占できる。その上、股野の莫大ばくだいな財産があけみのものになる。だが、おれは殺人者だ。このまま手をこまねいていれば、牢屋ろうやにぶちこまれる。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それでもし、ぽくたちが牢屋ろうやへやられればもう、きみのほんとうのうちの人をさがすこともできなくなるだろう。
世の中の人間の「実生活」というものを恐怖しながら、毎夜の不眠の地獄でうめいているよりは、いっそ牢屋ろうやのほうが、楽かも知れないとさえ考えていました。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
たとい空気の通わない牢屋ろうやの中に閉じこめられても、これほど孤独で息苦しくはないだろうと言っています。
『あの牢屋ろうやの中で靴下をつくろったという女王は、この上なくきらびやかな儀式や出御しゅつぎょの時よりも、かえってその瞬間の方が、真の女王らしく見えたに相違ない』
舞台はバテレン信徒を押し込めてある牢屋ろうやの場面で、八重子の華魁おいらんや、牢番や、侍が並んでいる。桜がランマンと舞台に咲いている。そして舞台には小鳥が鳴いていた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
明かるく照明された、せまい一室だったが、入口はのかわりに、鉄の格子こうしがはまっていた。牢屋ろうやだった。ベッドは部屋の隅にとりつけてあって、腰かけの用もしていた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)