もえ)” の例文
と、遙か向う岸に連る二階家のある欄干に、一面の日光を受けて、もえるやうな赤いものが干してある。女の襦袢か。夜具の裏地か。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
木のえだをあつめ火をたきてあたりをりしに、其所よりすこしはなれてべつに火燄々えん/\もえあがりければ、児曹こどもら大におそれ皆々四方に逃散にげちりけり。
八十を越しても硫黄の熱はもえていた。小さい机にしがみついたまま、贅沢ぜいたくは身の毒になると、蛍火ほたるびの火鉢に手をかざし、毛布ケットを着て座っていた。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かつて西鶴輪講の時、『一代男』の「衛士えじ焼火たくひは薄鍋にもえて、ざつと水雑水みずぞうすいをとこのみしは、下戸げこのしらぬ事成べし」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
面疱にきびだらけの女中ねえさんが燐寸マツチつてけて、さしぼやをさすと、フツとしたばかり、まだのついたまゝのもえさしを、ポンとはすつかひにげた——
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ついでに落葉を一ともえさせて行頃ゆくころ何か徳蔵おじが仔細しさいありげに申上るのをお聞なさって、チョット俯向うつむきにおなりなさるはずみに、はらはらとおつる涙が
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
否、其前逢つた時既に、と思ひした。代助は二人ふたりの過去を順次にさかのぼつて見て、いづれの断面だんめんにも、二人ふたりの間にもえる愛のほのほを見出さない事はなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
本当に三人がそこで何時間かを過したかどうかを調べたり(事実、そこにはおびただしい煙草たばこ吸殻すいがら燐寸マッチもえさしが落ちていた)しているうちに、すっかり夜が明けはなれてしまった。
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
アヽやつ屹度きつとものはうとするとボーと火かなに燃上もえあがるにちげえねえ、一ばん見たいもんだな、食物くひものからもえところを、ウム、さいはかべが少し破れてる、うやつて火箸ひばしツついて、ブツ
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
清十郎の胸のうちには恋の因果といふ猛火もえしきりて、主従の縁きるゝ神のとがめを浩歎かうたんして、七苦八苦の地獄に顛堕てんだしたるを、お夏のかたにては唯だ熾熱しねつせる愛情とゆべからざる同情あるのみ。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
此地火一に陰火いんくわといふ。かの如法寺村によほふじむらの陰火も微風すこしのかぜいづるに発燭つけぎの火をかざせば風気ふうきおうじてもゆる、陽火やうくわざればもえず。
わたくしはあなたのお顔を、天平てんぴょう時代の豊頬ほうきょうな、輪廓のただしい美に、近代的知識と、情熱に輝きもえひとみを入れたようだとつねにもうしておりました。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
苧殻おがらもえさし、藁の人形を揃えて、くべて、逆縁ながらと、土瓶をしたんで、ざあ、ちゅうと皆消えると、夜あらしが、さっと吹いて、月が真暗まっくらになって、しんとする。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
番する人もなく、もえるがままにもやされている。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
此地火一に陰火いんくわといふ。かの如法寺村によほふじむらの陰火も微風すこしのかぜいづるに発燭つけぎの火をかざせば風気ふうきおうじてもゆる、陽火やうくわざればもえず。
欠茶碗にもりつけた麦こがしを、しきりに前刻さっきから、たばせた。が、さじ附木つけぎもえさしである。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出家のことばは、いささか寄附金の勧化かんげのように聞えたので、少し気になったが、煙草たばこの灰を落そうとして目にまった火入ひいれの、いぶりくすぶった色あい、マッチのもえさしの突込つッこ加減かげん
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寛文くわんぶんのむかしさう右エ門が(如法寺村)にはにてふいごをつかひたる時よりもえはじめしとぞ。前にいふ井中の火も医者いしや挑灯てうちんを井の中へさげしゆゑその陽火にてもえいだしたるなるべし。
その列の最も端の方に据えたのが、蝦茶えびちゃのリボンかざり、かつて勇美子がかしらに頂いたのが、色もあせないでの影に黒ずんで見えた。かたわらには早附木マッチもえさしがちらばっていたのである。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寛文くわんぶんのむかしさう右エ門が(如法寺村)にはにてふいごをつかひたる時よりもえはじめしとぞ。前にいふ井中の火も医者いしや挑灯てうちんを井の中へさげしゆゑその陽火にてもえいだしたるなるべし。
井中よりにはかに火をいだし火勢くわせいさかんにもえあがりければ近隣きんりんのものども火事くわじなりとしてはせつけ、井中より火のもゆるを見て此井を掘しゆゑ此火ありとて村のものども口々に主人をのゝしうらみければ