その日も無聊に苦しんでおりましたから、例のごとく同心控え室へ陣取り、そこの往来に面したひじ掛け窓の上にあごをのっけて
右門捕物帖:04 青眉の女 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
満足はしていないながらも、無聊に堪えられないということはなく、どうかすると斯様な生活ぶりに、自然の興味をさえ見出すこともあるのです。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何事も制度と型にはまった徳川時代は、生命の躍動を感ずる人々に取っては、実に無聊に苦しめられた。無聊に苦しむ人は何をしなければならぬという一定の目的はない。
ことには白い空の雲に、または海の緑に映じて高く抽け出でて立つのを見ると、立ち止まってはこれら労働に終始した人々の、生涯の無聊さを考えずにはおられなかった。
航海も日数経て、女がいるだけ、無聊に苦しむと始末にこまる。大和が誘いの水をむけて
明治開化 安吾捕物:07 その六 血を見る真珠 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
勿論、印度洋あたりの無聊なときに、チップの金額を一定にしょうと云い出すものがあって、すでに金額は定まっていたのだが、さて支払日となると規定のことも破れてしまう。
幕末維新懐古談:28 東雲師逝去のこと (新字新仮名) / 高村光雲(著)
無聊に苦しむようになったので、毎日のように蓄音器を鳴らしたが、旧シュトルツ邸へ越して来た瑞西人の所から、少し遠慮して貰えないであろうかと、或る日故障を云って来た。
……それにしても、ただぼんやり見ているのも無聊。……さいわい手前もからす凧を持って来ましたから、この塀そとで凧あげをしましょう。……どうです、藤波さん、あなたもひとつ。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
出すがよい。求婚者風にこちらでは扱わないでおこう。交友として無聊を慰める相手にはなるだろう。風流男でいられる方が若い女王のいることをお聞きになっての軽い遊びの心持ちだろうから
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
富士男もゴルドンも一同が無聊に苦しむのを見て、いろいろきもをくだいた、だがうっかりしたことをして、悪漢どもが知ったら、たいへんな目にあわねばならない、こう考えると手がでない。
瘠我慢の説:04 瘠我慢の説に対する評論について (新字新仮名) / 石河幹明(著)
わたしはかの女がいのち賭けで起して呉れるそれのお相伴に与って、僅に人生の無聊を消し得たのではあるまいか。それならわたしは相当狡い人間である。やっぱり自分自身に就て愛想が尽きる。
無聊とを凌いでいった。
山谿に生くる人々:――生きる為に―― (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「見らるる如く、至って無聊ですが……実は、今日にも一度出向いて、親しく周都督へ賀をのべたいと思っていたところです」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)