流布るふ)” の例文
「けしからん記事だ。あの社説内容のでどころは、わしにはちゃんと分っている。誰があんな社説を流布るふしたか、わしは知っている」
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
食糧問題をこれに関聯せしめ、闇取引の助長をはかり、悪徳を流布るふして、工員の愛国心、正義心を破壊するために全力を尽しております
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
みだりに奇怪の風説を流布るふしたということになると、どんな御咎めを受けるか判らないので、勘次も女房も真っ蒼になった。
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
近藤巡査が行方不明になったという奇怪なうわさが町に流布るふされた時、ある者は彼がどこかへ失踪しっそうしたのではないか、と疑った。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
同時に彼女はその奇蹟を部落中に流布るふした。彼女は人間の願いを竹駒稲荷大明神に伝え、大明神の言葉を人間に受け次いでやると言うのだった。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ぼくは下劣げれつ流布るふされているぼく達の交友が、ここでもストイックの彼に、誤解ごかいされてはと「実は変にとられたら困るけれど」と前置きすれば
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
亜細亜東部の米作地帯に、小豆を栽培する種族が数多く列挙せられるのは、単なる偶然の流布るふ状態ではないのではないか。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「第二には——その密偵、実性じっしょうなる下司げす、山門の僉議せんぎを盗み聞き、世上へしからぬ風説を流布るふいたしたる罪状はいかん」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たい茶漬けは世間に流布るふされ、その看板をかけている料理屋さえ出来てきた。関西ではもちろんのこと、東京でも近来よく見かけるようになった。
鮪の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
『福富草子』は足利氏の世に成ったもので、『新編御伽草子おとぎぞうし』の発端に出おり今は珍しからぬ物だが、京伝、馬琴の時には流布るふ少なかったと見える。
陶土の質がとても硬く、ほとんど磁器に近い強さがあります。そこの染分そめわけの皿や鉢などはさいわいにも広く流布るふされました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
巷間こうかん流布るふされている俗謡は吉良郷民の心理をふうしたものであろう。まったく仕様がない。メイファーズである。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
が、源氏にこんな冗談を云わせているのを見ると、此の平中の墨塗りの話は好色漢の失敗談として、既に紫式部の時代に一般に流布るふしていたのであろう。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
清国皇帝は英国の貴婦人を皇妃こうひに貰うて以来このかた、英国と非常に親密になって居るために清国がみだれるのであるという風説がチベットに流布るふして居るのみならず
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「勇士イワノウィッチの五つの英雄的行動」といったような話は、戦場美談として、広く流布るふされていた。
勲章を貰う話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
著者は昔から蕪村を好み、蕪村の句を愛誦あいしょうしていた。しかるに従来流布るふしている蕪村論は、全く著者と見る所を異にして、一も自分を首肯しゅこうさせるに足るものがない。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
そをいかにというに、およそ民間学の流布るふしたることは、欧州諸国の間にて独逸ドイツくはなからん。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これらの事どもをも 菅神の祟なりと世に流布るふせしは 菅公の冤謫ゑんてきを世の人あはれみなげきたるゆゑとかや。
日本国中に慶應義塾に用いた原書が流布るふして広く行われたと云うのも、事の順序はよくわかって居ます。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
後に彼を律師りっしとした。以来、清盛のことを慈慧僧正の生れ変りだという説が流布るふされたのである。
藤原広嗣ふじわらのひろつぐの反乱さえ起るに及んで遂に意を決し、東大寺はじめ諸国分寺造営の大悲願を起されたのであった。大仏鋳造は仏法流布るふという外的事情のみに基くのではない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
歌では「ペール・ギュント」の中の「ソルベーグの歌」がおそろしく流布るふしている。ガリ=クルチが有名だ(ビクター六九二四)。エリザベト・シューマンも特色がある。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
巣林子戯曲ありてより、浮世を難波なにはの潟に、心中するものゝ数多くなり、西鶴一流の浮世好色小説の流布るふしてより、社界の風儀はおほい紊乱びんらんせる事、識者の共に認むる所なり。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
就中なかんづく、夫婦共に法華ほつけ持者ぢしやなり。法華經流布るふあるべきたねをつぐ所の、玉の子出生、目出度覺候ぞ。色心二法しきしんにほふをつぐひとなりいかでかをそなはりさふらふべき。とくとくこそうまさふらはむずれ。
この混雑も静まって行くと、水戸浪士事件の顛末てんまつがいろいろな形で世上に流布るふするようになった。これほど各地の沿道を騒がした出来事の真相がそう秘密に葬られるはずもない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とうとう二十四孝なんて、ばからしい伝説さえ民間に流布るふされるようになったのです。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しこうして英船モリソン号江戸に入らんとする警報は、和蘭オランダの風説書によりて、ようや烱眼けいがん卓識なる士人の間に流布るふし、これがために渡辺登の『慎機論』、高野長英の『夢物語』出で来り。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
まだ世間に流布るふされていない秘本をずいぶん持っていましたからね……『日蓮ハ日本国東夷東条安房ノ国海辺ノ旃陀羅せんだらガ子ナリ!』これは佐渡御勘気鈔さどごかんきしょうという本のうちにあるのです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これかりそめにも天下御直参ごじきさんの娘が、男を引入れるという事がパッと世間に流布るふ致せば、飯島は家事不取締かじふとりしまりだと云われ家名かめいけがし、第一御先祖へ対して相済まん、不孝不義の不届ふとゞきものめが
十年間語学の教師をして、世間にはようとして聞こえない凡材のくせに、大学で本邦人の外国文学講師を入れると聞くやいなや、急にこそこそ運動を始めて、自分の評判記を学生間に流布るふした。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「きりしとほろ上人伝しやうにんでん」は古来あまねく欧洲天主教国に流布るふした聖人行状記の一種であるから、予の「れげんだ・おうれあ」の紹介も、彼是ひし相俟あひまつて始めて全豹ぜんぺう彷彿はうふつする事が出来るかも知れない。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
当時すでにユダヤ人の間に流布るふされた風説であったが(マタイ二八の一一—一五)、総督や祭司長の権力をもってすれば、風説だけですまさず、何か屍体の行方をつきとめることができたであろう。
諸新聞は上演計画についてある風説を流布るふしていたし、作曲家と実演者との葛藤かっとうの話はうわさの種とならざるを得なかった。ある音楽会の司会者は好奇心を起こして、日曜日の昼興行マチネーにその作を採用した。
そして晩年に至ってようやく懐疑を脱し他界存在の確信をえ、ひとたび確信するや、彼は非常な熱情をもってこの新思想の流布るふに努力したのである。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
熱心に南蛮船から流布るふされたことが、抜け買いの者からだんだん波及してきて、その捜索が江戸へ移るにつれ、当然
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かような怪しい風説を流布るふして世間を騒がす者は、それぞれ処罰されるのが此の時代のおきてであったが、それが跡方もない風説とのみ認められないので
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もうその頃は若君さま御誕生のうわさにつれまして、関白殿のお行末はどうであろうか、よも御無事では済むまいなどゝ申す取り沙汰がぽつ/\世上に流布るふいたしまして
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これらの事どもをも 菅神の祟なりと世に流布るふせしは 菅公の冤謫ゑんてきを世の人あはれみなげきたるゆゑとかや。
そをいかにといふに、およそ民間学の流布るふしたることは、欧洲諸国の間にて独逸にくはなからん。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
何してもこんな気品のある紫色は少いのでありますから、もっと世に流布るふしたいものであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
単に愛発あらちの関が上古以来、北国往還のしょうにあったために、他の辺土に比べてはこの口碑が一層弘く、かつ一層不精確に流布るふしたことを、推定せしめるに過ぎぬのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
神社仏閣のみならず、文献もまたそうだ。現在あまねく流布るふしている万葉集も、今日のごとく整備されるまでにはどれほど先人の孤独な労苦を経たか云うまでもなかろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
などと、さまざまな、不穏指令ふおんしれいが、街頭に流布るふされた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
レエンの訳本——日本へは最も広く流布るふしてゐる。
蜀の実情は、魏軍の目ざましい進出に対して、たしかに深刻な脅威をうけ、流言蜚語ひごさかんに、今にも曹操が、蜀境を突破してくるようなことを流布るふしていた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大江春泥の人相については、世に流布るふしている写真は余り似ていないという私の注意から、博文館の本田を呼んで、詳しく彼の知っている容貌を聞取ったのであった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
是こそ白山はくさんの山奥に産する、ヤシホという樹の実であった云々という話が、『三州奇談』と題したあの地方の記録に載せられ、それもこの頃は活版になって流布るふしている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
世間に流布るふしてゐる定家假名遣と云ふものは親行の孫の行阿の「假名文字遣」に據るので、是れには種々な版があります。假名遣と云ふ語は一體其の邊から起つたのでありませう。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
小夜の中山に久圓寺といふ寺がてられて、そこに観世音かんぜおんまつつたのは夜啼石よなきいし以前のことで、夜啼石の伝説から子育観音こそだてかんのんの名が流布るふするやうになつたのではあるまいかと思はれる。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
異国との交通が頻繁ひんぱんになるにつれて、様々の教義が流入し、国内に様々の説を流布るふするものが続出するのはいつの世も同じである。国運隆盛は半面に必ずこうした危険を伴わねばならない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)