毛布けっと)” の例文
行く手は二丁ほどで切れているが、高い所から赤い毛布けっとが動いて来るのを見ると、登ればあすこへ出るのだろう。路はすこぶる難義なんぎだ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
重二郎もおそる/\入りますと、春見は刀箪笥かたなだんすから刀を出し、此方こちらの箪笥から紋付の着物を出して、着物を着替え、毛布けっと其処そこへ敷き延べて
毛布けっとをスッポリ頭から被り、そのまま人影杜絶えた夜の道をヒタ走りに走らせ、ニコーリー町の秘密倉庫で自動車を降りた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
これはあったかくして蒸らせるのですから布巾の代りにフランネルか毛布けっとならなお結構です。その木鉢をく温い処へ八時間ほどそうっと置きます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
水底みなそこへ深く入った鯉とともにその毛布けっとむしろを去って、あいに土間一ツ隔てたそれなる母屋の中二階に引越したのであった。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こどもは力もつきて、もう起きあがろうとしませんでした。雪童子は笑いながら、手をのばして、その赤い毛布けっとを上からすっかりかけてやりました。
水仙月の四日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
向こうには縁台に赤い毛布けっとを敷いたのがいくつとなく並んで、赤いたすきであやどった若い女のメリンスの帯が見える。中年増ちゅうどしまの姿もくっきりと見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
イヤ寝るにも毛布けっとも蒲団も無いので、一同は焚火を取囲み、付元気つけげんきに詩吟するもあり、ズボンボうたうたうもあり。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
巻きたたんだあら毛布けっとを肩に掛け、風呂敷包ふろしきづつみまで腰に結び着けて、朝じめりのした坂道を荒町から登って来た。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「すみませんでした。でもネ、雀はあんな毛布けっとを着ているが、僕はこの通り半裸体なもんですから……」
入り口の三方にかけつらねたる家の玄関先より往来にかけて粗製毛布けっと防寒服ようのもの山と積みつつ、番頭らしきが若者五六人をさしずして荷造りにせわしき所に
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
会堂に着くと、入口の所へ毛布けっとを丸めて投げ出して、木村の後ろについて内にはいると、まず花やかな煌々こうこうとしたランプの光が堂にみなぎっているのに気を取られました。
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それなのに、この御殿はどうです、まあ、この空俵の上へ毛布けっと一枚——ずいぶん結構なベットね。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
消そう。さあお前たち、眠るんだぞ。眠らないのはごく悪いや。眠らないと門がねばるぜ、上等の言葉で言やあ、口が臭くなる。よく毛布けっとにくるまれよ。消すぞ。いいか。
茲も一方ならず荒れて居て古い寝台二脚の外に蒲団毛布けっと寝巻などの類が五六点、散らばって居る、其のうちの好さ相な毛布けっとを二枚選び寝台に載せて持ち上げたが、余の大力にも仲々重いけど
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そうして、赤い毛布けっとが妙に臭い。それにもかかわらず自分はこの山里で、銅山行きの味方を得たような心持ちがしてうれしかった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから厚い毛布けっとかフランネルを二枚にたたんでも三枚に畳んでもようございますから今の桶の上へ悉皆すっかりかぶせて氷の速くけないようにします。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と露店でも開くがごとく、与五郎一廻りして毛布けっとを拡げて、石段の前の敷石に、しゃんと坐る、と居直った声が曇った。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
官軍のしるしとしてそでに着けた錦の小帛こぎれ。肩から横に掛けた青や赤のあら毛布けっと。それに筒袖つつそで。だんぶくろ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ひとりの子供が、赤い毛布けっとにくるまって、しきりにカリメラのことを考えながら、大きな象の頭のかたちをした、雪丘ゆきおかすそを、せかせかうちの方へ急いで居りました。
水仙月の四日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
下は毛布けっと一枚敷かぬ堅い床板なので、腰骨や肩先が痛くなる。深夜の寒気さむけにブルブル震えて来る。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
フラン毛布けっとを前に押附けて、これから福寿庵の前に車をおろします。車から出て板橋を渡って這入りますと、奥に庭が有りまして、あの庭は余程手広てびろで有りまして、泉水せんすいがございます。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おりおり立ち止まっては毛布けっとから雪を払いながら歩みます、私はその以前にもキリスト教の会堂に入ったことがあるかも知れませんが、この夜の事ほどよく心に残っていることはなく
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
女中に持たせし毛布けっとを草のやわらかなるところに敷かせて、武男はくつばきのままごろりと横になり、浪子なみこ麻裏草履あさうらを脱ぎ桃紅色ときいろのハンケチにて二つ三つひざのあたりをはらいながらふわりとすわりて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
寒ければやむを得ない、夜具を着るとか、毛布けっとかぶるとかして、当分我慢しろと云った話を、宗助はおかしく繰り返して御米を笑わした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と言うとひとしく、仰向けに寝て、毛布けっとを胸へ。——とりの声を聞きながら、大胆不敵ないびきで、すやすやと寝たのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中には野蛮的の人物が他人の席まで横領して毛布けっとを長く拡げて空気枕をして腰掛の上へ横臥おうがするものもありますがあれは自ら好んで塵や細菌を吸い込むのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「もういいよ。」雪童子は子供の赤い毛布けっとのはじが、ちらっと雪から出たのをみて叫びました。
水仙月の四日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
娘二人を島に揚げし後は若者ら寒しとて毛布けっとかぶり足を縮めてしぬ。としより夫婦は孫に菓子与えなどし、家の事どもひそひそと語りあえり。浦に着きしころは日落ちて夕煙村をめ浦を包みつ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
九分に一枚、八分に一枚、ついには三分間に一枚ずつ重ね、数十枚の毛布けっとを着尽したり、今は着るべきものもあらず、身はさながら毛布の山に包まれしがごとく、身動きも出来ずなったれど
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
右へ右へと爪先上つまさきあがりに庚申山こうしんやまへ差しかかってくると、東嶺寺とうれいじの鐘がボーンと毛布けっとを通して、耳を通して、頭の中へ響き渡った。何時なんじだと思う、君
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世に不思議な、この二人の、毛布けっとにひしと寄添よりそったを、あの青い石の狐が、顔をぐるりと向けて、鼻でのぞいた……
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よく煉れた時分にメリケン粉を一握りつかんでバラバラとその上へ振かけて木鉢の上へ大きな布巾ふきんおおうようにかけておきます。フランネルか毛布けっとならなお結構です。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
にはかに戸があいて、赤い毛布けっとでこさへたシャツを着た若い血色のいゝ男がはひって来ました。
耕耘部の時計 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
帰りは風雪ふぶきになっていました。二人は毛布けっとの中で抱き合わんばかりにして、サクサクと積もる雪を踏みながら、私はほとんど夢ごこちになって寒さも忘れ、木村とはろくろく口もきかずに帰りました。
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ひまがあるととかく余計な事がしたくなって困る。その時はただ寒いばかりであった。そばにいる茨城県の毛布けっとうらやましくなって来たくらいであった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やっ茶店ちゃや辿着たどりつくと、其の駕籠は軒下のきしたに建つて居たが、沢の腰を掛けた時、白い毛布けっとに包まつた病人らしいおとこを乗せたが、ゆらりとあがつて、すた/\行く……
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今や上野に着せんとする汽車の二等室内には大原家の一行五人が毛布けっとたたかばんを締め、網棚の物をおろし、帽子のちりを払いて下車の支度をなす中に心の急かるる大原の母はめいのお代に向い
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
細君は喧嘩を後日に譲って、倉皇そうこう針箱と袖なしをかかえて茶の間へ逃げ込む。主人は鼠色の毛布けっとを丸めて書斎へ投げ込む。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と云う呼吸いきづかいが荒くなって、毛布けっとを乗出した、薄い胸の、あらわな骨が動いた時、道子の肩もわなわなして、真白な手のおののくのが、雪の乱るるようであった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを大きくでも小さくでも好き自由に切ってパンの型へ入れて上へ布巾かあるいは毛布けっとをかけて今の通りの温い処へ一時間ほど置きますと今度はズンズン膨れ上って大きくなっています。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
底は一枚板の平らかに、こべりは尺と水を離れぬ。赤い毛布けっとに煙草盆を転がして、二人はよきほどの間隔に座を占める。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
双方黒い外套が、こんがらかって引返すと、停車場ステエションには早や駅員の影も見えぬ。毛布けっとかぶりのせた達磨だるまの目ばかりが晃々きらきらと光って、今度はどうやら羅漢に見える。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああ愉快だと足をうんと延ばすと、何だか両足へ飛び付いた。ざらざらしてのみのようでもないからこいつあとおどろいて、足を二三度毛布けっとの中でってみた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夫人がたたずんでいて掛けないのを見て、早瀬は懐中ふところから切立の手拭てぬぐいを出して、はたはたと毛布けっとを払って
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しまりをしたかどを揺り動かして、使いのものが、余を驚かすべく池辺君のをもたらしたのは十一時過であった。余はすぐに白い毛布けっとの中から出て服を改めた。
三山居士 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ葦簀よしずの屋根と柱のみ、やぶれの見える床の上へ、二ひら三ひら、申訳だけの毛布けっとを敷いてある。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ゆすり始めたんで、やむを得ず、毛布けっとの方でも「おい」と同じような返事をして、中途半端はんぱに立ち上った。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
老人は、石の壇に、用意の毛布けっと引束ひったばねて敷いて、寂寞ひっそりとして腰を据えつつ、両手を膝に端坐した。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
申し合せたように毛布けっとくるまって砂浜の上に寝た。夜中に眼がめると、ぽつりぽつりと雨が顔へあたっていた。その上犬が来て真水英夫まみずひでお脚絆きゃはんくわえて行った。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)