棍棒こんぼう)” の例文
赤黒い棍棒こんぼうの様なものであった。その棍棒の尖端せんたんがパックリ二つに割れて、内側にギザギザしたのこぎりの歯みたいなものがついていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
剣を手にした巡査と棍棒こんぼうの類を持った刑事との一隊が、ジャヴェルの声に応じておどり込んできた。そして悪漢どもを縛り上げた。
三人、同時に眼をさまして、ひょいと仰ぐと、例の宿の若者で、手に棍棒こんぼうをひッさげ「——大事な鶏を食っちまったのは、てめえらだろう」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人びとは手に手に棍棒こんぼうや箒などを持って彼のかわやへ駈けつけたが、べつに変ったことはなくまげが入口に無気味な恰好で落ちていただけであった。
簪につけた短冊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一昨日おととい、社長が瀬川さんに暴行を加えようとしたとき、傍にあった棍棒こんぼうで社長の後頭部に一撃を与え、社長を人事不省に陥れたのはわたしです。
でっぷりふとった、たくましい老人を選び、それに三角帽をかぶせ、赤いチョッキを着せ、なめし革のズボンをはかせ、頑丈なかし棍棒こんぼうをもたせたのである。
「署長ご健勝で。」署員たちが向ふ鉢巻はちまきをしたり棍棒こんぼうをもったりしてかけ寄った。署長は痛いからだを室から出た。
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
先が丸くふくらんだ棍棒こんぼうみたいなものである。そればかりではない。彼らは高いやぐらのようなものを後に引張っていた。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お高は、夏の宵の蚊柱がくずれるように、ぶうんと音を発して飛びかわすこぶし下駄げたや、棍棒こんぼうの下をくぐって、しなやかな手をふって逃げまわっていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だッと音たて棍棒こんぼうが自分の足をさらうのをはっきり見たように思った。いやそれはうなる空気でそう感じたのだ。目は燃える火をはっきり見てとった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
しかし、それでは物足りない連中は、母親をせびった小銭で近所の大工に頼んでいいかげんの棍棒こんぼうを手にいれた。
野球時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私は追いすがると同時に、鞭を棄てて来たのを後悔しながら、右腕を棍棒こんぼうに擬して力一杯のスウィングを浴せた。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
このぼうおほきくないものは、つた棍棒こんぼうかとおもはれますが、ふとくておほきなものには、とうていつてりまはすことの出來できないものがありますから
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
山賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒こんぼうを振り挙げた。メロスはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、その棍棒を奪い取って
走れメロス (新字新仮名) / 太宰治(著)
藪原長者は棍棒こんぼうひっさげ、若党下僕こものを無数に連れて、荒れた虎のようにわめきながら、館の内外を探し廻わった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
赤茶けた髪を蓬々とふりみだして、銅色をした太いバナナのやうな乳房をぶらんぶらんさせながら、婆さんは棍棒こんぼうをはすに構へて、甲高い声で何やらわめいた。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
あまり不思議なので、何か悪者が村のなかをうろついてるのではないか、といふことになつて、三日目の夜には、村の若者たちが、棍棒こんぼうを持つて夜警をしました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
やり刀剣かたなや、投げ縄、弓矢。棍棒こんぼうかついだ役人共が。かたぱしから頭を砕いて。手足胴体チリチリバラバラ。焼いて棄てたり樹の根に埋めたり。ちょうどこの節おかみでなさる。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
木製の重い棍棒こんぼう、あるいは鉄製の広い棒——椅子——なにか大きな、重い、鈍い形の凶器を、もし非常な大力の男の手で使ったなら、このような結果が起きたかもしれない。
皆はデッキからデッキへロープを張り、それに各自がおしめのようにブラ下り、作業をしなければならなかった。——監督は鮭殺しの棍棒こんぼうをもって、大声で怒鳴り散らした。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
棍棒こんぼうは岩角に二三度にぶい音を立てて、熊笹の谷間に落ちて行った。彼は立ち止り、一寸ちょっと何か言いたそうにしたが、何も言わず、私に背を向け、大股に居住区に入って行った。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
しかも、金属ではなくて棍棒こんぼうか、野球のバットみたいなもの、あるいはもう少し大きいものに相違ない。してみると、そんなものを加害者が遠くまで持っていくとは考えられん。
五階の窓:02 合作の二 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
なかには短刀や棍棒こんぼうひっさげて、夜中ひそかにその室外をうかがう者さえあるに至りたれば、下宿屋にても、もしや書生に怪我けがでもありてはと、戸籍調べの巡査にこのことを話すと
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「これはしたり、九十の坂を越してはおるが、まだまだ両眼共に確かな正守じゃ。鍬をもち、鎌をも構え、中には竹槍棍棒こんぼうを手にしておる者もおじゃるが、それが何と召されたな」
騎士のやりに似ているのは基督教キリストきょうの教える正義であろう。此処に太い棍棒こんぼうがある。これは社会主義者の正義であろう。彼処に房のついた長剣がある。あれは国家主義者の正義であろう。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
最初さいしよ、十にん兵士へいし棍棒こんぼうたづさへてました、此等これらみんな三にん園丁えんていのやうな恰好かつかうをしてて、長楕圓形ちやうだゑんけいひらたくて、隅々すみ/″\からは手足てあしました、つぎたのは十にん朝臣てうしん
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
朝野の言葉をもってすれば、「鯛に食いあきて鰯を食おうとしている」というようなハッキリした何かえげつない棍棒こんぼうみたいなものが、その雲のなかにヌッと突き出された感じだった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
もしそれ老婦人をしてかくてあることを久しからしめば、ついに必ず狂せむ。不意に音あり、戸は開きぬ。同時に照射入さしいる燈火の影に乱髪、敝衣へいいの醜面漢、棍棒こんぼうを手にして面前にきたれり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あくる朝眼がめた時には、こわいもの見たさからか、好奇の色を泛べた村の若い者たちが七、八人、手に手に棍棒こんぼう鳶口とびぐちを持って草鞋わらじ脚絆きゃはん姿で、その間には昨夜ゆうべの石屋のオヤジもいれば
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
起き上った長太は、そこへ並べてあった棍棒こんぼうを取り上げて、ムク犬の前に迫り
すると、うちの書生が二人ばかり棍棒こんぼうか何かを持って集まって行った。うちの書生の一人に堀というのがいて顔面神経の痲痺まひしていた男であったが、その男に私も附いて行ったことがある。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
さっきの男は確かに、外套がいとうの下に棍棒こんぼうのようなものをかくしていたんですもの
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
子音を空間にころばし棍棒こんぼうでなぐりつけるように母音を強調しつつ、りっぱに発音する技術を、よく学んではいたにしろ、自然たらんとする技術を学んではいなかった——当然のことではあるが。
「なに者だ」とわめかれる、その頭を中将が後ろから棍棒こんぼうで殴った。
「まだ面白い事があるよ。現代では警察が人民の生命財産を保護するのを第一の目的としている。ところがその時分になると巡査が犬殺しのような棍棒こんぼうをもって天下の公民を撲殺ぼくさつしてあるく。……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「舟木新次郎といってね、西村商会の工員なんだが、死んだ社長の愛人の弟でね、なんでも公私ともに西村を恨んでいるらしいのだ。あの当日、四時過ぎに棍棒こんぼうを持って商会へ押しかけた形跡がある」
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
不意に棍棒こんぼうが耳をかすめます。提灯を叩き落されたのでした。
しかも右手には鉛の頭が見える棍棒こんぼうを持って、マリユスの上にかがんでるジャン・ヴァルジャンの数歩うしろの所に、じっと立っていた。
とたんに、彼の上へ、棍棒こんぼう鈎棒かぎぼう鳶口とびぐち刺叉さすまた、あらゆる得物えものの乱打が降った。そして、しし亡骸むくろでもかつぐように、部落の内の籾干場もみほしばへかつぎ入れ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「たぶん棍棒こんぼうか、木の太い枝で、一撃を下したものと思われますが、その凶器も犯人は持ち去ってしまいました」
墓地の殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
まさか弓矢や人殺し用の棍棒こんぼうや台所用のパン棒を携えるわけにも行かないから、その代わりに何かしら手ごろな棒きれを持つことになったのではないかとも想像される。
ステッキ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それは一方の手に棍棒こんぼうを持っていたが、飛びこんで来るやいなや仁蔵をなぐりつけた。
狸と同棲する人妻 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
皮膚に寄生する虫の標本が、かにくらいの大きさに模型されて、ずらりと棚に並んで、飾られてあって、ばか! と大声で叫んで棍棒こんぼうもって滅茶苦茶に粉砕したい気持でございました。
皮膚と心 (新字新仮名) / 太宰治(著)
たまたま近所の若者十四、五名、一杯機嫌のおもしろ半分、今夜こそは西方院の化け物を退治しやらんと、手に手におのまさかり棍棒こんぼうなどを取りつつ、台所なる炉に榾柮ほた折りくべて団欒だんらん
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
しかもそのことごとくが手に手に竹槍、棍棒こんぼう、鍬、鎌の類をふりかざしているのです。
棍棒こんぼうを取れる屠犬児いぬころし、籠を担える屑屋、いずれも究竟くっきょうおのこ、隊の左右に翼たり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
棍棒こんぼうを持っている者、竹槍を小脇に抱えている者、騎馬の一団は一人残らず、各自めいめい得物を持っていたが、その扮装いでたちにはわりがなく、筒袖に伊賀袴を穿いていて、腰に小刀を帯びていた。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
窓はぜんぶしめきって、ドアには中からかぎをかけ、壁のだんろの前には、さっきの書生が棍棒こんぼうを手にして、立ち番をしていました。そこから夜光怪人が、はいってくるといけないからです。
夜光人間 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところが、この賢人ときたら、すこぶる頑丈で、親が制御しようにも手に負えず、棍棒こんぼうに対する恐怖などはすでになくなってしまっているので、彼らはしばしば口角泡をとばして言い争うのである。
槍や弓や棍棒こんぼうをうちふり、喊声かんせいをあげて襲つてきました。
アフリカのスタンレー (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)