ひいらぎ)” の例文
聖降誕祭お目出とうなどと云って廻っている鈍児どじどもはどいつもこいつもそいつのプディングの中へ一緒に煮込んで、心臓にひいらぎの棒を
晩秋の野面に立ったひいらぎの梢から、白い粉のような花がぼろぼろこぼれ落ちて来るあたりの風景までが、しっとりと身に沁み始め
馬車 (新字新仮名) / 横光利一(著)
まだ本堂の前のひいらぎも暗い。その時、朝の空気の静かさを破って、澄んだ大鐘の音が起こった。力をこめた松雲のき鳴らす音だ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「やっぱり、でも、いい部屋だな。さすがに、立派な普請だ。庭の眺めもいい。ひいらぎがあるな。柊のいわれを知っているか」
親友交歓 (新字新仮名) / 太宰治(著)
女房たちは活溌かっぱつに動きまわり、家をきちんと整理し、つやのいいひいらぎの枝の、真赤な実をつけたのが窓にあらわれはじめた。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
ひいらぎの葉のやうにうすぺらで、そして又柊の葉のやうに触つた人を刺さないでは置かない雑誌だが、まちへ出す数もごく少いので知らぬ人が多いやうだ。
二人ふたり少年せうねんとまつたいへは、隣村りんそんにもだたる豪家がうかであつた。もんのわきにはおほきなひいらぎが、あをそらにそヽりたつてゐた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
うかれ車座のまわりをよくする油さし商売はいやなりと、此度このたび象牙ぞうげひいらぎえて児供こどもを相手の音曲おんぎょく指南しなん、芸はもとより鍛錬をつみたり、品行みもちみだらならず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
片手でも押し倒せそうな小さい仮家で、ひいらぎ柘植つげなどの下枝におおわれながら、南向きに寂しく立っていた。秋の虫は墓にのぼってしきりに鳴いていた。
秋の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
森の中は真っ暗で、ほとんど幹と幹を見分けることができなかった。彼はひいらぎのステッキを振り振り、さっさと歩いた。
それでも鬼が来てのぞくか、楽書ででっちたような雨戸の、節穴の下にひいらぎの枝が落ちていた……鬼もかがまねばなるまい、いとど低い屋根が崩れかかって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吉備きびの臣等の祖先のミスキトモミミタケ彦という人を副えてお遣わしになつた時に、ひいらぎの長いほこを賜わりました。
八百屋や何かでひいらぎの枝を束ねたついなの箒(?)を売っています、はじめてこんなものを見た、撒く豆というのも大きいのね、上落合に暮していた節分の夜
ひいらぎの枝や、鳥についばみ残され凍り残されてる清涼茶の赤い実のふさを、その美しい女神の両手にいっぱい供えた。
うじは細木、定紋はひいらぎであるが、店の暖簾のれんには一文字の下に三角の鱗形うろこがたを染めさせるので、一鱗堂いちりんどうと号し、書を作るときは竜池りゅうちと署し、俳句を吟じては仙塢せんうと云い
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
門口のひいらぎの株を右に曲って、二人の姿が見えなくなると、母親は、わあっ! と声を立てて泣き出した。
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
肉親とはかくもつれなきものかな! 花が何も咲いていなかったせいか、私は門を出がけに手にさわったひいらぎの枝を折って、門司まで持って行ったのを覚えています。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ひいらぎ蕁麻いらぐさ山査子さんざし野薔薇のばらあざみや気短かないばらなどと戦わなければならなかった。非常な掻傷そうしょうを受けた。
豆を家族の年の数ほど紙に包みてそれを厄払やくばらいにやるはいづこも同じ事ならん。たらの木にいわしの頭さしたるを戸口々々にはさむが多けれどひいらぎばかりさしたるもなきにあらず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ファニーとカロラインが体を二つに折って笑いこけているのをいまいましくにらみつけながら足許を見ると、紫の花をつけた一茎の大薊おおあざみひいらぎのような葉を拡げて立っていた。
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
としとったおかあさんはとなりにわとり今日きょうはじめてたまごをうんだが、それはおかしいくらいちいさかったこと、背戸せどひいらぎはちをかけるつもりか、昨日きのう今日きょう様子ようすたが
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そのとき運悪くひいらぎの木の枝にひっかかり、顔も手足も血だらけにして歯をくいしばっていたが、金博士の声を耳にしてびっくり仰天ぎょうてん狼狽ろうばいする途端とたんに、すとーんと地面へ落ちて
葉をそよがせるひいらぎも常盤木も一本もないからだ。そして裸になつた山櫨さんざしはしばみの藪も、まるで道路の中央に敷いてある白いり減らした石のやうにじつと身動きもしないのであつた。
伊豆新島にいじまの話に、正月二十四日は、大島の泉津村利島としま神津島とともに日忌ひいみで、この日海難坊(またカンナンボウシ)が来るといい、夜は門戸を閉じ、ひいらぎまたトベラの枝を入口に挿し
今その一例を挙ぐれば、狐火きつねび、流星、不知火しらぬい蜃気楼しんきろう、および京都下加茂社内へ移植する木はみなひいらぎに変じ、尾州熱田に移養する鶏はみな牡鶏に化すというがごときは、物理的妖怪なり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
関東以西のひいらぎの枝に鰯の頭は、節分の夜の行事となっているが、ここではこの十四日の年越に、魚のひれ、魚の皮などをこがして餅とともに串に刺し、すべての入口、窓という窓に挿んで
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
されば一日そが果樹園に杖ひくうち、葉ひいらぎに似て異国めき、名はわからねど植木屋もたゞ「西洋の、おめでたき草……」とのみよべる珍草あり、さして風情はあらざりしが、めづらしきまゝ求めきた
滝野川貧寒 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
尾田はそう考えながら背の高いひいらぎの垣根に沿って歩いて行った。正門まで出るにはこの垣をぐるりと一巡りしなければならなかった。彼はときどき立ち止まって、額を垣に押しつけて院内をのぞいた。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
赤き日に黒き刺葉はりはの沁み揺るるひいらぎの根を人うちかへす
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひいらぎをさす母によりそひにけり
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
片手でも押し倒せそうな小さい仮家で、ひいらぎ柘植つげなどの下枝におおわれながら、南向きに寂しく立っていた。秋の虫は墓にのぼってしきりに鳴いていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
晩餐は広い樫の木造りの部屋にしつらえられたが、この部屋の鏡板は蝋が引いてあってぴかぴか光り、周囲には家族の肖像画がいくつかひいらぎと蔦で飾られていた。
ヴォージラールの墓地はものさびた場所で、フランス式の古い庭園のようなふうに木が植わっていた。まっすぐな道、黄楊樹、かしわひいらぎ水松いちいの古木の下の古墳、高い雑草。
その到るところに、きらきらとした赤い果実このみが露のように燦めいていた。ひいらぎや寄生木や蔦のぱりぱりする葉が光を照り返して、さながら無数の小形の鏡が散らかしてあるように見えた。
ひいらぎや生垣の檜葉などが、春の芽をがむしゃらに延していた。冬越ししてもさもさになった野馬の毛を刈るように、それらに手を入れるのだ。木鋏で刈りながら、伸子は祖母といろいろなことを話した。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
本陣の稲荷いなりほこらかしひいらぎの間に隠れていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
心ひまあればひいらぎ花こぼす
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そしてつややかなひいらぎの枝が鮮かな赤い實をつけて、窓々に姿を見せ始めた。こんな風景からわたしが思ひ出したのは昔の著述家の書いたクリスマスの準備の敍述であつた。
駅伝馬車 (旧字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
ひどく貧乏な百姓家でも、緑色の月桂樹げっけいじゅひいらぎを飾りたてて、祝日を迎えた。