戒名かいみやう)” の例文
文盲もんまうな伊之助は、書いた物といふと、毛蟲よりも嫌ひだつたらしく、大神宮樣の御札と、佛樣の戒名かいみやうより外には、何にもありません。
これがだれだ、あれがだれだ、とつて祖母おばあさんのおしへてれるおはかなかには、戒名かいみやう文字もじあかくしたのがりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
事のよしをつげてお菊が戒名かいみやうをもとめ、お菊が溺死おぼれしゝたるはしかたはらに髪の毛をうづ石塔せきたふたつる事すべて人をはうふるがごとくし、みなあつまりてねんごろに仏事ぶつじいとなみしに
位牌ゐはいぬし戒名かいみやうつてゐた。けれども俗名ぞくみやう兩親ふたおやといへどもらなかつた。宗助そうすけ最初さいしよそれをちや箪笥たんすうへせて、役所やくしよからかへるとえず線香せんかういた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
建呉よ又おとゝ九郎兵衞は當時駿河國するがのくに御殿場に居る由今は心も直りしならんと思へば其方の爲には現在げんざい伯父をぢなる故一度は公父てゝご戒名かいみやうを屆け呉よと涙とともに九助が手を取り顏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
どういふわけ梅廼屋うめのや塔婆たふばげたか、不審ふしんに思ひながら、矢立やたて紙入かみいれ鼻紙はながみ取出とりだして、戒名かいみやう俗名ぞくみやうみなうつしましたが、年号月日ねんがうぐわつぴ判然はつきりわかりませぬから、てら玄関げんくわんかゝつて
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
道子みちこはゝのみならずちゝはかも——戦災せんさい生死不明せいしふめいになつため、いまだにてずにあることかたり、はゝ戒名かいみやうともならべていしつてもらふやうにたのみ、百円札ひやくゑんさつ二三まいかみつゝんでした。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
「娘の方も嫌ひぢやない樣で——尤も左母次郎といふのは、青雲せいうんとか何んとか言ふ、彫物の戒名かいみやうのある男で——」
そのあか戒名かいみやうはまだこのきてひとで、旦那だんなさんだけくなつた曾祖母ひいおばあさんのやうなひとのおはかでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
宗助そうすけ亡兒ばうじのために、ちひさいひつぎこしらえて、ひとたない葬儀さうぎいとなんだ。しかるのちまたんだもののためにちひさな位牌ゐはいつくつた。位牌ゐはいにはくろうるし戒名かいみやういてあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
仕つり九郎兵衞は九郎右衞門のおとゝなれ共一たい若年じやくねんよりといはんとせしが伯父の讒訴ざんそは如何とぞ心ろ付亡夫ばうふ勘當かんだうを受け十七年の間相摸さがみ國御殿場てんば村に居りしを私し親共死去のせつ戒名かいみやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此仏このほとけ是々これ/\もちかねを一緒につて死んだのでげすから、ともまうされませんが、戒名かいみやうを見ると「安妄養空信士あんもうやうくうしんじ」といたして置かれたのには金兵衛きんべゑおどろきました。金「成程なるほどこれ面白おもしろうがすな。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
六疊の間に据えた佛壇には、先祖の位牌と、死んだ女房の新らしい戒名かいみやうが飾られてあるらしく、貧しいうちにも、何にか折目の正しさが、人に迫るものがあるのです。
墓石はかいし取巻とりまいて戒名かいみやうつてある。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「塔婆の戒名かいみやうで見ると子供のやうだが、それにしちや土饅頭が大き過ぎはしませんかね、親分」
「それにしちや變ですぜ親分。あの傷男は徳力屋のことを何も彼も知つて居ましたよ。あつしは去年の二百十日前の帳尻から、箪笥たんすの刀のめい、三代前の戒名かいみやうまで聽いて來ましたよ」
それは蜜柑みかん箱を經机に、その上に有難い經文をせ、半紙一杯に幾つかの戒名かいみやうを並べて、手に數珠をからませ、半眼に眼を閉ぢて禪定ぜんぢやうに入つたやうに、鎭まり返つた下男圓三郎の姿だつたのです。