あの)” の例文
「だって、あの男に及第が出来ますものかね。考えて御覧な。——もし及第なすったら藤尾を差上さしあげましょうと約束したって大丈夫だよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひそめあの御方の儀に付ては一朝一夕いつてういつせきのべがたしまづ斯樣々々かやう/\の御身分の御方なりとてつひに天一坊と赤川大膳だいぜんに引合せすなはち御墨付すみつきと御短刀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「分かってようございました。エ、あのひとですか、たしか淡路あわじの人だと云います。飯屋めしやをして、大分儲けると云うことです」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
何かあの放逐された大尽と自分との間には一種の関係があつて、それで面白くなくて引越すとでも思はれたら奈何どうしよう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あの可厭いやと思った学生の声でしたから、私達は急いで停車場を出て、待たせて置いたうちの俥に乗って帰ったのでした。
昇降場 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
上人様が何と仰やつたか知らぬが妾にはさつぱり分らずちつとも面白くない話し、唐偏朴のあののつそりめに半口与るとは何いふ訳、日頃の気性にも似合はない
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
底本中ではばらばらに用いられている、「其の」と「其」、「此の」と「此」、「の」と「あの」は、それぞれ「其の」「此の」「彼の」に統一しました。
いや/\、よもや其樣そのやうなこともあるまい、不斷ふだんから上人しゃうにんひとあがめられたあの法師ほふしぢゃ。
やや真面目になれ得たと思うのは、全く父の死んだ時に経験した痛切な実感のおかげで、即ち亡父のたまものだと思う。あの実感を経験しなかったら、私は何処迄だらけて行ったか、分らない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あの大水おおみずのあった時より、あの悪病わるびょう流行はやった時が怖しかった。どうしてこの村は、人が長く落付かないだろう。私共も早くせがれが一人前となって、店でも出すようになったら、町へ越して行きたいものだ。」
(新字新仮名) / 小川未明(著)
丑松は文平の瀟洒こざつぱりとした風采なりふりを見て、別に其を羨む気にもならなかつた。たゞ気懸りなのは、あの新教員が自分と同じ地方から来たといふことである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「これがあの……」と叔母をば逡巡ためらつて宗助そうすけはうた。御米およねなん挨拶あいさつのしやうもないので、無言むごんまゝたゞあたまげた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
底本中ではばらばらに用いられている、「其の」と「其」、「此の」と「此」、「の」と「あの」は、それぞれ「其の」「此の」「彼の」に統一しました。
東京に出てはわしも立派な田舎者だが、田舎ではこれでもまだ中々ハイカラだ。儂の生活状態も大分変った。君が初めて来た頃のあのあばら家とは雲泥うんでいの相違だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いからしコレ小僧和主てまへ何處どこの者かは知ねど大藤の娘お光さんに癲癇が有るるとは何の謔言たはごとあのお光さんは容貌きりやうく親孝心でやさしくて癲癇所ろか病氣は微塵みぢんいさゝかない人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
当りを付けてやせ公卿くげの五六軒も尋ね廻らせたら、あの笛に似つこらしゅうて、あれよりもずんと好い、敦盛あつもりが持ったとか誰やらが持ったとかいう名物も何の訳無う金で手に入る。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その方法てだてぢゃが……おゝ、害心がいしんよ、てもはやはひってをるなア、絶望ぜつばうしたものむねへは!……おもすはあの藥種屋やくしゅや……たしか此邊このあたりんでゐるはず……いつぞやをりは、襤褸つゞれ
『だから僕は斯う思つたのさ。』と銀之助は引取つて、『何か其様そんな一寸したつまらん事にでも感じて、それであの下宿が嫌に成つたんぢやないかと。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
下田の金さんとこでは、去年は兄貴あにきが抽籤でのがれたが、今年は稲公があの体格たいかくで、砲兵にとられることになった。当人はいさんで居るが、阿母おふくろが今からしおれて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ロミオ (傍の給仕に對ひて)あの武家ぶけりあうてござるあのひめ何誰どなたぢゃ?
音にきゝたるちごたけとは今白雲に蝕まれ居る峨〻がゞと聳えしあの峯ならめ、さては此あたりにこそ御墓みしるしはあるべけれと、ひそかに心を配る折しも、見る/\千仭せんじんの谷底より霧漠〻と湧き上り
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
出し扨大橋氏はなはだ失敬しつけいなる申し分には御座れ共此金子は十八ヶ年以前に御恩借ごおんしやくいたしたる金子延引えんいんながら返上仕つるにより何卒なにとぞ御受納下ごじゆなふくだされ候樣に願ひ奉つる誠にあのせつ貴殿の御厚情ゆゑに我々夫婦只今はどうか斯か致して居るも皆貴殿の御庇蔭おかげにて候然るに貴殿かく御零落ごれいらくなられたる有樣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)