屹度きっと)” の例文
「こんなお年で、よくそんな智恵がおありなんですねえ。いや、まったく、このお子さんは屹度きっと、素晴らしいものにおなりですよ!」
から、もし其頃誰かが面と向って私に然うと注意したら、私は屹度きっと、失敬な、惚なんぞするものか、と真紅まッかになっておこったに違いない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
されば二十四、五の年増になっても十七、八の若い同様にお客の受けがよく、一度呼ばれれば屹度きっと裏が返るという噂さえあった。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
……そいつは冗談だが、こいつはもうけ話なんだ。相手は屹度きっと買うよ。彼奴等あいつらはきっと今朝がた、留置場りゅうちじょうのカンカン寅と連絡をしたのだ。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
中村君がいたなら屹度きっと「オイ、採ろうや採ろうや」と言い出すのにきまっているが、今の私達には採っている程の余裕は無かった。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
尤も、荘田夫人は普通の奥さん方とは違いますから、突然尋ねて行かれても、屹度きっとってれるでしょう。御宅は、麹町こうじまちの五番町です。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「ほんとうに、芸も、位も、江戸が一ばんですのに——みなさんで可愛がって上げたら、屹度きっとこっちに居着いついてしまうでしょうよ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
梅「いや伯父にう云いましょう、秋月に宜く云えば心配有りません、屹度きっと伯父に話をします、貴公の心掛けを誠に感心したから」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こどものときから毎夏、川沿いの知合の家のどこからかで屹度きっと、招いて呉れ、毎夏見物を欠かしたことのない川開きの花火でした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「なりますわ。いつまでも、屹度きっと……」と、引寄せられたまま、抱擁の力を求めるようにこびの謚るる目をあげて男の顔を見上げました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう云へばあなたは屹度きっとそんな心遣ひなんか止せと仰云おっしゃるかもしれませんけれども私には矢張り駄目です。とにかく熟考なすつて下さい。
これがこの女の本心かな? それとも誇張しているのかな、かく俺の思った通り此度こんどの芝居ではこの女が屹度きっと女形おやまに相違ない
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ツバキの本国であり東洋で誇る花でありながらこんな有様では誠に残念至極で、ツバキは屹度きっと世人の無情をかこちて泣いているでしょう。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「君達は分らないな。僕は吉田君と二人で毎朝塔へ登って祈っているんだ。ロシヤだって神を信ずる国だから、屹度きっと悔い改める」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
れから大阪湾にいっ掻廻かきまわせば官軍が狼狽するとうような事になって、屹度きっと勝算はありますといって、中々私の云うことを聞かないから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「魚は二十日にいちど」「野菜は十日に一人五匁」「草履は足半あしなか」「帯は三尺」などの類で、犯す者は屹度きっと申付くべしとある。
「まあ何んと云う綺麗な腕環でしょう、之れは屹度きっと伯父様から、わたくしに贈って下さったのですよ」と云えば、二番目の娘は横合から覗込のぞきこんで
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
それどころか僕を、到頭とうとう犯罪狂だといって、気違い病院へたたき込んだんです。……屹度きっとあいつらの仕業しわざなんだがね……それが昨日ですよ。
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
富岡老人釣竿つりざお投出なげだしてぬッくと起上たちあがった。屹度きっと三人の方を白眼にらんで「大馬鹿者!」と大声に一喝いっかつした。この物凄ものすごい声が川面かわづらに鳴り響いた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
直ぐその後を追馳おいかけて行けば、屹度きっとどんな男か正体位は見届ける事も出来たで御座居ましょうが、何分不意の事で手前共も周章あわてておりましたし
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
正直にこれこれとも少し早うお打ちあけ申し上げておいたら、屹度きっと御許しもあったものを、今までお隠し申し上げておいたのが悪かったのじゃ。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
もしそんなことでも有ると、自分で屹度きっと何か手頃の束縛を造り出す。蜘蛛が巣を作り、蚕が繭を作ると全く一般である。
鹿山庵居 (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
服を着かけていたかの男は、両腕りょうてをあげたまま、シャツの前穴から顔を出したところだったが、薄笑いをうかべながら屹度きっとドクトルを睨みつけて
誤診 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
それは屹度きっとお前も矢張やっぱり昨夜死神につかれたのだが、その倒された途端に、さいわいと離れたものだろう、この河岸かしというのは
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
盗まれた仏像も「来年八月には屹度きっと出る」などと喝破しているところ、いかにも神秘的な存在で羅曼ロマン的な興味が深い。
飲料いんりょうには屹度きっと湯をくれと云う。曾て昆布こんぶの出しがらをやったら、次ぎに来た時、あんな物をくれるから、醤油しょうゆを損した上に下痢げりまでした、といかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いくらあんたが日本の軍人だって、妾の話をおしまいまで聞いたら屹度きっとビックリして逃げ出すにきまっているわよ。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
で、吃驚びつくり致しまして、この猫は屹度きっと化けると思ったんです。それから、捨てようと思いましたけれども、幾ら捨てても帰って来るんで御座ごぎいますって。
「ああしんど」 (新字新仮名) / 池田蕉園(著)
しかしうち連中やつらは女子供ばかりだから屹度きっと気がかぬに相違ない。お前に頼むから『木』の字を『本』に直してくれ
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
江戸一左右いっそう次第、急速御買米手付金渡させられ、その儀命ぜられ候はば、屹度きっと閉密に相働き申すべき人物に御座候。
志士と経済 (新字新仮名) / 服部之総(著)
「よく見て来給え、何の目的でああいうことをやり出したのか、屹度きっと問いただして来給え、次第によっては、その責任者をこれへ同道してもよろしい」
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
野蛮で幻想的で、生気にあふれた観ものである。以前にも少年がこんな事をするのを見たことがあるから、之は屹度きっと戦争時の儀礼みたいなものであろう。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかし必要に応じて起ったものは屹度きっとその必要を満たして呉れる。神は一面に以上のような禍いを持ち来したが、一面に人間を益する所もまた多かった。
既成宗教の外 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
そこへ、一間程の綸に鈎をつけ、蚯蚓みみず餌で、上からそーツとおろすです。少しあたりを見て、又そーツと挙げさへすれば、屹度きっと五六寸のが懸ツて来るです。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
今御威勢の強い時に、大名共にも内々情をおかけなされ、御心底をお打ち明けなされて、屹度きっとお頼みなされませ。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「急にそう思うような宿はうせ見付からない。松林館に行ったら屹度きっとあるかも知れぬ。彼処あすこならば知った宿だから可い。今晩一緒に行って見ましょう。」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
今に屹度きっと、松埃がかかって収穫みのりが悪いがら、小作米を負けてくれとか、納められねえどか、屹度はあ小作争議のようごとを出かすに相違ねえ野郎共だから。
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
拙者こと万一非業に相果候様あいはてそうろうようのこと有之節これあるせつは、屹度きっと有峰杉之助を御詮議ごせんぎ相成り度く為後日ごじつのため右書き遺し申候也。
が、やっとして、「そうさな、俺の、俺の一生の間食べ余るだけの食べ物と、着余るだけの着物とをくれると屹度きっと約束したら……まあ、それで我慢がまんしてやろう」
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
しめた! この男のこの大きな吸筒すいづつ、これには屹度きっと水がある! けれど、取りに行かなきゃならぬ。さぞ痛むこッたろうな。えい、如何どうするもんかい、やッつけろ!
その輝きの中から冷たい眼が彼等をにらめるかも知れない、そしたら屹度きっとかれらは意味もなく笑い出して、森に跳び入って、深山のけものたちのようになるのだろう。
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
私の「父がかえったら屹度きっと金持になるだろう、残飯食いと云われなくていいようになるだろう……」
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
余の娘が年頃になって、音楽会がどうだの、帝国座がどうだのと云いつのる時分になったら、余は是非此「土」を読ましたいと思って居る。娘は屹度きっといやだというに違ない。
「それには重大な意味があるのです。明日にならなければお見せする事が出来ないのです。兎も角明日一時にここへ来て下さい。屹度きっと御得心のゆく証拠をお見せします」
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「川合又五郎と申す者は一夜の宿を貸し候とも二夜と留置き候者は屹度きっと曲事くせごとに行わるべき者也」
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「僕が、こんな体で申し訳ございません。父様。父様。屹度きっともう一度家を興します。僕が丈夫になって、やってみせます。父様、きこえますか、父様、お返事をして下さい」
落ちてゆく世界 (新字新仮名) / 久坂葉子(著)
「どうやら分らんちゃ。屹度きっと七海しつみの連中に引張られて飲んどるのじゃろう。」と母は言った。
恭三の父 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
父親の姿に接する時程私は陰気な虚無感に誘われる時はない。私は屡々その肖像画を破棄しようとはかって、未だに果し得ないのであるが、やがては屹度きっと決行するつもりでいる。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
これは「修理病気に付、禁足申付候様にと屹度きっと、板倉佐渡守兼ねて申渡置候処、自身の計らいにて登城させ候故、かかる凶事出来きょうじしゅったい、七千石断絶に及び候段、言語道断の不届者ふとどきもの
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これは屹度きっと、自分に早く帰らそうとしての事だと思っていたが、あながち、そうばかりでもなかったらしい、何をいうにもこんな陰気な家で、例の薄暗い仏壇の前などを通る時には
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)