屹度きっと)” の例文
「こんなお年で、よくそんな智恵がおありなんですねえ。いや、まったく、このお子さんは屹度、素晴らしいものにおなりですよ!」
から、其頃誰かが面と向って私に然うと注意したら、私は屹度、失敬な、惚なんぞするものか、と真紅になってったに違いない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
……そいつは冗談だが、こいつはけ話なんだ。相手は屹度買うよ。彼奴等はきっと今朝がた、留置場のカンカン寅と連絡をしたのだ。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
中村君がいたなら屹度「オイ、採ろうや採ろうや」と言い出すのにきまっているが、今の私達には採っている程の余裕は無かった。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
尤も、荘田夫人は普通の奥さん方とは違いますから、突然尋ねて行かれても、屹度ってれるでしょう。御宅は、麹町の五番町です。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「ほんとうに、芸も、位も、江戸が一ばんですのに——みなさんで可愛がって上げたら、屹度こっちに居着いてしまうでしょうよ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
梅「いや伯父にう云いましょう、秋月に宜く云えば心配有りません、屹度伯父に話をします、貴公の心掛けを誠に感心したから」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こどものときから毎夏、川沿いの知合の家のどこからかで屹度、招いて呉れ、毎夏見物を欠かしたことのない川開きの花火でした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「なりますわ。いつまでも、屹度……」と、引寄せられたまま、抱擁の力を求めるようにの謚るる目をあげて男の顔を見上げました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これがこの女の本心かな? それとも誇張しているのかな、俺の思った通り此度の芝居ではこの女が屹度女形に相違ない
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ツバキの本国であり東洋で誇る花でありながらこんな有様では誠に残念至極で、ツバキは屹度世人の無情をかこちて泣いているでしょう。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「君達は分らないな。僕は吉田君と二人で毎朝塔へ登って祈っているんだ。ロシヤだって神を信ずる国だから、屹度悔い改める」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
れから大阪湾に掻廻せば官軍が狼狽するとうような事になって、屹度勝算はありますとて、中々私の云うことを聞かないから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私は波多江に行つてテニスが出来たりオルガンを弾ひたりすることが出来るのがうれしいので一週に一度や二度は屹度あそびにゆきました。
「まあ何んと云う綺麗な腕環でしょう、之れは屹度伯父様から、に贈って下さったのですよ」と云えば、二番目の娘は横合から覗込んで
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
それどころか僕を、到頭犯罪狂だといって、気違い病院へたたき込んだんです。……屹度あいつらの仕業なんだがね……それが昨日ですよ。
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
富岡老人釣竿投出してぬッくと起上がった。屹度三人の方を白眼で「大馬鹿者!」と大声に一喝した。この物凄い声が川面に鳴り響いた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
直ぐその後を追馳けて行けば、屹度どんな男か正体位は見届ける事も出来たで御座居ましょうが、何分不意の事で手前共も周章ておりましたし
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
正直にこれこれとも少し早うお打ちあけ申し上げておいたら、屹度御許しもあったものを、今までお隠し申し上げておいたのが悪かったのじゃ。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
もしそんなことでも有ると、自分で屹度何か手頃の束縛を造り出す。蜘蛛が巣を作り、蚕が繭を作ると全く一般である。
鹿山庵居 (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
それは屹度お前も矢張昨夜死神につかれたのだが、その倒された途端に、と離れたものだろう、この河岸というのは
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
盗まれた仏像も「来年八月には屹度出る」などと喝破しているところ、いかにも神秘的な存在で羅曼的な興味が深い。
最も鄭重尊崇の念を忘れず、暫時があいだ其の方に於てお預かり申し奉るべし、決して御不自由ないし御不快を相掛けざるよう、屹度申付け候もの也
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
飲料には屹度湯をくれと云う。曾て昆布の出しがらをやったら、次ぎに来た時、あんな物をくれるから、醤油を損した上に下痢までした、とった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いくらあんたが日本の軍人だって、妾の話をおしまいまで聞いたら屹度ビックリして逃げ出すにきまっているわよ。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
で、吃驚致しまして、この猫は屹度化けると思ったんです。それから、捨てようと思いましたけれども、幾ら捨てても帰って来るんで御座いますって。
「ああしんど」 (新字新仮名) / 池田蕉園(著)
しかし連中は女子供ばかりだから屹度気がかぬに相違ない。お前に頼むから『木』の字を『本』に直してくれ
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
江戸一左右次第、急速御買米手付金渡させられ、その儀命ぜられ候はば、屹度閉密に相働き申すべき人物に御座候。
志士と経済 (新字新仮名) / 服部之総(著)
「よく見て来給え、何の目的でああいうことをやり出したのか、屹度問いただして来給え、次第によっては、その責任者をこれへ同道してもよろしい」
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
野蛮で幻想的で、生気にれた観ものである。以前にも少年がこんな事をするのを見たことがあるから、之は屹度戦争時の儀礼みたいなものであろう。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかし必要に応じて起ったものは屹度その必要を満たして呉れる。神は一面に以上のような禍いを持ち来したが、一面に人間を益する所もまた多かった。
既成宗教の外 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
そこへ、一間程の綸に鈎をつけ、蚯蚓餌で、上からそーツとおろすです。少しりを見て、又そーツと挙げさへすれば、屹度五六寸のが懸ツて来るです。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
今御威勢の強い時に、大名共にも内々情をおかけなされ、御心底をお打ち明けなされて、屹度お頼みなされませ。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「急にそう思うような宿はうせ見付からない。松林館に行ったら屹度あるかも知れぬ。彼処ならば知った宿だから可い。今晩一緒に行って見ましょう。」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
今に屹度、松埃がかかって収穫が悪いがら、小作米を負けてくれとか、納められねえどか、屹度はあ小作争議のようごとを出かすに相違ねえ野郎共だから。
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
拙者こと万一非業に相果候様のこと有之節は、屹度有峰杉之助を御詮議相成り度く為後日右書き遺し申候也。
しめた! この男のこの大きな吸筒、これには屹度水がある! けれど、取りに行かなきゃならぬ。さぞ痛むたろうな。えい、如何するもんかい、やッつけろ!
その輝きの中から冷たい眼が彼等をにらめるかも知れない、そしたら屹度かれらは意味もなく笑い出して、森に跳び入って、深山のけものたちのようになるのだろう。
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
私の「父がかえったら屹度金持になるだろう、残飯食いと云われなくていいようになるだろう……」
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
余の娘が年頃になって、音楽会がどうだの、帝国座がどうだのと云いる時分になったら、余は是非此「土」を読ましたいと思って居る。娘は屹度だというに違ない。
「それには重大な意味があるのです。明日にならなければお見せする事が出来ないのです。兎も角明日一時にここへ来て下さい。屹度御得心のゆく証拠をお見せします」
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「川合又五郎と申す者は一夜の宿を貸し候とも二夜と留置き候者は屹度曲事に行わるべき者也」
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「僕が、こんな体で申し訳ございません。父様。父様。屹度もう一度家を興します。僕が丈夫になって、やってみせます。父様、きこえますか、父様、お返事をして下さい」
落ちてゆく世界 (新字新仮名) / 久坂葉子(著)
「どうやら分らんちゃ。屹度七海の連中に引張られて飲んどるのじゃろう。」と母は言った。
恭三の父 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
父親の姿に接する時程私は陰気な虚無感に誘われる時はない。私は屡々その肖像画を破棄しようとって、未だに果し得ないのであるが、やがては屹度決行するつもりでいる。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
これは「修理病気に付、禁足申付候様にと屹度、板倉佐渡守兼ねて申渡置候処、自身の計らいにて登城させ候故、かかる凶事出来、七千石断絶に及び候段、言語道断の不届者
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これは屹度、自分に早く帰らそうとしての事だと思っていたが、ち、そうばかりでもなかったらしい、何をいうにもこんな陰気な家で、例の薄暗い仏壇の前などを通る時には
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
ところが今、仮りに食物の摂取を中止して所謂飢餓の状態にったならば、屹度肺の窒素固定機能が盛んになります。即ち消化管に代って、肺臓が人体の栄養をろうとします。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
かが気がついて見たら、顔も屹度青かったかも知れません。僕はジムの絵具がほしくってほしくってたまらなくなってしまったのです。胸が痛むほどほしくなってしまったのです。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
金は屹度そこから出ていると思っているので、一二度利あげをしたままでそのままにしてあったところで、済南に往って商売をしていた兄から、支那の動乱で商売も面白くないから
白っぽい洋服 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)