小癪こしゃく)” の例文
プロマイドにサイン組でないことは初手からにらんではいたが、それにしても乙にモナ・リザを気取っていやがる。ちと小癪こしゃくにさわるて。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
「気が早いや親方、誰も権太左衛門に母親が斬られたとは言やしません、私あ親の敵と思う位、小癪こしゃくに障るやつが出来たッていうんです。」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……それもよい、なぜ、挨拶に来さっしゃらぬ、自体この新免家の姉弟きょうだいは、小癪こしゃくにさわる、この婆を何と思うていなさるのじゃ。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は、自分の位置であるべきもののような問方といかたをするのが小癪こしゃくにさわった。けれど、来たわけをいわないわけにはいかない。
鉄扇で相手をするという! 小癪こしゃくの態度と思ったが、すでに現われた三人の敵で、敵の技倆ぎりょうは知れている。いずれも素晴しい手利てききである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこで兵馬は小癪こしゃくにさわりました。かつて、慢心和尚がいうことには、「人間は、犬に吠えられるようでは、修行が足りない」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
思ひもかけぬ旅僧の手練てなみに、さしもの大勢あしらひ兼ね、しらみ渡つて見えたりければ、雲井喜三郎今は得堪えたへず、小癪こしゃくなる坊主の腕立てかな
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
つくだの者で四十男、伊勢新の釣に網のお供をさせられますが、金にはなっても、人も無気なげな豪勢振りが、少し小癪こしゃくに障っているらしい口吻くちぶりです。
『さあ、僕の愛するペガッサスよ、』と彼は翼のある馬の耳に囁きました、『お前は僕がこの小癪こしゃくな怪物を退治るのを加勢しなければならない。 ...
わたくしはちょっと軽蔑されたような憤りを感じましたが、なにを小癪こしゃくと思って、わざと丁寧に、「こないだ、葡萄、ありがとう」と言いました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この原語の方が、象徴的で、簡潔で、小癪こしゃくで、よほどうまいところがある。けれども、これをそのまま日本語に直訳してしまってはやはりいけまい。
紙幣鶴 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
一方ならぬ御恩を受けていながら親方様の対岸むこうへ廻るさえあるに、それを小癪こしゃくなとも恩知らずなともおっしゃらず
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
本郷通りの並木の影に街灯がともった。相変らず白痴のような表情した帝大の学生や、小癪こしゃくつら構えをした洋装の小娘が、私に逆らうようにして通り過ぎる。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
向うで何か羨ましいとか小癪こしゃくにさわるとか思って、じっと見つめると、すぐにこっちへ感じてしまうので、向うでは別に祟るというほどの考えはなくとも
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ぎる火の闇にせんなく消ゆるあとより又沸ぎる火が立ちのぼる。深き夜を焦せとばかり煮え返るほのおの声は、地にわめく人の叫びを小癪こしゃくなりとて空一面に鳴り渡る。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一体このごろの労働者は生意気だったり、小癪こしゃくだったり、そうでなければ、仕方のないナラズ者のゴロツキだ。従順な性格を持ったやつは一人もありゃしない。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
する小癪こしゃくな奴という訳でしょうて。殊に守君は珠子さんの兄さんじゃからね。又、春川月子の場合、警察に告げ知らせたのも守君じゃ。犯人の復讐ですよ、これは
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
福沢諭吉もまた偉そうな事をいって、役人などはつまらぬ人間のようにいう。両方で小癪こしゃくに触るので一時は衝突しておったものだ。ところが明治六年であったと思う。
と思うと、栄三郎は、このごまのはえみたいな男の無鉄砲におどろくとともに、ぐっと小癪こしゃくにさわった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
従ってこの事ばかり気にするものは小癪こしゃくさわっていけない。といって智恵なき者は阿呆に過ぎない。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
小癪こしゃくな事をいうもんだと葉子は心の中で思ったけれども、指先でもてあそびながら少し振り仰いだ顔はそのままに、あわれむような、からかうような色をかすかに浮かべて
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
両人「この乞食め、何を小癪こしゃくなことをやがる、ふざけた事をすると片ッぱしから打殺ぶちころすぞ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「何をおあがりなさいます」と、お君のおきまり文句らしいのを聴くと、僕が西洋人なら僕の教えた片言を試みるのだろうと思われて、何だか厭な、小癪こしゃくな娘だという考えが浮んだ。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
さて鶴がすこし休息しようとしだすと蝶はたちまちその背を離れ予の方が捷いと言いながら前へと飛んで行く、小癪こしゃくなりと鶴が飛び出して苦もなく蝶を追い過すと蝶また鶴の背に留まり
さもさも勿体振もったいぶって、いやに反身そりみになって、人を軽蔑けいべつしたような目付をしながら、意気揚々と灰色の馬に跨った様は——いやもう小癪こしゃくに触って、二目と見られたものじゃない、とまあ
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お庄は気爽きさくに、「ハイ。」と言って、水口の後の竿さおにかかっていた、塩気のみ込んだような小風呂敷をはずして瓶を包みかけたが、父親の用事をするのが、何だか小癪こしゃくのようにも考えられた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
……なんという小癪こしゃくらしい、可愛げな顔ばしているのでありましょう
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼はきわめて面白い男であり、この上もなく小癪こしゃくな男であった。
「む! こ、こいつ——」「小癪こしゃくな事をする、斬ってしまえ」
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それがしかも、尊氏誅伐ちゅうばつ宣旨せんじを南朝から申しうけて、公然と、義父直義ただよしあだともとなえているのである。小癪こしゃくとも何とも言いようはない。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小癪こしゃくにさわるような気分に迫られたけれど、どうも今晩は、今晩だけではないが、この女に対しては、そうポンポン啖呵たんかがきれないのです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なんだ菊がってある。小癪こしゃくにもまがきが彫ってある。汚い油垢が溜って居る。それで居て、これを見ると恋しいのはどういうわけだ。ままよ嗅いでみてやれ
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
少しは小癪こしゃくさわったが、起請きしょうを取交したわけでも、夫婦約束をしたわけでもないから、文句の言いようはない。正直にお祝いを申上げて帰って貰ったのさ。
全体小癪こしゃく旅烏たびがらすと振りあぐるこぶし。アレと走りいずるお辰、吉兵衛も共にとめながら、七蔵、七蔵、さてもそなたは智慧ちえの無い男、無理にうらずとも相談のつきそうな者を。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私は先手を打たれて少々小癪こしゃくに触っていたものだから、一つ驚かせてやろうと思って、足音を忍ばせて彼のうしろに近寄り、出し抜けにポンと肩を叩いたものである。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「わかったか」と覆面の侍げらげらと咽喉のどを鳴らした。文次には記憶おぼえのある、小癪こしゃくにさわる音声だ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのうちに貧乏になるだろうとか、わけても小癪こしゃくにさわるのは、私の財産たからの女どもをうまうま口車に乗せおって、こっそり館から抜け出させ、他国へ逃がしてやることじゃ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小癪こしゃくと云おうか、卑怯ひきょうと云おうかとうてい彼等は君子の敵でない。吾輩は十五六回はあちら、こちらと気を疲らししんつからして奔走努力して見たがついに一度も成功しない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが、勝川のおばさんの生立おいたちをきくと無理はなかった。彼女としては、女中同様に追廻して使った姪に、さんの字をつけてよぶだけでさえ小癪こしゃくにさわる——そうした気風の彼女だった。
『はい、今晩は』ッて、澄ましてお客さんの座敷へはいって来て、踊りがすむと、『姉さん、御祝儀ごしゅうぎは』ッて催促するの。小癪こしゃくな子よ。芝居は好きだから、あたいよく仕込んでやる、わ
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
わっちが何か云うといやにせゝら笑やアがるから、小癪こしゃくにさわるからなぐり付けようと思いましたがね、今こゝで彼奴をつとウーンと云って顛倒ひっくりけえって仕舞うから、わっちこらえていたのです。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
だめなことだ、あの老爺おやじだもの。のべつに小癪こしゃくさわることばっかりならべやがって、もうもうほんとに顔を見るのもいやなんだ。そのくせまた持ってるのだ! どうしたもんだろうなあ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
純潔——そんなものの無力を心でつねに主張している彼には(そして彼は十七歳の時から立派に純潔を踏みにじってきているのだ)小癪こしゃくにさわった。それにしても何んという可憐な動物だ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「相川さん、遅刻届は活版ずりにしてお置きなすったら、奈何いかがです」などと、小癪こしゃくなことをぬかす受付の小使までも、心の中では彼の貴い性質を尊敬して、普通の会社員と同じようには見ていない。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「アハハハ。小癪こしゃくなヤマカンきおるな。木乃伊ミイラの鉄五郎を知らんかえ」
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一応の挨拶はしたが、無口で無愛想な顔をいつまでも疣蛙いぼがえるみたいにそこに据えているのが、信長は何か小癪こしゃくにさわってきた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高部を追いかける途端を、小癪こしゃくなと、横合いから一ナグリに斬って捨てようとしたのが、案外にも、出足を進めないで、後ろへひいて構えた変化。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
池の端の行き違いより翻然からりと変りし源太が腹の底、初めは可愛かわゆう思いしも今は小癪こしゃくさわってならぬその十兵衛に、かしらを下げ両手をついて謝罪あやまらねばならぬ忌々いまいましさ。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「何を小癪こしゃくな! 殿様の碁の相手だけはまっぴらだが、貴公なら友だちずくにくみしやすい。来い!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
隠居が五十両で茶碗を掘り出した夢中な姿が、ツイ小癪こしゃくにさわったものでしょう。