家作かさく)” の例文
家は貧乏になりかけてゐる。召使達は半數位暇を出さなくてはならない。そして家作かさくもいくらか疊むか貸すかしなくてはならない。
光子さんのところの家作かさくに税務署長が住んでいて、そこは主人より奥さんの方が年上だものだから、焼餅喧嘩が絶えないんだ。
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
質屋と云っても半分は農家で、相当の身上しんしょうであるらしい。その裏手に二軒の家作かさくがあって、大工や左官などがはいっていた。
なんにもしないであすんでるんでせう。地面ぢめん家作かさくつて」と御米およねこたへた。このこたへ今迄いままでにもう何遍なんべん宗助そうすけむかつてかへされたものであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
太七の家作かさくで、ほんの二三丁先、形ばかりの空家へ、焦げ臭い荷物と一緒に、五六人の人間が詰め込んで居たのです。
国道沿線に五六軒の家作かさくを建てたりして裕福に暮らしてゐたのだつたが、福子のことでは大分今迄に手を焼いてゐた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
家作かさくはほかにもたくさん持っていた。彦兵衛の仕事は、毎日家賃と利子の取り立てにまわることだった。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このあたりの森の最後の住人はワイマンの家作かさくを借りていたアイルランド人のヒュー・コイル Quoil(わたしはQの字その他を十分コイルをつくって綴ったつもりだ)
内儀かみさんとは、若い時からの知合で、それに斯の女の出して居る洋服店は経師屋の家作かさくだつた。裁縫師は病人の寝床のそばで、白い被服を着けた柿田の様子を一緒に眺めて
死の床 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
もとは農商務省に勤めてをりましたが、唯今ただいまでは地所や家作かさくなどで暮してゐるやうでございます。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ニコライ・イーリイッチ・ベリヤーエフというのはペテルブルグの家作かさく持ちで、競馬気違いで、そして栄養のいいてらてらした顔の、年の頃三十二ぐらいの若紳士であった。
小波瀾 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すっかり賭ける。地面も、家作かさくも、馬も、自働車も、一つ残らず賭けてしまう。その代り君はあの金貨のほかに、今まで君が勝った金をことごとく賭けるのだ。さあ、引き給え。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
妹娘の旦那、銀行の頭取りは、事ごとに木場の旦那とは違ったゆきかたで、自分のものにした妹娘の家作かさくに手入れをする、動産、不動産、いずれも消てしまわないものを注ぎ込んだ。
日頃ひごろ母子の家に出入でいりする男といっては、日々勝手口へ御用を聞きに来る商人のほかには、植木屋と呉服屋ごふくや家作かさく差配人さはいにんと、それから桑島くわじま先生という内科の医者くらいのものであろう。
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「そりや然うだとも!………世の苦勞があるから、偶時たまにア亡くなツた人のことも思はないじやないけども正直しやうじき家作かさくでも少しあツたら、此うしてゐた方が幾ら氣らくだか知れやしない。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
店は息子むすこゆずって、自分は家作かさくを五軒ほど持って、老妻と二人で暮らしているというのんきな身分、つりと植木が大好きで、朝早く大きな麦稈帽子むぎわらぼうしをかぶって、笭箵びくを下げて、釣竿つりざおを持って
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
とどのつまりが別居といふことになつて、そこでお母さま一流の気前のよさが始まりました。一々おぼえてもゐませんが、別荘や家作かさくが片つぱしからS家の名義に書き換へられたやうでした。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
と云ってビール瓶で殴りつけたので、綱行は負傷するし、つづいて女房が病気になってなかなかなおらず、そんなこんなで家作かさくは人手に渡ってしまった。その時遊びに来たのが伊藤静雨せいうであった。
お化の面 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
享保きょうほ十二年の大火事の翌年にも、藁葺きの新築は禁止するというお触れがでており、そのまた次の年には、なるべく下地総塗したじそうぬりの家作かさく、すなわち今いう土蔵造りを建てよという命令も発せられた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
此方こつちからして金まで付離縁りえんなしたる其なさけは結句けつく此身のあだとなり役人しうの詞にも所詮しよせん存命ぞんめいかなはぬと云れしなれば此覺悟かくごされど其方は此事の御とがめはよも有まい程に御所刑濟ば田畑でんばた居屋敷ゐやしき家作かさく家財かざいは其方へ下さるゝで有うゆゑ殘らず其を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ほかに地所家作かさくなども持っていて、町内でも物持ちの一人にかぞえられ、何の不足もない身の上であったが、ただひとつの不足——というよりも
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
国道沿線に五六軒の家作かさくを建てたりして裕福に暮らしてゐたのだつたが、福子のことでは大分だいぶ今迄に手を焼いてゐた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
堀尾君は次の日曜に清水君の家作かさくへ引移った。期せずして悌四郎君と背中合せになったのは郷里以来深い縁だった。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
叔父をぢはらつたと地面ぢめん家作かさくいても、もとよりおほくの期待きたいつてゐなかつた。時々とき/″\かんがしたやう
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今朝、自分の家作かさくうちに、人殺しがあったと近所の店子たなこ同道で訴え出たのであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「え、町内で知らない者はありゃしません。父さんに無理な請負をさせて、さんざん損をさせた上、家作かさくを取上げたり、店立たなだてを喰わせたり、その上三月も半歳も只で使ったり——」
「隣はわたしの家作かさくですからね。火災保険の金だけはとれるのですよ。」
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
国道沿線に五六軒の家作かさくを建てたりして裕福に暮らしていたのだったが、福子のことでは大分今迄いままでに手を焼いていた。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
関口屋はここらの老舗しにせで、ほかに地所家作かさくも持っていて、小僧二人のほかに若い者三人、女中三人の暮らしである。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けれども、それ以上いじやうは、おとうと將來しやうらい學資がくしついても、また自分じぶん叔父をぢたのんで、留守中るすちゆうはらつてもらつた地所ぢしよ家作かさくいても、くちるのがつい面倒めんだうになつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
那麽あんな鬼のような手をして不恰好なってありゃしない。家作かさくが何軒あるの地所を何程いくら持っているのって外、何一つ碌な口も利けない芸無しの癖に。年甲斐もなくまあの赤いネクタイは何でしょう。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかも彼女が現在住んでいる池の端の裏屋は甲州屋の家作かさくであるから、ここもおそらく追い立てられるであろう。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何しろもとの通りあの地面と家作かさくを有ってるんだから、そう困っていない事はたしかでさあ。それに御藤さんの方へは御縫おぬいさんの方からちゃんちゃんと送金はあるしさ。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
阪神の甲子園に園村氏所有の恰好かっこう家作かさくがあり、売ってもよいと云うことであるから、それを子爵家が買い取って新夫婦に贈ることになろう、御牧氏は近々大阪か神戸に職を求めることになろうし
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「はあ。火元に近い上に御自分の家作かさくでいらっしゃいますから」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
実はきのう千住の掃部宿かもんじゅくの質屋に用があって出かけて行くと、そこでちっとばかり家作かさくの手入れをするので、下谷通新町の長助という大工が来ていました。
「それなら家主いえぬしじゃありませんか。家作かさくは沢山ありますか?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
尤も吉原では暖簾のふるい店でもあり、ほかにも地所や家作かさくなどをもっているので、まず相当に店を張っている。
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家作かさくが沢山あるのかい?」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかしほかにも家作かさくなどをもっているので、店は他人にゆずって、自分たちは近所でしもた家暮らしをすることになった。ここの主人ももう六十を越えていた。
ゆず湯 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかしほかにも家作かさくなどをもっているので、店は他人にゆずって、自分たちは近所でしもた家暮らしをすることになった。ここの主人ももう六十を越えていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何代か前の先祖は炭屋をしていたとかいうので、世間では今でも炭団伊勢屋といっているんですが、地所家作かさくは持っていて、身上しんしょうはなかなかいいという評判です。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小体こていに暮らしてはいますけれど、ほかに家作かさくなども持っていて、なかなか内福だということです。
異妖編 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
菓子商売のほかに地所や家作かさくを持っていて、身上しんしょうもいい。主人はまだ若い。四年前に嫁を貰って無事に暮らしているが、独り者の頃には多少の道楽もしたように聞いている。
恨みの蠑螺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分は石切横町に一軒の家作かさくを持っているから、もし盆前までに返金が出来なかったらば、それをおまえの方へ引渡すといって、念のためにお春を連れ出したのでございます。
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
但し旧家といい、老舗しにせといっても、丸多の店の有金ありがねを全部をかき集めても二、三千両に過ぎない。そのほかの財産はみな地所や家作かさくであるから、右から左に金には換えられない。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)