基督キリスト)” の例文
これは実に十九世紀後半までの大勢であって、宗教の如きも基督キリスト教以外に真宗教無しとし、他の宗教者を目するに異宗徒ヒーゼンを以てした。
日本の文明 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
しかしてそれは基督キリスト教徒にとって好都合のことではないと、こう云うのが一の理由となって中止せられたものだと、或る人は云って居た。
釈宗演師を語る (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
思想の浅深に就てはとにかくとして、基督キリストなる男が、己を信ぜざる者に対して実に生々しい憎悪を懐いてゐるのには一驚しました。
無題 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
私は平塚さんたちの態度が意外にも矯風会あたりの基督キリスト教婦人の態度に何となく似通う所のありはしないかということを恐れます。
新婦人協会の請願運動 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
そのブレインが無神論者であるのか、モルモン宗徒であるのか、基督キリスト教信仰治療主義者であるのか、それは誰にもわからなかった。
〕更に例を求めるとすれば、僕は正宗白鳥氏の作品にさへ屡々しばしば論ぜられる厭世えんせい主義よりも寧ろ基督キリスト的魂の絶望を感じてゐるものである。
基督キリストなどの考え出したような宗教も哲学もなく、また同じ暖い海はありながらどういう訳か希臘ギリシヤのような芸術も作らずにしまった。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ともかくノートは、板の間の埃塗ほこりまみれの円柱の蔭から、積んであったルナンやパピニの基督キリスト伝の下から、むしくいだらけになって現れた。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「神々の死」別名「背教者ジュリアン」は、基督キリスト教と希臘思想ヘレニズムの闘争時代である四世紀の羅馬ローマに於ける史実を描いたものである。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
また基督キリスト教界の元老押川方義、植村正久、内村鑑三、松村介石、本田庸一、小崎弘道、服部綾雄等の諸先生にも教えを受ける機会を得た。
是れが神の国への路でせうか、ケレ共何処どこの教会に此の暗黒界の燈火がいて居りますか、基督キリストが出で来り給ふならば
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
早くから奥様とお子さんをおくしになってから熱心な基督キリスト教信者となって、教育事業に生涯を捧げると言っておられる立派なお方です。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この詩人の宗教は基督キリスト教を元としたる「愛」の信仰にして、尋常宗門の繩墨じようぼくを脱し、教外の諸法に対しては極めて宏量なる態度を持せり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
この基督キリスト教会の補祭の一人に、ハロルド・ロスリッジ—— Harold Lothridge ——と呼ぶ若い大工が居た。
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
基督キリストは罪人をば人間の完成に最も近き者として愛した。面白き盗賊をくだくだしい正直者に変ずるのは彼の目的ではなかつた。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
上帝や基督キリストの威霊を主張し、貴君方の御役人がそれを信仰せられないのが、かえって不都合だというような事まで言いかけた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
これ恋愛の本質は倫理感に属するのに、日本人は気質的に超道徳者で、西洋人の如き基督キリスト教的強烈の倫理感を持たないためだ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
流れるもののなかに、魂まで流していれば、基督キリストの御弟子となったよりありがたい。なるほどこの調子で考えると、土左衛門どざえもん風流ふうりゅうである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぜんの女教師の片意地な基督キリスト教信者であつた事や、費用つひえをはぶいて郵便貯金をしてゐる事は、それを思出す多吉の心に何がなしに失望を伴つた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その甲斐があって、彼は非常に感激して、後には別人のようになり、基督キリスト教信者になって、真面目に勉強するようになった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
基督キリスト其の他の先覚の人格を信じ、若しくは彼等が偉大なる意識を証権として、其れに依りうておぼろげに形づくりたる者、その多きに居りし也。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
基督キリスト教は始め全く実践的であったが、知識的満足を求むる人心の要求は抑え難く、遂に中世の基督教哲学なる者が発達した。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
繁子や玉子というような基督キリスト教主義の学校を出た婦人があって青年男女の交際を結んだ時があったなどとはどうして知ろう
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ルオーの描いた基督キリストのように、真面目過ぎるが故に、かすかに剽軽ひょうきんにさえ見える葛岡の顔がしかめられかけて、それを張りささえるものがあって
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だから孔子や釈迦や基督キリストの顔がどんなに美しいものであったかという事だけは想像が出来る。言う迄もなく顔の美しさは容色の美しさではない。
(新字新仮名) / 高村光太郎(著)
基督キリスト教の教えるところは果して正しいのであろうか。それはただ、人の心を胡魔化ごまかす麻酔剤にすぎないのではなかろうか。
しかし山川の美に富む西欧諸国に入り込んだ基督キリスト教は、表面は一神でありながら内実はいつの間にか多神教に変化した。
札幌まで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
即ちきた仏教に接し、陽明学に接し、基督キリスト教に接し、自然主義に接し、その他幾多の新思想に接した。これはまた賀すべき現象ではあるまいか。
さう思つて私は先づ宗教の方で関係してゐる“Hospitzホスピツツ”に行つた。部屋には古い基督キリストの木像などが掛かつて居り水道の設備も附いてゐた。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ましてマリヤや基督キリストに対しては頭を下げたことさえない。天帝ゼウスの教えを信じたのは俺ではなくて夏彦であった。……島太夫お前は覚えていような。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ですけど、お慈悲深い基督キリスト様は、たぶん私をお許しくださるでしょう。およそ地上に、こうも不思議と神秘に満ちた大いなる愛があるでしょうか。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
どんな苦しい事に出会ったにしろ世の中を又は人を恨まず自分のする事だけをまじめにして行くと云うのは基督キリスト信徒にかぎらず大切な事だと思った。
ローマの暴君ネロが基督キリスト教徒を獅子に喰わせて迫害する場面に、生きている本物の獅子を二匹ステージに出しました。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
芳子にはこの時雄の教訓が何より意味があるように聞えて、渇仰の念が愈〻いよいよ加わった。基督キリスト教の教訓より自由でそして権威があるように考えられた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
もちろんこれら一派の紳士しんしは腕力をほしいままにしたのでなく、基督キリストの仁と称するは決して悪き意味における婦女子の愛のごとき猫可愛がりでないと説いた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
お前は一方に崇高な告白をしながら、基督キリストのいう意味に於て、まさしく盗みをなし、姦淫かんいんをなし、人殺しをなし、偽りの祈祷きとうをなしていたではないか。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
家が古い基督キリスト教徒で英国の教育を施して居るだけに流暢な英語で元気よく政治や文学を話すのは十七歳ばかりの少年の思想及び態度とは思はれなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
敬虔な基督キリスト教徒が異教徒と同席する時のやうな、憎悪と侮蔑とのために、なるべく父の方を見ないやうに、荘田の丁度向ひ側に卓を隔てゝ相対した。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
彼のは——「我の後に來らん者は何人なりとも、己れを否みてその十字架を取り、我につゞけ」と云つた基督キリストの爲めにのみく使徒の苛酷かこくさである。
得たれば憂うる心はいささかも無い、今は天国に行く喜びに溢れて、基督キリストの為に死ぬ時ぞ、これぞ我が勝利、我が幸福——
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「敵を愛さなければいけません。『悪に敵することなかれ。人、汝の右の頬を打たば、又他の頬をもめぐらしてこれに向けよ』と基督キリストは教えていられます」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
主のつとめには種々くさ/″\たぐひあり、或は難く或は易し、或は己れの利益にかなひ、或は然らず、基督キリスト我等に語りて曰く
主のつとめ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
其様さう手軽く恋愛が成り立つものでない、其れが自分のヤマで、此の男主人公と、其の夫人——常に基督キリストの教訓を真向にかざして、博愛事業に関係してゐる
未亡人と人道問題 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
中にも目に着いたのは、一面の壁の隅に、朦朧もうろうと灰色の磔柱はりつけばしらあらわれて、アノ胸を突反つきそらして、胴を橋に、両手を開いて釣下つりさがったのは、よくある基督キリストていだ。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「その手にくぎの痕を見、わが指を釘の痕にさし入れ」て見なければ基督キリストの復活は信じないと言い張った、不信者トマスの言葉に飜訳ほんやくすることが出来るであろう。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
丹羽さんが青年会において『基督キリスト教青年』という雑誌を出した。それで私のところへもだいぶ送ってきた。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
あそこの正面の大理石階段は、十字軍の末期に、エルサレムから持って来たもので、基督キリストが、ピラトの審判を受ける時に上った階段であると伝えられています。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
マリアの像にはかような雰囲気ふんいきは絶無だ。基督キリスト教徒は、受苦聖母の前でどんな祈りをささげるのであろうか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
手段はと極端過ぎたかも知れんが目的は中々立派なものだ。我々はく御恩を荷つた身分だから今でも忝く思つてる。綱吉公は我々の為にはヱス基督キリストだ子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
人間は利害関係だけでも本当に分かっていれば、むちゃな事は出来ない。基督キリストの山の説教なんぞを高尚なように云うが、あれも利害にうったえているのですからねぇ。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)