国許くにもと)” の例文
旧字:國許
国許くにもとのほうはどういうぐあいのものか、そこは種々いろいろとなにもあるだろうが、自分もいちどはいってみたいと思うが、どんなものか」
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ちとにわかだが、それがしは今日ここを立って、美濃みの国許くにもとへまかり越え、その足ですぐ安土あづちへ伺い、信長公の御処分をうけようと思う。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一度クロープ性肺炎にかゝり発熱して血痰けつたんが出たりした時、女が私に内証で国許くにもとに報じ、父が電報で上京の時間まで通知して来たが
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
一種の人質ひとじちとなって多年江戸に住んでいることを余儀なくされた諸大名の奥方や子息たちは、われ先にと逃げるように国許くにもとへ引きあげた。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
国許くにもと之儀は、いよいよ稠敷きびしく仰渡候由候処に、せしめ違背密々呑申者共有之、後には相知、皆死罪に為仰渡由候云々。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
こんなわけで、氏は上京後はさしたる苦労もなく一家をすに至り、国許くにもとより妻子を招き、まず順当に今日に至ったのである。
道中かかることの万一にもと、丹後守が心添えして附けられたものを、まだその国許くにもとを離れない先にこの有様では、なんと申しわけが立つ。
米兵らが占ひによつて知りたいことは、大抵「いつ頃に帰国できるだらう……」とか、「国許くにもとにゐる恋人はどんな風にくらしてゐるだらう……」
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
これはあるじの国許くにもとから、五ツになる男のを伴うて、この度上京、しばらくここに逗留とうりゅうしている、お民といって縁続き、一蒔絵師あるまきえしの女房である。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殿「これ富彌控えて居れ、一々咎めるといかん、うん成程、武州の者で、長らく国許くにもとへ参って居ったか、其の方は余程力は勝れてるそうじゃの」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
遠藤の父親が、国許くにもとから出て来て、仮葬かりそうを済ませたのが、やっと今日の午後のことで、部屋の中には、彼の持物が、まだ荷造りもせず、置いてあるのです。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
平生へいぜい朋友等無之候えども、大徳寺清宕和尚せいとうおしょうは年来入懇じっこんに致しおり候えば、この遺書国許くにもと御遣おんつかわし下されそろ前に、御見せ下されたく、近郷きんごう方々かたがたへ頼入り候。
老刀自ろうとじが一本の書状をさし出して、これを読んでみるようにとのことである。国許くにもとの妹からの来書である。
その時から、武士は生活の目的めあてを変へねばならなかつた。もう自分には探し求める人がなかつた。国許くにもとへ帰つても、仇敵を討たなかつた彼は仕官出来ないだらう。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
日本の女で馬来マレー半島に住んでゐる仏蘭西人のめかけが、ある時国許くにもとに送つてらなければならぬ筈の金銭かねの事で心配してゐると、そこへ瓜哇の魔法使が通りかゝつて
妾と夫婦の契約をなしたる葉石は、いうまでもなく、妻子さいし眷属けんぞく国許くにもとのこし置きたる人々さえ、様々の口実を設けては賤妓せんぎもてあそぶをはじとせず、ついには磯山の如き
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
干菓子のようにからびた教育を、女庭訓おんなていきんとするようになってから、彼女たちに代ったものはなんであったか、大名たちのしも屋敷や国許くにもとにおけるめかけ狂いは別として
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それも不自由しないだけの金は国許くにもとから送ってくるし時間の束縛の多い職務に極めて物臭ものぐさであった私が選んだ地位だけあって、収入は多くないが至って呑気なものであった。
微笑 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
その間には一時国許くにもとからの送金が絶え、生活に困ってホテルのコックやボーイまでやったことがあり、その外にも、又油絵に戻って見たり、建築の設計に手を出して見たり
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
国許くにもとから母と妹とが来たので狭くなったからです。東片町は畠の中の粗末な普請です。庭先に大工の普請場があって、終日物音が絶えません。新築がつぎつぎに出来るためでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
追放同様の身と相なり候にり、一先ひとまず国許くにもと立退たちのきたきかんがえなれば、四、五日厄介になりたき趣を頼み候処、心好く承知致しくれ候故、ゆっくり疲労を休め、しまの衣服、合羽かっぱなど買求め候得そうらえども
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこがゲーペーウーの秘密会合所と知らないで勤めているところを、団員をよそおって入り込んでいた帆村探偵に助け出され、この国許くにもとの磯崎へ、送りかえしてもらったことを覚えていられるだろう。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを発見したのは当時十歳で国許くにもとにいた安雄のいたずらの手柄ともいうべく、彼が土蔵の天井裏に這い上って、妙な包み物が梁にくくりつけてあるのを見つけ、それを取り下ろして調べて見ると
それに田辺の姉さんは横浜の店の方から激しく働いたからだを休めに帰って来ていたし、お婆さんの側には国許くにもとから呼び迎えられた田辺の親戚の娘も来て掛っていたし、留守宅とは言っても可成かなり賑かで
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ちょいと兄の所まで——国許くにもとの兄が出て参りましたから。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「身どもの国許くにもとのことででもござるのか」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「ああ」と庄野は首をかしげた、「そんなことだったかな、私はずっと江戸詰だったから、国許くにもとのことは記憶がうすれてしまってね」
燕(つばくろ) (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
平素からおおやけの事は、何も云わない良人でございますから、この度もいつもの通りに国許くにもとまでというただけで、立って参りました。
ははは、この大将が、はるばる国許くにもとから女を追っかけて来たんだ、そうして後生だから一目会わせてくれという頼みよ。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
不面目ふめんもくゆゑ、国許くにもと通知つうち無用むよう、と当人たうにんかためたものゝ、はいやうで、とばかりで旅籠屋はたごやではましてられぬ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さては彼、東京に永住せんとするにやあらん、棄て置きなば、いよいよ帰国の念を減ぜしむべしとて、国許くにもとより父の病気に托して帰国をうながし来ることいとしきりなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
父親は七十の古希に、国許くにもとで同士集まって、歌仙であったか、百韻であったか、俳諧を一巻き巻いた。それを書物にして配りたいという。書物は『八重桜』といった。
過日あの没落騒動ぼつらくがあった時に、おなじ横浜に早くから目をつけて来たが、茂木氏のような運をつかみ得ないで、国許くにもとに居るときよりは、一層せちがらい世を送っている者たちはこう言った。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その内に新しい奥様を、お国許くにもとからお迎えになりました。これということもない、おとなしやかなお方でした。種々の先生が来られます。お花、お茶、お香、双六すごろくの先生などまで来られます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
さうすれば国許くにもとへ帰つて殿様に再び仕へることが出来る……。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
彼等は美作の国許くにもとから来る若殿、大助さまをここまで迎えに出たもので、しかもかなり微妙な役目さえ帯びて来ているのである。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
沢庵が代って答えると——それならば今、甥の兵庫と共に、国許くにもとへ行って、石舟斎の看護みとりをしてくれている筈——と宗矩が話し
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから足掛け三年もぐずぐずしていたが、いよいよ帰京することに決して国許くにもとを出発し、途中小倉に立寄った。鶴見はここで久しぶりに往年の少女と遇うことになった。
やがて国許くにもとへ立帰る侍が、大路の棟の鬼瓦をながめて、故郷さとに残いて、月日を過ごいた、女房の顔を思出おもいいで、たえて久しい可懐なつかしさに、あの鬼瓦がその顔に瓜二つじゃと申しての
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なお、国許くにもとから月々なり、或いは相当の時分に為替かわせを組んでよこすか、または人をつかわす故、何かについて不足があらば申し越してもらいたい……証文? 左様なものは要らぬ。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
父と、亡くなった母と、侍医と、取上げた老女、江戸国許くにもとの両家老、そのほかに決して知っている者はないということであった。
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……源八、そういうわしの抱負だから、そんな物は、この身に不要だ。国許くにもとへ持って帰って、お寺の過去帳とでも一緒にしまっておくがいい
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『で、ござりまするが、ねんのために、お国許くにもとへおらせにりましては如何いかゞなもので、』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もしや御老女様が遠方の国許くにもとへでもお帰りになってしまったあとは……と、それとなく身の行末に多少の不安を述べたのを、与八は耳にハサんでは来ましたが、もともと鈍感な男のことですから
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
国目付というのは幕府から外様とざま諸侯の国許くにもとへ派遣される監察官で、定員は二名または三名、任期は半年から一年の交代である。
あだこ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は、先頃まで京都に在って、大番おおばんを勤めていた。その任期も終ったので、今は久しぶりに国許くにもとへ帰って来たところだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……その人物は御政治むきに私曲しきょくがあったというお疑いで、いまお調べが始まっているため、極秘で国許くにもとへ送られて来る。
晩秋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「……なれど、今さら、国許くにもとへも帰れぬのであろうが、悪因悪果というもの、無二斎どのも、地下で泣いておろうわい」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は三年まえ、江戸で藩公にみいだされ、二百石十人扶持で国許くにもとへ来たが、三十一歳でまだ独身だったし、女に手を出すようなことはなかった。
ひとごろし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
兵庫となると、ただいたずらに、情がみだれて、祖父の死に顔だの、国許くにもとの家来たちの嘆きだの——そうしたものばかり見えて時務じむの判断はつかなかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)