動揺どよ)” の例文
旧字:動搖
動揺どよめき立ち、それと共に、敵の馬印、金御幣も、った奪った、と揉み合うばかり喊呼かんこしてやまなかったが、ここで、困る問題は
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして、訶和郎の馬を混えた牡鹿の群の中へ突入して来ると、鹿の団塊は更に大きく混乱しながら、吹き上げる黒い泡のように頂上で動揺どよめいた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
と言う恐ろしい動揺どよみと共に、右往左往する人の流れが、唯サロン中に渦を巻いて、空しい努力を続けて居ります。
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
薄っぺらな色彩のバラック街……眼まぐるしく飛び違う車や人間……血走った生存競争……そんな物凄い刺戟や動揺どよめきをうけた柔かい少年少女の脳髄は
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
この意外なる光景ありさまきもひしがれて、余の人々はただ動揺どよめくばかり、差当りうするという分別も出なかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
汽車の動揺どよみに留南奇とめきが散って、友染の花の乱るるのを、夫人は幾度いくたびも引かさね、引かさねするのであった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聴水がうたへば黒衣が舞ひ、彼が篠田しのだの森をおどれば、これはあり合ふ藤蔓ふじづるを張りて、綱渡りの芸などするに、金眸ますます興に入りて、しきりに笑ひ動揺どよめきしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
と数名の大学生が人浪を押分けつゝ余等の側を通りぬけんとして、無作法に余等のかほを眺めて、「異人馬鹿!」と叫んだ、其処らの者一同之に声を合せて動揺どよめく。
露都雑記 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
陸には女の甲高かんだかな笑声が断続して起つて、村全体が何となく動揺どよめいて居る様に思はれた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
ところへ喬朝たかともの使いが来た。内外には、京極方の侍が、何十人となく後を慕って来たらしく、物々しい動揺どよごえが奥まで聞こえてきた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
渦巻く焔と煙の中に、死の苦闘を続ける東海坊の浅ましい姿を眺めて、動きもならず動揺どよみ打つのです。
そうして、奴国の宮を、吹かれた火の子のように八方へ飛び散ると、次第にまばらに拡りながら動揺どよめいた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
かかる群集の動揺どよむ下に、冷然たる線路は、日脚に薄暗く沈んで、いまにはぜが釣れるから待て、と大都市の泥海に、入江のごとく彎曲わんきょくしつつ、伸々のびのびと静まり返って
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
団子坂へ行く者かえる者が茲処ここで落合うので、処々に人影ひとかげが見える、若い女の笑い動揺どよめく声も聞える。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
この臆病者等がひるんで動揺どよめく醜態ざまをじろじろ見廻して
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
四面数万の見物人は鯨波げいはを作つて動揺どよめき渡る。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とたんに、蜂の巣でも突いたように、わっと、大勢の空気が動揺どよめいた。ふた声、三声、殺気ばしったことばが、そこで、つんざいたかと思うと
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何だ。」「何者だ。」「野蛮きわまる。」「狂人きちがいだ。」と一時に動揺どよめく声の下よりほがらかに歌うものあり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ドッと動揺どよみ打つ群集の声に呑まれて、お美乃のか弱い声ももう聞えません。あなやと思う時でした。
たちまち、動揺どよめく人波の点々が、倒れ、跳ね、おどり、渦巻くそれらの頭上で無数の白い閃光せんこうが明滅した。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
物々しい動揺どよめきが、六坊山のいただきにき、つづいて、号令、叱咤しった、武具の音となって、山下の道へながれ出した。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
動揺どよめく野次馬。それを掻きわけて静かに入って来たのは、四十前後の立派な浪人者でした。
さしずめ我等は綱、金時、得右衛門の頼光らいこう中央まんなかにして、殿しんがり貞光さだみつ季武すえたけ、それ押出せと五人にて、棍棒よりぼう、鎌など得物を携え、鉢巻しめて動揺どよめくは、田舎茶番と見えにけり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
素朴そぼくな感動は、すぐ動揺どよめきを起した。夜の明けたばかりの街々は、そのどよめきに、日頃にない光景を作った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな川でも、動揺どよみにゃ浪を打つわ、濡れずば栄螺さざえも取れねえ道理よ。わしが手をのばすとの、また水に持ってかれて、手毬はやっぱり、川の中で、その人が取らしっけがな。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小屋を埋むる客は、この刺戟的な情景シーン動揺どよみを打ちました。
ワーッ、という動揺どよめきに、上甲板の醜い喧噪けんそうは、一時に押し黙って、ひとみを吊り、眉をひそめ、生唾なまつばをのんだ。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふらりと廊下から、時ならない授業中に入って来たので、さすがに、わっと動揺どよめいたが、その音も戸外おもての風に吹攫ふきさらわれて、どっと遠くへ、山へつかるように持ってかれる。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
竹矢来を囲む数千の群集は、ドッと動揺どよみを打ちました。
と、動揺どよめきの中にささやきが流れた。家光も、興につつまれて、初めて満足そうな気色に見えた。そしてなおも
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
キャキャとする雛妓おしゃく甲走かんばしった声が聞えて、重く、ずっしりと、おっかぶさる風に、何を話すともなく多人数たにんずの物音のしていたのが、この時、洞穴ほらあなから風が抜けたようにどっ動揺どよめく。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
動揺どよみ打つ群衆
わっ——と動揺どよめいた後は、もう誰彼の見わけもつかなかった。小さな旋風つむじの中に、かたまり合って吹かれてゆく羽蟻はありの群れみたいに乱闘が始まったのだ。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うしろなるも、左も右も、人波打ちつつどやどやと動揺どよみ出づる、土間桟敷に五三人、ここかしこに出後でおくれしが、頭巾かぶるあり、毛布けっとまとうあり、下駄のつつみ提げたるあり、仕切の板飛び飛びに越えてく。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遠い所の動揺どよめきは、吉岡方のうろたえを同時にわらったように響いた。武蔵の影は、とたんにもう原の西側のはずれから青い麦畑にとび降りていたのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
静かに歩を移して、もう少しでとおりへ出ようとする、二けん幅の町の両側で、思いも懸けず、わッ! といって、動揺どよめいた、四五人の小児こども鯨波ときを揚げる。途端に足を取られた男は、横様にはたとつちの上。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこには、佐久間信辰のぶときの守兵がいる。信長の姿を迎えた刹那、砦の兵は、わッと声をあげた。歓呼ではない、半ば、泣いて揚げたような悲壮な動揺どよめきだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
室内は動揺どよむ。嬰児こどもは泣く。汽車はとどろく。街樹なみきは流るる。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、期せずして、万歳をさけぶと、その動揺どよめきに和して、味方の全軍も、いちどに勝鬨かちどきをあげた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おけらの虫は、もじゃもじゃもじゃと皆動揺どよめく。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこのみでなく、湖岸の全味方のうちから、何事かわあッと歓声に似たような動揺どよごえがあがった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一座残らず、残念ながら動揺どよめいた。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
心の平衡へいこうはとれていない。何者かと問えば、何者か? と、同じように動揺どよめき惑うばかりだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
味方の大捷たいしょうに、曹操をはじめ、十八ヵ国の諸侯は本陣に雲集して、よろこびを動揺どよめかせていた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
動揺どよめいた大竹藪や、木蔭や岩蔭や、あらゆる物蔭からの湧くように躍り出した三道の伏勢が
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はてな? この五月の中旬頃には、義龍どの御病死と聞えて、動揺どよめいたことがあったが」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城楼や城門でただならぬ動揺どよめきがわき揚がったとおもうと、鉄甲、花やかな味方一騎が
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのことそのこと——とばかり動揺どよめくのだった。加茂川かもがわに沿って、灯の多い街だった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たちまち、乱離らんりの白刃に、わッと揚がる動揺どよごえ、不具の虚無僧と女虚無僧は、背中合せに、互の身をかばい合いながら、七、八人の荒くれ武士を向うに廻して、きっと構えをつけ澄ます。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
声としては出ない一種の殺伐さつばつ動揺どよめきが、その群れの上にみなぎりわたった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)