つぶ)” の例文
だから彼を批評するにはつぶさにその道程に沿って歩いて見ることによって、彼が今や赴こうとしている方向を割り出さなければならぬ。
思想としての文学 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
「自動車のお蔭で大変時間が余ったね。今度は徒歩かちつぶさに下情を視察するんだから、少し涼しくなるまで寛ろごうじゃないか?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
遠く南洋の島々へ落武者となって悠久のねぐらを定め、彼地の土人が即興の舞踊をつぶさに写したらんか、すなわちこれと思わるるほど、哀しくおかしい。
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)
し并せて返納せば、益々ますます不恭にわたらん。因って今、領受し、薄く土宜どぎ数種をすすめ、以て報謝を表す。つぶさに別幅に録す。しりぞくるなくんば幸甚なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そして割合に給料があがらない。サア事ダ、私の多事多難はこれがスタートして、それからが波瀾重畳、つぶさに辛酸をめた幾十年を大学で過ごした。
丁度今回大阪でも近作陶鉢の会を催し、展観することになりましたから、つぶさにご覧を願いましてお心付きの点を披瀝ひれきして頂きたいと思うのであります。
近作鉢の会に一言 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
道庵先生の従者としてつぶさに、その幾つかを経歴して来たのだが、ついいま参詣した蝉丸神社せみまるじんじゃというのも、あの辺がれっきとした古来の関だと聞いて来たが、別段
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
寡婦言う、とこれを以てにあらずと、すなわちつぶさに情を以て告ぐ。阿那律言う、姉妹よ我等はまさにこの悪業をすべからず、世尊の制法もまたゆるさざる所なりと。
我がリヒヤード・ワグネルも亦、愛妻ミンナと愛犬ルツスをひきゐ、飄然へうぜんとして祖国を去つて巴里パリーに入るや、淋しき冷たき陋巷ろうかう客舎かくしやにありてつぶさに衣食の為めに労苦をめぬ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かさね夫婦の語らひ迄約せし上は貴殿とても一方ならぬ御中なりとことばはしに長庵が曲輪くるわの樣子つぶさにはなし又此程は絶て遠ざかられし故小夜衣は明暮あけくれ思ひわづらひて歎息かこちうらみし事などを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
たゞすぢでもいはして男瀧をたきすがりつかうとするかたち、それでもなかへだてられてすゑまではしづくかよはぬので、まれ、られてつぶさに辛苦しんくめるといふ風情ふぜいはう姿すがたやつかたちほそつて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
将門背走相防ぐあたはざるの間、良兼の為に人物を殺損奪掠さつそんだつりやくせらるゝのよしは、つぶさに下総国の解文げもんに注し、官に言上ごんじやうしぬ、こゝに朝家諸国にせいを合して良兼等を追捕す可きの官符を下されをはんぬ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
またせめては先生の生前せいぜんにおいて、予がいかにこの感泣かんきゅうすべきこの感謝かんしゃすべき熱心ねっしんと、いかにこの欣戴きんたいかざる衷情ちゅうじょうとをつぶさにいもいでずして今日に至りたるは、先生これをなんとか思われんなどと
つてかたはらなる卓上たくじやう一面いちめん海圖かいづ押擴おしひろげ、つぶさに緯度ゐどはかりつゝ
受験生の境遇に真正ほんとうの同情が出来るのはつぶさに受験生の経験を嘗めた者ばかりだ。兄さんの俊一君は常に二郎君の為めに執成とりなし役を勤めている。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そして割合に給料が上らない。サア事ダ、私の多事多難はここからスタートして、それからが波瀾重畳、つぶさに辛酸を嘗めた幾十年を大学で過ごした。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
みぞれの一夜中の島公会堂で大辻司郎君と乱闘したことはじめ、帰京後何年かの落語家生活までをつぶさに書いてそれで前後四回に纒め上げるつもりでいたところ
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
其風采や質樸無難にしてつぶさに平凡の極致に達し、平和を愛し温順を尚ぶの美徳余つて、妻君の尻の下に布かるゝをも敢て恥辱とせざる程の忍耐力あり、現に今このS——村に於ては
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ただ一筋ひとすじでも巌を越して男滝おだきすがりつこうとする形、それでも中をへだてられて末まではしずくも通わぬので、まれ、揺られてつぶさに辛苦しんくめるという風情ふぜい、この方は姿もやつかたちも細って
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つぶさに物語り彼忠兵衞を證據人とし私し駈込願かけこみねがひ致し度と涙をうかめて頼みける容子ようす貞心ていしんあらはれければ長助は感心なし今度忠兵衞がはからずお前方に過去すぎさりたる一けん口走くちばしりしはお光殿の貞心ていしん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と安川君は数ヵ月の経験から尚おつぶさに要領を話してくれた。二人は大学にいた頃は通り一遍の交際だったが、実社会へ出て机を並べると事が早い。間もなく懇親を深めた。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
僕は中学校へ入る時も二度失敗しくじっている。受験苦というものをつぶさに嘗めた。それが皆自分の実力の致すところでなくて、ひとえに菊太郎君のお蔭だと思うと、今更恨めしくなる。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と三好さんは書斎から持って来て、つぶさに内容を説明してくれた。何処までも先生だ。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
尤もその間にお母さんは高円寺へ抜け駈けをしてつぶさに打ち合せたのである。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)