井桁いげた)” の例文
金蔵の南の方に用水井戸がありますが、井桁いげたが栗材で、これは石に縁がなく、雨樋あまどいは水に縁があっても、あかですからかねに縁を生じます。
ちやんと井桁いげたを組んだ、昔風の撥ね釣瓶である。おそらくこの庭園の一部は、むかし何か茶室などのあつた名残りなのではあるまいか。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
五百の父山内忠兵衛は名を豊覚ほうかくといった。神田紺屋町に鉄物問屋かなものどいやを出して、屋号を日野屋といい、商標には井桁いげたの中に喜の字を用いた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ここをご覧、この一点を! 三の丸と二の丸の境い目を! 井桁いげたがあろう? 半分の井桁が! こいつが大変なしるしなのだ」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
井桁いげた西郡にしごりら重職の懇請によって招かれた藩の賓客であり、経典はもとより儒学、政治、経済にもくわしく、なかなか非凡な人物なのですが
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
井桁いげたに結んだ丸太担架たんかに五体をくくしつけられた武行者の体は、かつて彼自身が景陽岡けいようこうでしとめた大虎そッくりな恰好にされ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
井戸がえもしたなれど、不気味じゃで、誰も、はい、その水を飲みたがりませぬ処から、井桁いげたも早や、青芒あおすすきにかくれましたよ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十畳の間、真中に紙張しちょうが吊ってあって、紙張の傍に朱漆しゅうるし井桁いげたの紋をつけた葛籠つづらが一つ、その向うに行燈あんどんが置いてある。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
えらいだろう。ところが一つえらくないことがあるんだ。何でも何代目かの人が、君に裏切りとかをしたということだ。家のもん井桁いげたの中に菊の紋だ。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
浴衣ゆかた潮色うしおいろの地に、山の井の井桁いげたと秋草とを白で抜いたものだったが、葉子にもよく映るような柄合いであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
枝を分けて覗いて見ると、その中心に古井戸らしく、苔蒸こけむした石の井桁いげたがある。今は使用していないけれど、この淋しい孤島には立派過ぎる程の井戸である。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
井桁いげたの内側にちょうど足場になるような具合に、ところどころ石が欠けて、引っかかりの穴ができている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
少し離してみると、薄赤色に見えるほど細く井桁いげたを組んだり、七宝しっぽうで埋めたりするのが特徴といえる。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
木片もくへん井桁いげたにくみあわせたいかだのよなものであった。そのうえになにが入っているのかはこがのっている。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
少し離れて団平船だんべいぶねと、伝馬船てんませんそうとが井桁いげたに歩び板を渡して、水上に高低の雪渓を慥えてうずくまっている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
最初に井桁いげた枠をつくり、それに丸の儘の樹幹の根の方をさし込み、井桁枠に石をみたしてこれを押える。かくて次々に支柱を組立て、最後にその周囲に石垣を築く。
東と北に一間の下屋げやをかけて、物置、女中部屋、薪小屋、食堂用の板敷とし、外に小さな浴室よくしつて、井筒いづつも栗の木の四角な井桁いげたえることにした。畑も一たん程買いたした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
こんなつまらない事を考えたりする。「駿河町するがちょう」の絵を見ると、正面に大きな富士がそびえて、前景の両側には丸に井桁いげたに三の字を染め出した越後屋えちごやののれんが紫色に刷られてある。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あの納屋や、水肥みずごえ小屋や、または井桁いげたの小窓があけてある便所すらも、形が美しいではありませんか。私は特に朝鮮を旅する毎に、あの民家に茶室の美を見ない場合とてはないのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
澄子は、いちいちうなずきもせず、黙ってふくれッ面をして、相手に顔をそむけていたのだが、黒地に思い切り派手な臙脂えんじ色の井桁いげた模様を染め出した着物が今夜の彼女を際立って美しく見せていた。
銀座幽霊 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
大きな井桁いげた、堂々とした石の組み様、がっしりしていて立派であった。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
鳶口とびぐち、大釘など、役にたつものがいろいろあったので、それも悉皆しっかい取りおさめ、船板は釘からはずして、入江の岸に井桁いげたに積みあげておいたが、急に高波が来て、跡形もなくさらって行ってしまった。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
井桁いげたの紋じるしを黒くあらわしたは彦根ひこね勢、白と黒とを半分ずつ染め分けにしたは青山勢、その他、あの同勢が押し立てて来た馬印から、「八幡大菩薩はちまんだいぼさつ」と大書した吹き流しまで——数えて来ると
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わか水やよべより井桁いげた越せる音 孚先
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
平次は巌乗がんじょう井桁いげたに手を掛けて覗いて見ました。この辺の井戸ですから石を畳み上げて立派には出来ていますが、ひどく浅い様子です。
二の丸と三の丸の境い目の、濠の一所にポッツリと、半分にち切れた井桁いげたのようなものが「キ」こんな塩梅あんばいに描かれてあった。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こちらの端から向うの端まで眺めて見ると、随分と長い豆の山脈ができ上っていた。その真中を通して三カ所ほどに井桁いげたに似た恰好かっこうの穴が掘ってある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
工学士は、井桁いげたに組んだ材木の下なるはしへ、窮屈きゅうくつに腰をけたが、口元に近々ちかぢかと吸った巻煙草まきたばこが燃えて、その若々しい横顔と帽子の鍔広つばびろな裏とを照らした。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
散ったはなびらは溢れる水に乗ってくるくるとまわり、やがて追いつ追われつ井桁いげたの口から流れだしてゆく。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それを知るべく小半時こはんときついやしてしまったのですがついに解決がつかないで、そのままありの這うように井桁いげた葛籠つづらの方へ寄って、やっと片手をその葛籠へかけました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
水は井桁いげたの上に凸面とつめんをなして、盛り上げたようになって、余ったのは四方へ流れ落ちるのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
井楼の様式もいろいろあるが、ふつうは巨材を井桁いげたに組み上げ、それを何十尺の高さにまで築いてゆく。——その上から城中を俯瞰みおろして攻撃基点の優位を占めるにある。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お鈴は柘榴木、石榴の古木は、挽いて井桁いげたに張れば汚物は吸わず水を透ますとか。
私はいかめしい石の井桁いげたを思い出した。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すなわち素晴らしい財産が、千代田城中の一ヵ所に——ここだよここだよ、井桁いげたの地点だ! ここに隠されてあろうってものさ。理由は……
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
房楊枝ふさようじ井桁いげたに挟んで、ガボガボとうがいをやった平次、一向物驚きをしない顔を、ガラッ八の方に振り向けました。
坊主は、欄干にまが苔蒸こけむした井桁いげたに、破法衣やれごろもの腰を掛けて、けるが如く爛々らんらんとしてまなこの輝く青銅の竜のわだかまれる、つのの枝に、ひじを安らかにみつゝ言つた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私の家の定紋じょうもん井桁いげたに菊なので、それにちなんだ菊に井戸を使って、喜久井町としたという話は、父自身の口から聴いたのか、または他のものからおすわったのか
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
薄い赤銅しゃくどうの延板を使って、どちらにも無雑作に井桁いげたたちばなの紋が、たたき出しで浮かしになっている。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは黒の井桁いげたの紋付の羽織と着物を重ねていたが、かおと頭は黒縮緬くろちりめん頭巾ずきんで隠していたから。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
諏訪すわ温泉町ゆまちは、ちょうど井桁いげたに家がならんでいる。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
坊主は、欄干にまが苔蒸こけむした井桁いげたに、破法衣やれごろもの腰を掛けて、けるがごとく爛々としてまなこの輝く青銅の竜のわだかまれる、つのの枝に、ひじを安らかに笑みつつ言った。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
光子は空井戸の側へ行って、そのあや井桁いげたに手をかけたまま、幾百尺とも知れぬ底を覗いて居ります。
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「二階の下に飛石が三つばかり筋違すじかいに見えて、その先に井桁いげたがあって、小米桜こごめざくられ擦れに咲いていて、釣瓶つるべが触るとほろほろ、井戸の中へこぼれそうなんです。……」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「銀簪を頭へくっつけ、赤と黒との井桁いげた模様の帯を、だらりに結んでいるあの男だ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まず井桁いげたの間というのへ入る。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
娘は井戸の上へ、釣瓶つるべのように引上げられて、ちょうど権三の眼の前、井桁いげたの上に横たえられました。
……その仔細しさいを尋ぬれば、心がらとは言いながら、さんぬる年、一ぜん飯屋でぐでんになり、冥途めいどの宵を照らしますじゃ、とろくでもない秀句を吐いて、井桁いげたの中に横木瓜もっこう
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庭には梅の古木がななめに井桁いげたの上に突き出たりして、窮屈な感じのしないほどの大空が、縁から仰がれるくらいに余分の地面を取り込んでいた。その庭を東に受けて離れ座敷のような建物も見えた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
半開の桜の下に、ハネ釣瓶つるべが見えて、井桁いげたの下に、何やら白いものがうずくまっております。