主従しゅじゅう)” の例文
旧字:主從
甥は何と思って清の自慢を聞いていたか分らぬ。ただ清は昔風むかしふうの女だから、自分とおれの関係を封建ほうけん時代の主従しゅじゅうのように考えていた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其の時分の書生のさまなぞ、今から考えると、幕府の当時と同様、可笑おかしい程主従しゅじゅうの差別のついて居た事が、一挙一動いっきょいちどう思出される。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
よくよく凝視ぎょうしするとおどろいたことには、それが、たったいま、刑場けいじょうのなかで首をおとされたはずの忍剣にんけん龍太郎りゅうたろう伊那丸いなまる主従しゅじゅう三人。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主従しゅじゅう何事なにごとがはじまったのかとおもっておもわずちかけますと、そのときすぐまえ草叢くさむらの中で、「こんこん。」とかなしそうにこえこえました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
モコウは富士男の家につかわれている小僧こぞうで、昔ふうにいえば、主従しゅじゅうの関係である、だが富士男は、モコウをけっして奴隷的どれいてきに見なしたことはない。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
義務そのものは絶対的であるとしても、個人がこれに対すれば軽重けいちょう本末ほんまつ主従しゅじゅう大小だいしょう遠近えんきん等によりて関係的相違あり、決して絶対的に同等なものでない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ぐっとおこのの手首てくびをつかんだしん七には、もはや主従しゅじゅうさかいもなくなっていたのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
人間にんげん世界せかいは、主従しゅじゅう親子おやこ夫婦ふうふ兄弟きょうだい姉妹等しまいなど複雑こみいった関係かんけいで、いろとりどりの綾模様あやもようしてりますが、天狗てんぐ世界せかいはそれにきかえて、どんなにも一ぽん調子ちょうし
夜道よみちだ。主従しゅじゅうというかたッ苦しさもいつの間にかれて、一同、気やすな心もちだった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
機嫌きげんをとるために負けてさしあげるのは主君をあざむくへつらい武士です。風上かざかみにおけん。しかし、内藤君、君心あれば臣心あり。すべて君臣主従しゅじゅう貴賤きせん上下しょうかの別をわすれるものは乱臣らんしんぞく子ですぞ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
来世らいせの平安を祈りましょう。主従しゅじゅう三世さんぜと申します。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
はたして、伊那丸の主従しゅじゅうは、らえられもせぬじぶんたちが、きょう刑場けいじょうられるといううわさを聞いて、奇異きいな感じに誘惑ゆうわくされた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて悪右衛門あくうえもん主従しゅじゅう和尚おしょうさんにわかれをげて、またもりの中にすっかり姿すがたえなくなりますと、和尚おしょうさんは、そのときまで、ぼんやりゆめをみたようにすわっていた保名やすなかって
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
歩き出していた主従しゅじゅうが、一緒にちょっと振り返ったが、先に立つ老武士の顔を見た喜左衛門は、にわかに周章狼狽しゅうしょうろうばいして、いきなり女房と鍛冶富の手をぐっととると、声を忍ばせて続けざまに
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかるべく床几しょうぎこしろした主従しゅじゅうにんは、それからそれへと際限さいげんもなく水入みずいらずの昔語むかしがたりにふけりましたが、なににしろ現世げんせから幽界ゆうかいへかけてのなが歳月としつきあいだに、つもつもったはなしたねでございますから
おそらくは、主従しゅじゅうの軍議もこれが最後のものであろう。軍議というも、守るも死、攻むるも死、ただ、その死に方の評定ひょうじょうである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わあッ。」とときのこえげて、桃太郎ももたろう主従しゅじゅうが、いさましくおしろの中にんでいきますと、おに大将たいしょうおおぜいの家来けらいれて、一人一人ひとりひとりふとてつぼうをふりまわしながら
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
官兵衛としては幼少からこの与次右衛門にはよくついて、はなをかんで貰ったり背に負われたり、ほとんど、主従しゅじゅうという念すらなく我儘をして来た者なので、いまだに彼のすがたを見ると
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これで牛若うしわか弁慶べんけいは、主従しゅじゅうのかたい約束やくそくをいたしました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
主従しゅじゅうのあいだがらで、到底、隔絶かくぜつしているほどな身分の差はあったが、姫山の若き殿は、馬を打って、飾磨あたりへ来るたびに、必ず自分の家に立寄り、父の与次右衛門を、じいやじいやと慕い
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)